子は親の鏡
とはよく言ったものです。
それでは、どうじょ(/・ω・)/
「そうかい、アンタこの子の醜態を見たのかい」
「お母さん!醜態はひどいよぉぉぉ!」
「何言ってんだい、ホントのことじゃないか!」
「ムムム、そうだけどさぁ、もうちょっと言い方とかさぁぁぁ」
捕まったと思いきや母娘で言い合いが始まった。
あの、用事があるんで失礼しますね?
「あ、いつもはあんなのじゃないんですよぉぉ!?」
そうなんですか。
いつもはもっとロデオドライブしてるんですか。そうでしたか。
「その目、絶対信じてないよぉぉ」
とりあえずここから退散したいのだが、暴走乙女が腕を掴んで逃げようにも逃げられない。
親御さん、注意してくださいって。
「ったくサリネ!他人様に迷惑かけるんじゃないよ!」
そうそう、お母さんそれそれ。
「君ぃぃ、サリネから離れてくれないかなぁぁぁ?」
そうそ、え?
お父さん、なんで笑顔がそんなに冷たいんでしょうか?
「ったく、アンタも馬鹿言ってんじゃないよ!」
スコーンと狂気の父親の頭が叩かれる。
叩いたのはもちろん肝っ玉奥さん。
「サリネちゃん、悪いけど放してもらえるかな?」
優しくお願いしてみる。
よく見ると彼女、まだあどけなさが残る顔立ちで将来は美人一直線な気がする。
これはお父さんが狂うのも分からなくはないかもしれない。
だけれども、それと俺への殺気は別物だ。あれはイクナイよ?
「あ、ごめんなさぁぁい」
うん、放してくれりゃあそれでええです。
「サリネを名前で呼ぶとは一体どういう仲なのかなぁぁぁ?」
狂戦士には言葉など通じない。
それがよく分かった。
「いいかげんにしなっ!」
ボゴッ!という重い音と共に狂戦士は地に伏した。
奥さん、木の棒はあかん。
「アンタ、ウチのが迷惑を掛けたね。許しとくれ」
「あ、ああ、大丈夫ですよ。特に危害を加えられた訳ではないので」
所で、お宅の旦那さん息してますか?
ピクリとも動かないんですけど。
「ほらっ、アンタもいつもで寝てんのさ!」
「うーっ、イテテ、あれ?どうして私はこんな所で?」
直前の記憶が飛んだか。
まぁ、またキレられても困るし丁度良いか。
「じゃ、自分はこれから行くところがあるんで失礼します~」
と、撤退を試みたのだが、ガシッと腕を掴まれてしまった。
「あ、あのぉぉ、ご迷惑を掛けたのでぇ、お茶でもして行ってくださいぃ」
「そうだね、茶ぐらい出すから寄ってって送れよ。急ぎじゃないんだろ?」
「ギリッ」
この母娘強引すぎる。
そしてお父さんが再び狂える戦士へと移行していく。
「それじゃあ、少しだけ」
これを断る術を俺はまだ知らない。
◇
「そうなのかい、歩いてこの街まで」
「ふぇぇ、シンドさん凄いですねぇぇ」
「・・・」
サリネちゃんご一家の自宅兼仕事場に招いてもらっているわけですが、お父さんが無言で扉の僅かな隙間から時折覗いて来て怖い。
そんで、この家族だが、宿屋を営んでいるのだそうだ。
家族構成はヒエラルキーの頂点に君臨する母マーシーさん、静かなる狂戦士で旦那さんのコークさん、この場にはいない長女さんとその旦那さん、次女のサリネちゃんの計五人。
ちらりと見たが、長女の旦那さんは見た目武闘派だった。
それでも、マーシーさん一家にご挨拶に来た際、コークさんにへこへこしっぱなしだったと聞いた時、やはり彼は敵に回してはいけないと思ったのは至極当然のことだと思う。
そして、長女さんとその旦那さんは仕事が忙しく、この場にはおらず、コークさんもさっさと仕事に駆り出されている。時々、戻って来てこちらを黙って観察してはいるが。
「にしても、冒険者になりたいのかい、そんなヒョロッとしてんのに」
「すごいですぅぅ」
冒険者というのは、世間からするとガタイが良い、素行不良者共の専売特許という印象らしい。
「まぁ、そうでもしないと生きていけませんしね」
ガルボロのおっさんに手向けにお金をもらったが、それにも当然限りはある。
俺としては凄腕の冒険者になって金を稼いでおっさんに三倍返しして、それから美人なお姉さん奴隷を買ってムフフ、妄想が留まるところを知らんのだ。
「あ~、アンタもそのクチかね。男って奴はホントに」
どうやら顔に出ていたらしい。
やれやれと頭を振るマーシーさん。
サリネちゃんは何のことか分からず母と俺を交互に見て頭を捻っている。
うん、君はそのまま何も知らないまま大きくなりなさい。ちょっと純すぎるのも心配だけど。
「ま、止めはしないけど、気を付けるんだよ?冒険者ってのはそうそう甘くないらしいからね」
このお宿、お宿と言うからには冒険者の方も利用するらしく、自然と噂や情報も集まるみたいだ。
丁度いいや、訊いてみるか。
「あの、すいません、この街で安い宿屋を教えてもらえないでしょうか、厚かましいことこの上ないのですが」
宿を営むマーシーさんにとってはかなり失礼な質問だが、こちらも見栄を張っている訳にもいかないものでして、やはりこの世は金だ!
「なんだ、それならウチにすればいいじゃないか、丁度一人部屋が開いてる筈だよ、ちょっと待ってな」
そう言ってドタバタと部屋を出て行ってしまうマーシーさん。
ああ、これは断れないパティーンだ。
ここって高いのだろうか?
お金払えなかったら皿洗いでOKだろうか?
旅の恥はかき捨て、だっけか?
なんか違う気もするが、とりあえず訊いとくか。




