魔装のシンド
懲りずに新作です。
展開は結構ゆっくりなのでいくらかたまったら(希望的観測)読むのをお勧めします(溜まっても量があるとは言っていない)。
ツエーもやりたいですが、当分はないです。ないったらないです。そこまで書けてないです。
作品タイトルからも分かる通り、わりかし緩いです。どうぞお気を付けください。
本日一話目の投稿です。それでは、どうじょ(/・ω・)/
とある冒険者ギルドに一人の人物が現れる。
しかし、その人物の顔は装備された防具によって衆目の目に晒されることはなかった。
けれども、それがその人物という唯一無二の手掛かりでもあった。
「おい、【魔装】だ!」
「帰って来たのか!」
「肝心の獲物がねぇじゃねぇか、逃げ帰って来たんじゃねえのか?」
「バカ、奴はアイテムボックス持ちだ」
「でも、奴の装備には傷どころか汚れ一つねぇぞ?」
「オマエ、【魔装】の由来知らねぇだろ?アイツは数え切れねぇほどの装備を更に無尽蔵なアイテムボックスに仕舞い込んでるって噂だ。仕事を片付けてから着替えたとしても不思議じゃねぇ」
「オレはアイツのこと好かんがな。アイツが片付けたっていうとんでもねぇ魔物の素材が売られた事なんて一度もないじゃないか。ホントに言われるほどの奴なのか疑問だぜ」
「でも、少し前に竜鱗の装備一式が白金貨数百枚でどっかのお偉いさんに売られたって聞いたぞ。それは噂だけど赤かったらしい」
「おい、赤い竜っていやあ、【魔装】が以前マルムースの街を守った時に戦ったのが火竜じゃなかったか?」
「確か、その火竜の素材も出回ってなかったよな?」
「つまりアイツがその素材を装備にして売ったって事か?」
「白金貨数百枚って・・・・・・想像できねぇ」
「そこじゃねぇだろ!まぁ、確かにそれがホントなら垂涎どころの話じゃねぇがな」
「てか、奴がそれを売った本人だってなら、それを装備にしたのは誰なんだ?」
「さぁ、それこそ奴の装備作ってるって噂の【詳細不明】じゃねえの?」
「ああ、俺もいつかはあんな装備を・・・」
冒険者たちが一人の人物の登場に湧く中、当の本人と言えば、
(なんかめっちゃ盛り上がってるんですけど・・・)
酷く萎えていた。
しかし、任務終了の報告を終えなければ報酬を受け取ることは出来ない。
光沢を放ちながら確かな存在感を周りに与える装いのまま彼は冒険者ギルドの受付けへと進んで行く。
「ご帰還お待ちしておりました、シンド様」
受付嬢が見事な営業スマイルで渦中の人物を出迎える。
「ああ、早速だが、依頼達成の報告がしたい。ギルド長の所へ通して欲しい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付嬢は二つ返事で席を立った。
勿論向かう先はギルド長の元である。
それから少しして受付嬢は戻って来た。
「お待たせしました。ギルド長は二階の執務室でお待ちです」
「分かった。案内は結構、自分で行く」
食い気味に早口で告げるとシンドと呼ばれた人物は階段を上がって行く。
その後ろでは受付嬢が頭を下げてそれを見送っていた。
◇
コンコン
木造りのしっかりとした扉が叩かれる。
その音は大きすぎず小さすぎず叩く者の気遣いを感じさせた。
「開いとるぞ、入るが良い」
《ギルド長執務室》からは何とも気の抜けた返事があった。
「失礼します」
そう言ってシンドは部屋に足を踏み入れる。
そこには、部屋の窓際で紙と睨めっこしている老人の姿があった。
体躯は小柄で、とても荒くれ者共を纏められるようには見えない。
シンドに見せる表情にも威厳や威圧感などは全く以て皆無である。
「相変わらずお前は冒険者らしくない振る舞いをするな」
「それをギルド長に言われたくはないですよ」
いつもの挨拶を交わしてシンドは客用のソファーに腰を下ろす。
正に勝手知ったると言った所で老人の方も気にした様子はない。
「で、任務達成の報告に来たと聞いたがブツを見せんか、ブツを」
「分かってますって、これです」
そう言ってシンドが片手を前に突き出して五指を広げると何もなかった空間に突如として大鎚が姿を現す。その大鎚は全体として白色なのだが鎚頭の部分からはビリビリと音がして青白い光が時折点灯している。
「ほおお、これは大鎚か」
感嘆の声を上げて白大鎚を眺める老人。
その眼にはやはり初めて見るそれへの興味深さが宿っていた。
「はい、【白雷猿の鎚】です。今回はこれだけでした」
一方シンドの方はそんな老人を慣れた目で見ていた。
この老人の驚く様子も慣れたものなのだろう。
「うむ、確かに見届けた。依頼は達成としよう」
そう言って老人は机に置かれていた一枚の羊皮紙にサインする。
「毎度思うんですけど、そんな簡単に信用しちゃっていいんですかね?」
そんな老人にシンドが呟く。
これは当然の疑問でもあった。
特定の魔物討伐の依頼には達成を報告した際、必ずギルドからの確認がある。
大型の魔物の場合、それを丸々持ち帰ることは困難であるため、魔物の体内にある魔石と呼ばれる石と体の一部を持ち帰ることが冒険者には義務付けられている。
そして、それも困難な場合は依頼料が減額されるのを承知すれば、冒険者ギルドが調査員を現地に派遣し、確認が取れれば依頼達成となる。
これらが魔物討伐における冒険者ギルドの鉄則である。
この規則に則ってみるならば、シンドに対しての判断は異例も異例なのである。
「儂はお前の能力も知っておるし、お前という人についてもよう知っておる。何の問題もないわい。それとも、儂に嘘をついとるのか?」
「ギルド長に嘘なんかつけませんって。そしてら自分、生きて行けないですよ」
シンドは苦笑する。
その言葉がまごう事なき事実であるからだ。
「人聞きの悪い事を言うでないわ、こんな非力なご隠居に向かって」
(いやいや、非力なご隠居が竜種を片手間にサクッと倒せる訳ねぇだろ)
勿論声に出すことはない。
シンドも老人と言い合いをしたい訳ではないのだ。
「で、これはどうする?」
老人の視線の先には白い大鎚がある。
「売りで」
即答であった。
「気持ち良いぐらいの即答っぷりじゃな」
そう言うとギルド長は違う羊皮紙にスラスラと字を書いて行く。
暫くシンドが待っていると書き終わったようで、老人が肩をグルグルと回す。
「はー、終わった。いつも通り、売値の三割はお主のギルド預金に入れておくぞ」
「了解です。用件は以上で終わりでしょうか」
「うむ、帰ってよいぞ。ご苦労だったな」
「はい、では、失礼します」
老人が放って来た羊皮紙を受け取るとシンドは席を立って一礼する。
大鎚は机に置きっ放しであるが、いつものことなのでもう気にしない。
シンドはそれから一階へ降り、ギルド長のサインした書類を提出し、皮袋に入れられた高額の報酬を手にして、冒険者ギルドを後にした。
報酬を手にしたそんな彼の後ろ姿を他の冒険者たちが羨ましそうに見つめていた。
作者の新しい試み。
ある程度物語が進んだ場面を最初に見せる手法。
しかし、次話からは物語の始まりの場面に戻ります。
そして当分、強い主人公には会えない(´;ω;`)