第94話 回復
魁人の元へ慌てて飛んで来たアブリル。そんなアブリルから、カミーラとカナリー、そして、シェリーが大怪我をしたと告げられたのだった。
バンッ!
「カミーラさん! カナリーさん! シェリー!」
アブリルに案内された別荘の中に入って行くと、焦る気持ちを表す様に、シェリー達が居ると教えられた部屋の扉を勢い良く開け、その部屋へと駆け込んだ。そして、3人の名前を呼びながら、床に敷かれた清潔そうなシーツの上に寝かされていた、3人の元へと駆け寄った。
『はぁ・・・。 はぁ・・・。 はぁ・・・。』
「・・・。」
3人の様子を見るに、カミーラとシェリーは意識がある様だったが、荒い呼吸をしている。また、カナリーも意識はある様だったが、自我を失くしてしまったかの様に、静かにボーっと天井を眺めていた。精神的ショックが大きいのかもしれない。
何故なら、カミーラは左手の二の腕から下を、カナリーは右足の太股から下を失い、シェリーは、腹部に大きな裂傷を負っていたのだ。3人の傷口には、怪我の大きさを表す様に、痛々しく包帯が巻かれている。そして、元々は真っ白だった包帯の一部、傷口付近であろう箇所には血が滲み、赤く染まっていた。それに加え、怪我による痛みからだろう、3人は額に玉の様な汗をかき、痛みに耐えている様だった。
「カイト!」
『お兄ちゃん!』
「カイト君!」
「すまん、カイト・・・。 あいつら、あたし達を庇って・・・。」
《レルムンガルド》に居残っていた4人が、俺の姿を認識し、こちらへ駆け寄って来た。その中から、ルビアルカが4人を代表し、罪悪感で押し潰されそうな苦しげな表情で、簡潔に事情を話して来た。
「気にするなと言っても、気にしちゃうだろうな・・・。」
「俺の回復魔法で何とかしてみる・・・。 いや、何とかしてみせる・・・。 必ず・・・。」
3人の治療を必ずやり遂げると、自身の胸にこの決意を刻み込む様に、強く言葉にする。
「だから、皆は、シェリー達の介抱を手伝ってあげて。 俺が絶対に助けるから。」
「ねっ?」
『わ、分かった!』
『うん!』
俺は真剣な顔をして、今度は4人を安心させる為に、決意を再び言葉にした。そして、4人に笑い掛けると、4人は、険しかった表情を少し和らげながら、それぞれ介抱の手伝いに向かって行った。
「カ、カイト殿・・・。」
「はぁ・・・。 はぁ・・・。 姫様を先に・・・頼む!」
「分かった。」
「カミーラさんも必ず治すから、少しだけ待っててね。」
「ありが・・・とう・・・。 カイト・・・殿。 はぁはぁ・・・。 ぐっ。」
俺達の会話を聞いていたのだろう。カミーラに名前を呼ばれた俺は、カミーラに寄り添い、そっと頭を撫でながら笑顔で対応すると、カミーラは、苦痛に顔を歪めながらも、笑顔い掛けようとしてくれる。
「シェリー。 今から魔法で治すからね。」
キィィィィィィィィン。
「はぁ・・・。 はぁ・・・。 カイト様・・・。 良く・・・、ご無事で・・・。」
カミーラの元から、シェリーの元へ移動した俺は、回復魔法を使ってシェリーの治療を始めた。すると、シェリーは俺の顔を見ながら、自身が死にそうな程の重傷を負っているのにも拘らず、俺の身を案じる言葉を掛けてくれる。そんなシェリーからの言葉に胸が熱くなり、思わず涙が零れそうになった。
「当たり前じゃん。 俺は勇者で、シェリーの婚約者。 これ最強だよ? ちなみに《グヴェルギュオス》は倒したから、もう街も大丈夫。 安心して。」
「ふふっ。 はぁ・・・。 はぁ・・・。 ありがとう・・・、ございます、カイト様・・・。」
しかしながら、今涙を見せると、シェリーを不安にさせてしまうかもしれない。込み上げて来そうな涙をぐっと堪え、シェリーの腹部に回復魔法を掛けながら、安心させられる様に、笑顔で声を掛け続ける。
「よし! 傷は塞がったから、もう大丈夫。」
「体を休める為に一度ゆっくり寝ようか、シェリー。」
「はい・・・、カイト様・・・。 お休みなさい・・・ませ・・・。 すぅ・・・、すぅ・・・、すぅ・・・。」
「お休み、シェリー・・・。」
シェリーの頭を優しく1度撫でると、俺はカミーラとカナリーの元へ向かった。
「カミーラさん、シェリーはもう大丈夫。」
「ありがとうっ! はぁ、はぁ・・・。 カイト殿・・・。」
そして、シェリーの傷を治せた事をカミーラへ伝えると、カミーラは嬉しそうに微笑んでくれたが、その笑顔は誰が見ても明らかな程、弱々しく見えた。
「次は2人の番だ。 必ず・・・、必ず治すよ。」
(問題はこの2人だ・・・。 傷口を塞ぐだけなら簡単だけど、それだと、意識ははっきりしているカミーラさんはともかく、カナリーさんはあのまま一生を過ごす事になってしまうかもしれない。 それでは駄目だ。 何とか治してあげたい。 その為には・・・、そうだな・・・。 失った部分を回復させるイメージに加え、魔力で新しく生体組織を作り出す感じをイメージ・・・、いや、魔力を2人の失った生体部分へと変換して治すイメージか、それを強くイメージして、全力で魔力を注ぎ込みながら回復魔法として使ってみるしかない・・・。 試しに使ってみた召喚魔法の知識も、元居た世界のゲームで得た知識位しか無かったけど、それをイメージして、魔力を練り込んだら使えたんだ。 とにかくやってみるしかない!)
決意を強く言葉にしながらも、内心ではこれから使う回復魔法について、考えを巡らせる。
「いくよ、2人共。」
「ああ・・・。」
「・・・。」
2人に声を掛けると、カミーラは弱々しくではあったものの、返事をくれたが、カナリーはこちらをボーっと見て来るだけだった。
「はぁっ!!」
ギィィィィィィィィィン。
傷口に巻かれている包帯を緩め、2人に合図を送ると、ありったけの魔力と気持ちを込め、カミーラとカナリーの失ってしまった箇所に、先程考えていたイメージで、全力で回復魔法を使用した。
『ぐっ、ああぁっ!!』
すると、回復魔法は上手く作用している様で、見る見るうちにカミーラの左手と、カナリーの右足が傷口から、それぞれの指先に向けて、徐々に再生されていく。ただ、失っていた箇所に神経が再び通う事になる為、色々な感覚が一度に戻り、2人はたまらずといった様に声を漏らしていた。そして、この時カナリーには、感情が戻りつつある様だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギィィィィィィィィィン。
『あっぐぅ!! ああああああああ!!』
更に2人に対して、全力で回復魔法を使い続けていく。
『はぁ、はぁ・・・。』
そして遂に、2人の失ってしまった箇所の再生を終える事が出来た。しかしながら、全力で魔法を使い続けた俺は、流石に疲労困憊になり、2人と一緒に息を荒げる。
「カイト! やっぱすげぇな!」
『お兄ちゃん、すごい!!』
「カイト君~!」
「カイトちゃん!」
「ははっ。 何とかなって、良か・・・った・・・。」
笑顔で駆け寄って来た5人に向け、こちらも笑顔で応じようとした時、体からスーッと力が抜けていく感覚が、なんとなく感じられ、目の前が真っ暗になった。
ドサッ。
そして、魁人は意識を失い、カクンッと崩れ落ちる様にして倒れてしまう。
「カイト!?」
『お兄ちゃん!?』
「カイト君!?」
「カイトちゃん!?」
全力で回復魔法を使い続け、3人を治しきった魁人は、その場で意識を失い、倒れてしまう。その様子を見ていた5人は、仰天しながら、魁人の元へ駆け寄るのであった。




