第96話 2人からのプロポーズ
目を覚ました魁人の元へ駆け寄る女性陣。街から《魔族》を撃退し、ようやく皆が笑顔で再会出来たのであった。
「シェリー。 カミーラさん。 カナリーさん。 体は大丈夫そう?」
皆が起きた事で、抱き合っていたエメリィとは一旦離れ、回復魔法で治療を施した3人と向き合い、体の調子を尋ねてみた。
「はい、カイト様。 カイト様のお蔭で、私は元気一杯です。 寧ろ、以前よりも体調が良いかもしれません。 本当にありがとうございました。」
「カイト殿。 此度は本当に助かった。 心より感謝する。 お蔭でまたこの手で剣を振るう事が出来ている。 それに、カナリーも正気で居られているし、姫様もお元気そうだ。 本当にありがとう。」
「カイトさん。 本当にありがとうございました。 私が絶望し、何もかもがどうでも良いと思い掛けていた最中、カイトさんの温かな魔法に触れ、右足の感覚が戻っていく度に、私の心も癒されて行く感じがしました。 ちょっと痛かったですけどね。 私が今、私でいられているのは、貴方のお蔭です、カイトさん。」
三者三様に自身の状態を報告してくれつつ、お礼を伝えてくれる。
「ち、因みになのだが・・・。 あの・・・。 その・・・。」
すると、カミーラが恥ずかしそうにモジモジしながら、何かを伝えようとして言い淀む。他の皆が居る手前、言いずらい事なのだろうか。
「もうっ。 カミーラったら、こういう事だけ初心でシャイな女の子の様になるんだから・・・。 しょうがないわね・・・。」
「カイトさん。 私達も貴方のお嫁さんにして下さい。」
「えっ!?」
突然のカナリーからのプロポーズ。その上、2人の会話から察するに、恐らくカミーラもなのだろう。突然の事に驚いて、思わず声を上げてしまった。
『・・・・・・・・・。』
「あ、あれ? 皆驚いてないみたいだけど、この事知ってたの?」
しかしながら、他に驚きの声を上げる者は居ない様だ。
「まぁね。 私は、2人と出会って少しした頃には・・・そう! 女の感にビビッと来てたわよ。 女の感に。」
「何で2回言ったエメ?」
「大事な事は繰り返して言う。 うん、理に適っていて良い事だね。」
「メルサリア。 エメを甘やかすなって・・・。」
「そうよ? 私達が甘やかして良いのはカイトちゃんだけよ!」
「それもどうかと思うぞ・・・。」
エメリィの発言を皮切りに、話の方向がコントの様な遣り取りへと、向かって行ってしまう。
「ま、まぁ、2人が惚れるのも分からないでもないさ。 今後の人生を左右しかねない程の大きな怪我を、自身が倒れる事も厭わず治してくれた男に、女として惚れない方が不思議な位だろうな・・・。 あの時のカイト、カッコ良かったし・・・。」
「確かにね~。 あの時のカイト君の真剣な横顔ときたら、ずっと見てたらダメだって、分かっててもポーッと見詰めちゃってたしね~。 私。」
ルビアルカとナユカが話の進む方向を、少し無理矢理だが軌道修正し、2人がプロポーズしてくれるに至った動機を、真面目に想像して伝えてくれる。
「私も見たかった~!」
「ははっ。 カイト殿の周りはいつも賑やかだな。」
「ふふっ。 そうね、カミーラ。」
ルビアルカとナユカの発言を聞き、エメリィが2人を羨む声を上げる。そして、そんな皆の様子を見ながら、カミーラとカナリーが目を細めてにこやかな顔をしていた。
「カミーラさん。 カナリーさん。 俺、2人がプロポーズしてくれた事、すごく嬉しいです。 真面目な二人だけど、今みたいに俺達と楽しく笑いながら過ごしてくれる。 それに2人共、時折見せてくれる可愛い一面も素敵です。 だから、こちらこそ俺の嫁になって下さい! と言いたい位。 これから宜しくお願いしますね。」
『っ!!』
『こちらこそ! 不束者ですが、宜しくお願い致します。』
俺はそんなカミーラとカナリーを見て嬉しくなり、笑みを零す。そうして心を決めた俺は、2人がプロポーズしてくれた事に対して、受け入れる事を伝えると、2人は嬉しそうに破顔し、丁寧な言葉で挨拶してくれた。
「2人共、良かったわね。」
バンッ!
「お~い、カイト。 目、覚ましたんだって? これから・・・。」
「・・・。」
「こ、これが、ハーレム!?」
エメリィがにこやかに、カミーラとカナリーへお祝いの言葉を伝えていると、突然ジルが部屋の扉を勢い良く開けて入って来た。そして、俺の姿を見て何かを言い掛けた時、そのまま表情を微動だに動かさず固まったかと思うと、体全体で大袈裟に驚きを表現しながら叫び、そんなポーズのまま再び固まった。
「ん? ジルよ。 そんな所で可笑しな格好のまま固まって、どうしたのじゃ? カイトは起きていたのじゃろ? 折角じゃし、一言お礼を・・・。」
「・・・。」
「こ、これが、酒池肉林!?」
それも束の間、ジルの背後からロアギルが顔をにゅっと出したかと思うと、ジルとほぼ同じリアクションをして来た。
「何その同じリアクション!? もしかして2人で打ち合わせしてた!?」
「そうじゃ。」
「ああ。」
「ですよね~・・・。 ん? えっ!? 本当に!?」
ジルとロアギルからのリアクションに対して、漸く突っ込む様にして聞く事が出来たが、ロアギルとジルからの返事は、予想していたものとは相違があった為、思わず聞き返していた。
「ははっ。 元気そうで何よりだぜ、カイト。」
「うむ。 ずっと目を覚まさないと聞いて、心配しておったが、何よりじゃ。」
「すいません。 心配を掛けました。」
そんな俺の様子を見て、ジルとロアギルは顔を綻ばせながら、見舞いの言葉を掛けてくれた。
「ここへ足を運んだのは、お主の顔を見る事だけでなく、シェリア達を救ってくれた事に加え、《グヴェルギュオス》を倒し、この街を救ってくれた事に対し、礼を申しておきたいと思うてな。 本当に感謝する。 ありがとう。」
「頭を上げて下さい、ロアギル陛下。 3人共、俺にとってかけがえのない大切な人達ですから、俺が助けたかっただけです。 それに、街についても、ルビアルカ達が居たからついでに守ろうと思っただけ。 だから、気にしないで下さい。」
「はっはっはっ。 そうか。」
ロアギルは俺からの回答に満足いったのか、にこやかな顔をして数度頷いていた。
「時にカイト。 明日、我が城にて式典を開く。 嫁候補の者達と一緒に参加してもらえるかの?」
「え? 俺達が出席しても良い様な式なんですか?」
「寧ろお主が目を覚ましたら、開こうと思っていたものじゃ。」
「そうなんですか? なら、折角ですし・・・。 皆も良いかな?」
『っ!!』
参加の意思を示すと、女性陣が一斉に無言で、小さくグッとガッツポーズした。皆、出来るだけ体で隠す様にしていたみたいだが、今は皆が俺の周りをぐるっと囲んでいる状態。自然と何人かは見えてしまっていた。
「え?」
『な、何でも無い! 出席しましょう!』
「そ、そう?」
そんな皆の様子に、疑問の声を思わず漏らした俺だったが、必死に誤魔化そうとする為、理由を追及する事は止めておいた。
「あっ、でも未だ《アンデット》のグレゴ・・・なんとかが居るんじゃ?」
「ああ。 そいつなら、お前が寝てる間に、俺が倒しといたぜ。」
「軽いっ!? ジルってもしかしてかなり強い?」
「ははっ! 俺はお前と違って《アンデット》に対して強いってだけだ。」
未だ《アンデット》の王が居る事を思い出し、対処の必要が無いか疑問を口にしたが、ジルが軽いノリで、対処済みである報告をしてくれた。アンデットストライカーの異名を持つだけあり、ジルは《アンデット》達に対して、じゃんけんのグーとチョキの関係の様に、ハッキリとした優位性があるのかもしれない。
「なら、この国の争い事も終わりかな。」
「そうじゃな。 代表となる様な《魔族》が今後現れなければ、このような事はもう無いじゃろう。
その中で《魔獣》や《魔物》、そして《アンデット》に関しては、これまで通り冒険者達の手で討伐していく事にはなるがな。」
「そうですか。 でしたら、ロアギル陛下。 1つだけお願いがあります。 先程はああ言いましたが、街を救った褒美とでも思って、聞いて頂けませんか?」
「ふむ。 申してみよ。」
「はい。 《魔族》という総称から、《魔獣》と《魔物》、そして《アンデット》の3種族を除外する事は出来ませんか?」
『カイト・・・?』
ロアギルに促され、メルサリア達《魔族》と出会ってから、これまでの間に考えていた事を話し始めた。その傍らでは、話を聞いていたメルサリアとリルドミナは、キョトンとした顔をしている。どうやら、俺が何を話そうとしているのか不思議に思っている様だ。
「メルサリア達は、先に挙げた理性を持たない3種族達とは違い、きちんと理性を持ち、言葉も交わす事が出来ます。 もっと言うなら、ちょっと寿命が長く、持っている力もちょっと強いだけで、後は人とほとんど変わりがありません。 寧ろ俺の方が、彼女達よりも力が強いですし、危険な存在です。」
『カイト!!』
「良いから。 ね?」
俺は更に内容を掘り下げて説明する。そして、俺の事を例に挙げて説明すると、2人は俺を咎める様に名前を叫び、話を止めようとして来た。しかしながら、俺はそんな2人に笑い掛け、優しい口調で2人を制止する。
「急に皆の認識を、1度にぐるっと良い方向へ変える事は出来ませんが、徐々にでも良い方向へと変えていける様にしてあげたい。 だから、何とか便宜を図ってもらう事は出来ませんか? 今なら、街の人を助けていた、という良い印象を、街の人達に持たせられています。 皆の認識を変えるなら今なんです。 どうかお願いします。」
説明を続けた俺は、最後にロアギルに頭を下げ、誠心誠意頼み込んだ。
『カイト・・・。』
メルサリアとリルドミナが、これまでの俺の説明を聞き、少し悲しそうでもあり、嬉しそうでもある、そんな複雑な心境を表すかの様に、静かに俺の名を呟いた。
「分かった。 お主のたっての頼みじゃ。 先程お主が言った様に、理性を持つ者達《魔族》と、理性を持たぬ者達《魔獣》、《魔物》、《アンデット》は全く別の種族として扱う。 という布告を出す事を約束しよう。 願いはそれだけで良いのか?」
「はい。 ありがとうございます。」
俺は即答し、願いを聞き入れてもらった事へのお礼を、ロアギルに伝えた。
「はっはっはっ。 それにしても欲の少ない奴じゃ。」
「そうですか?」
「お主ほどの功績を立てた者ならば、富を、名誉を、女を、それらを要求しても良いんじゃぞ?」
「まぁ、もらえるなら貰いますけど、俺自身は、俺の側に居てくれる皆と、ワイワイ楽しく過ごせれば十分幸せですから。」
ロアギルからの問い掛けに対し、素直に本心を伝える。
「そうか。」
そうして魁人の回答を聞いたロアギルは、満足気に微笑み、1度頷いたのであった。




