【全自動素材変換】大先生
それでは、どうじょ(/・ω・)/
快晴。
とても素晴らしい、冒険日和だ。
そして俺は街から少し離れた林?森?兎に角、木々が生い茂った所へ来ていた。
周りを確認右左もっかい右。
「鑑定」
名前:シンド
年齢:18
性別:男
体力:満タン
魔力:ほぼ満タン
スキル:異世界言語翻訳(非表示) アイテムボックス 鑑定
ユニークスキル(非表示):全自動素材変換
さて、この一年で変わった所と言えば年齢が増えたぐらい。
不思議で絶望的で悲しくなるほどにスキルが一向に生えてこないのだ。
石を投げ続けようと。
木刀を振り続けようと。
気配を隠す練習を続けても。
な~んにも生えやしない。
これについて思い付く予測は二つある。
一つはこの世界のスキルは取得が困難であるという「厳しい世界説」。
この世界では後天的にスキルを取得することが非常に難しい設定なのか、もしくはスキル取得には細かい条件が設定されており、俺がそれを果たしていないだけなのか、などというものだ。
もう一つは単に俺の才能がないという「シンドが悪い説」。
名前の通り俺という存在がこの世界のスキルという摂理と相性が悪かったり、そもそも才能がないという、悲しい仮説だ。
俺としては後者は是非に及ばず遠慮願いたいのだが、まぁ、願った所で変わる筈もないので、期待はしない方向で生活している。
それでも、気配を消す鍛錬だけは地味に続けていたりする。
諦めたら一気にガクンときそうだったからである、メンタル的な何かが。
シンド氏は案外繊細なのだ。
閑話休題
もう一度周囲を確認する。
人の気配はない。
「よし」
ローブを広げる。
鹿の被りもの:聴覚、嗅覚をちょびっとだけ強化。防御力はほぼ皆無。
鹿皮の上着:防御力気持ちだけ強化。防御力はほぼ皆無。
鹿皮の下着:ちょびっとだけ脚力強化。防御力はほぼ皆無。
鹿蹄の靴:ちょびっとだけ脚力強化。
相変わらずの鑑定先生は置いといて、
なんということでしょう。
シンド君鹿鹿鹿の鹿装備。
更に~
鹿装備セットボーナス:感覚を鋭敏化し、脚力を強化。
結構凄いと思うのだがどうだろうか。
で、この装備、実は買ったのではない。
そう、【全自動素材変換】大先生によるものなのだ。
まだ、ガルボロのおっさんの所でお世話になっていた頃、野鹿が村の畑にちょくちょくやって来てはつまみ食いというのも図々しいほどに無銭飲食していく訳だ。
これに大層怒ったのはルセナさん。
いつもの慈愛の微笑みが冷たく重かったのは村中の彼女のファンである男共が一番理解していた。
そこで俺は癒しの女神の憤怒を鎮めるため、これまた【全自動素材変換】大先生のお力をお借りして罠を作成し、野性の鹿たちを駆除した。
で、その時、村から離れた所にもこっそり仕掛けておいたら見事に四匹引っ掛かっていた訳で、大先生のお力もあって鹿たちは今の装備になったという訳だ。
因みに、それ以外の鹿は美味しく村の皆でいただいた。
そしてルセナさんの怒りも無事収まってめでたしめでたし、という訳だ。
そんな大活躍な【全自動素材変換】大先生だが困ったことがある。
それは文字通り全て自動でスキルが発動する点だ。
ぶっちゃけてしまうとスキルの発動を自由意思で行えないのである。
この鹿装備も本音は持ち帰っておっさん一家と楽しみたかったのだが、触ると四匹全て一瞬にして装備になってしまった訳だ。
一年の間で色々と試してみたが、このスキルの規則性を完全に解明することは出来なかった。
俺自身、そこまで頭が回る訳ではないのでこれについては仕方がないと思っている。
けれども簡単な発動条件を理解することは出来た。
このスキル、生き物の死体や千切った草花などには適用されるが、木製の食器や食事の際に掴んだ果実には適用されない。そう、この程度だ。悪かったな偏差値低いんだよ。
恐らくだが、俺の認識が鍵なのではないかと考えるがやはり確証はない。
もしかすると「全自動」という言葉の通りスキルの方で選別しているのかもしれないしな。
で、俺の意思関係なく勝手気ままに発動するこの大先生、採取系の依頼とすこぶる相性が悪い。
野草や花を採った傍からあれよあれよと別のものへと変えて行くのだ。依頼達成など夢のまた夢だ。
手に布を巻いたり、行儀は悪いが足で採ったりしてみたが、どれも掴んで地面から遠ざけると瞬時に形を変えてしまうのだ。
なので、俺は採取系の依頼を未だ達成したことがない。というより受けたことがない。
そして、冒険者登録しての最初の依頼は誰であろうと採取依頼を達成しなければならないので、当然ランクアップも出来ず、討伐系の依頼も未だ受けることは出来ない。
というより、魔物を討伐してもその証となる部位の切り取りが出来ないから今の所どうやったって詰んでいるのだが。
そんな【全自動素材変換】大先生だが、これからの付き合い方も考えてはいる。
それは変換して出来たブツを売るというものだ。
ホーンラビットの短剣や鹿シリーズみたく武器や装備ができればギルド内で売ってしまえばいいし、それ以外のものは商人にでも売れば良いぐらいの簡単な算段ではあるが。
本日この場所に来ているのも、その売り物になりそうなものを手に入れる為だ。あと、街の助っ人業務で鈍っているであろう勘を研ぎ澄ます為だったりもする。
この鹿装備があれば最悪両手万歳して逃げられるので不安はそこまでないし、身体能力も上がっているので今ならホーンラビットの十匹程度なら余裕だ。
さて、それじゃあ狩りの時間と行こうじゃないか。
ザワザワ
おうっふいぃぃ!
な、なんだよ。葉が風で揺れた音か。
びっくりさせんじゃないよ、全く。
べ、別にビビってなんかないからな!
【鑑定】先生
【全自動素材変換】大先生
あなたはどっち?




