最下級冒険者、絡まれる
おっ
冒険者になってから三か月ほど経った。
基本は住人からの依頼、そして時偶街の外に出てはせっせと物作ってそれを売る作業を続けていた。おかげで蓄えも着実に貯まっている。まだまだウハウハとはいかないけどな。
今日もバフのおっちゃんやローザさんの世話になった後、お宿に戻ろうとしていた。
平穏の終わりは突然に
手垢のついたこのフレーズ、実際に体験するとは思わなかった。
「おい、テメェ聞いてんのか、あ?」
シンド、只今絶賛絡まれ中。
見た目は大体二十代くらいだろうか。
悪意に満ちた瞳とは正にこの事かと手をつきたくなるほどの愉悦に富んだ瞳。
もちろん、性別は男。
そして無駄に整った顔立ち。私刑。
「聞いてますが」
「だったら、カネ出せよ。先輩冒険者としての心構えを教えてやったんだからよ?」
そう、この自称優しい先輩冒険者様、バフのおっちゃんに物売った後に絡んで来て勝手に何か喋り始めたのだ。
その内容と言えば、「未だに下位十級のお前はクズだ。甘えてる」「さっさと冒険者を辞めるべき」「でもどうしてもと言うならば自分が鍛えてやっても良い」「自分はこんなに凄い」等々理解に苦しむものだった。漸く喋り終わったかと思えば、いきなりの金銭要求。コイツの頭の中はどうなっているのだろうかと、真面目に疑問だ。
「何故?」
「はぁ?テメェ俺の話し聞いてるっつったよなあぁぁ?中位九級の俺が、下位十級のお前に、ありがたぁぁい話してやったろ?だったら払うべきモンがあるだろぉよ!」
理解した。
これはあれか、当たり屋的な何かか。
冒険者辞めろ云々は取っ掛かりで要は金が欲しかっただけっぽい。
「今の話の何処にお金を払う価値があるのですか?」
「テメェ、冒険者にとって情報は命綱だろぉがよ!そんなのも分かんねぇとはやっぱテメェはカス冒険者だな!」
いやいやいや。
確かに情報ってのは大事だよ?
数々の主人公たちが口を酸っぱくしてに言ってるし。
でもね、情報ってのはそれに見合う価値ってもんが相対的に付けられる訳。
で、肝心のアンタの話した情報は子どもの作った冒険譚ほどの価値もない、というより比べるのも烏滸がましいんだよ!
とは、言いたくても言えない元日本人。
いや、小心者シンド。
それでも、一言言ってやらんと気が済まんな。
「いえ、ゴミクズみたいな情報を品に出しておいて、偉そうに踏ん反り返る輩よりかは幾分マシじゃないですかね?」
「あ?お前、今なんつった?」
表情が変わった。
こっちを馬鹿にしていた顔が真顔に。
「だぁかぁらぁ~、そのクズ冒険者に金集ってる暇があったら黙って仕事しろっつってんの。あ、金がないから集っるのか。あ~恥ずかし~ブフフ」
大声で喧伝しながらポン、と手をつくポーズ、か・ら・の、口元隠し。
さぁさぁ、この低次元な煽りに耐えられるか?
「テメェッッ!」
やはり無理なようだ。
甘いな。こんなの小学生でもスルーできるっつの。
殴りかかって来る、えーっと誰だっけ、まぁ、いっか。
少々癪だがガードして嵐が去るのを待とう。
職員さんが気付いたら止めてくれるだろう。
手出しは駄目、絶対。
「おう、お前ら、ちょっと待てや」
ギギギ
ゆっくりと声のした方を見る。
そこには威圧感増し増しで物凄い険しい目つきの鬼がいた。
「ヒィィィ、鬼だぁぁぁぁ!」
「お前は黙れ!」
頭に拳骨喰らった。
解せぬ。
◇
鬼もといグスタフさんに連れられ俺と集り野郎はとある場所にやって来た。
グスタフさんや、逃げやしないんだから襟首掴んで担ぐのは止めてくれ。社会的に死ねる。
集り野郎は最初「放せ」とか叫んでたけど、鬼が一睨みすると、次第に静かになっていった。
鬼強し。
「お前は無意識に動くその口を止める努力をしろ」
降ろされたかと思うとガツンとまた一発。
ガルボロのおっさんといい強面のおっさんたちは手が出るのが早いんだよ、イテテ。
「グスタフさん、ここは?」
「室内訓練場だ。時間のある奴や、病み上がりの奴なんかがよく使っている。あと、偶にだが昇格試験にも使用している」
知らなんだな。
てか冒険者登録した際に説明してもらってない気が・・・
「端から端まで面倒見てられるか」
御尤もで。
お恥ずかしい。
「で、デジレの方は薄々勘付いているかもしれないが、お前たちには相対してもらう」
あいたい?
会いたい?
逢いたい?
「決闘だ」
ほえ?
けっとう?
血統?
血糖?
決闘・・・決闘!?
「なんでですか!」
何故いきなりバイオレンスな方向に舵取りを
「ギルド内で揉め事起した罰だ、主にお前に対しての、だがな」
ホワッツ!
俺は被害者だ!
「まぁ、聞け。デジレ、お前については前がある、規則通りに処理するなら罰金と冒険者級位の大幅な降格は免れることはできない。それは分かるな?」
「チッ」
この大鬼に舌打ちとは、コイツ死にたいのだろうか。
つか、デジレっていうのな。
「で、シンド、お前は被った側だとしてもあの煽りに非がないとは言い難いし、デジレも納得しないだろう」
ぐっ、確かに。
「そこで、デジレ、シンド。お前たちにはここで闘ってもらう。デジレが勝てば冒険者級位は下位一級への降格、シンドが勝ったのならば下位十級への降格とする。つまりデジレへの処罰を賭けての決闘だ」
「んなっ!」
いやぁ、天と地ですなぁ。
勝てば二階級降格で済むが、負ければ最下級へいらっしゃ~いだ。
「っざけんな!」
怒ってんなぁ。
まぁ、他人事だけど。
「何がふざけている?これでもかなり譲歩したのが分からないか?」
「何処が譲歩だ!負けたらハナからやり直しってふざけてんだろうが!」
「言った筈だ。お前は前科があると。より罰が重くなるのは当然じゃないのか?」
ああ、やっぱり問題野郎だったのか、コイツ。
まぁ、何となく想像はつくわな。
「それでもこれはやり過ぎだろうが!」
「お前がやったことのツケだろうが!ゴタゴタ管巻いてんじゃねぇぞ!」
ヒィッ
お前眠れる鬼をおこすんじゃねーよ。
「それともなんだ、お前は自分が馬鹿にしてた下位十級の此奴が怖いのか?」
「んな訳ねぇだろ!いいぜ、やってやるよ。勝ちゃあ良いんだろ、勝ちゃあ」
そんで、グスタフさんも 俺を出汁にして煽んないでくれよ。
やってることはただのマッチポンプじゃねぇですか。
そして被害は全て俺に向かうという。
「シンドも良いな?」
あっ、ハイ。
いや、待て。有無を言わさぬとはこのことかぁぁぁ!
「それじゃあ、早速やるぞ。両者位置につけ」
トボトボと所定の位置に歩いて行く。
納得いかない、正に反抗のシンド。
「おい、何やってんだ?」
「おお、デジレと【雑用】がやるんだってよ」
「おいおい、確かアイツ下位十級じゃなかったか?」
「冒険者になってから真面な依頼受けてねえってんだろ?」
「そんな奴じゃ賭けにもなんねぇじゃねぇか」
そして、何処からかギャラリーが増えている。
おい、見世物じゃないぞ。
グスタフさんを見るが、気にする素振りは見せない。
いや、ちょっとは気にして欲しい。
にしても、【雑用】ってもしかしなくても俺のことだよな?
何だよ【雑用】って、会社に一人はいそうなあだ名じゃねえか。
「へっ、テメェをぶっ潰して、すぐに中位に戻ってやる」
ふむ、反省の素振りはやはり皆無だな。
だったら、ちょっと痛い目に遭わせてもイイヨネ?
「それでは、始め!」
異世界初対人戦、スタートだ!
あれ、これってもしやテンプレと言う名の奴ではなかろうか。
ちょっとテンプレ展開。
無意識に考えが顔や口に出る主人公。




