第91話 魔族迎撃戦(2)中編
《レルムンガルド》東部に向けて走る魁人組の元へ、大きな咆哮が耳に届いた。
タッタッタッタッ。
「もしかして、これが《グヴェルギュオス》の鳴き声?」
「そうだ。 我等と比べ、とんでもなくでかいぞ。」
「まじで!? まぁけど、勇者として頑張ってみますか!」
「カイト。 この先に《魔物》達の群れが見えた。」
意気込みを言葉にしていると、メルサリアが目視によって、《魔物》を確認した報告を入れてくれた。
「アースニードル!」
ゴガッ! ドドドドドドドドドドッ。
呪文を唱えると、《魔物》達の居る真下の地面から、鋭利な円錐状の硬い土で出来た大きな棘が、10本飛び出し、一度に10体の《魔物》の体を下から貫いた。
この時魁人は、簡単な発想の魔法を使う際、集中する為の時間がほぼ必要無い程に、魔法の発動が早くなっていた。
『グル・・・。』
するとその《魔物》達は、体の中に貯まっていた僅かな空気を、そっと吐き出しただけの様な、そんな小さい断末魔を上げて絶命した。
「うわぁ・・・。 この魔法使うと、ゲームと違って、串刺しになったままの《魔物》が残ってるから、かなりシュールな光景だな・・・。」
鋭利な円錐状の硬い土で出来た大きな棘に、串刺しになったまま絶命している《魔物》達を見て抱いた感想を、思わず漏らしてしまう。
「なるほど。」
『グルルルルルルル。』
「シャドウニードル。」
『グルッ。』
メルサリアは感心する様な声を漏らすと、襲い掛かって来た《魔物》達に魔法を放ち、8体程倒した。その魔法は、使用している魔力は違うものの、俺と似た発想のものだった。
「おお! 黒い棘とかカッコイイ!」
「カイトが使った魔法の発想を真似てみたんだ。」
「うん! イイね!」
「そ、そうかな? 他にはこんなのはどうだろうか?」
戦闘中ではあるものの、俺とメルサリアは魔法について意見を交わす。互いにまだまだ余裕がある証でもあった。
「シャドウアルターエゴ。」
メルサリアが静かに呪文を唱えると、黒い影で出来た人の形をした物が、5体生まれた。
「おお!! 分身っぽい!!」
「俺、闇属性の魔法って、複雑なもの使った事無かったんだよね。 さすが《魔人族》の長様! 面白い発想の魔法使うね。」
「ふふっ。 カイトに褒められるのは嬉しいね。」
メルサリアの使用した魔法について、素直な感想を伝えると、メルサリアは嬉しさを表す様に、顔をほころばせた。
『グルゥア!!』
「フッ!」
ボウッ。
『グギュアァァァァァァッ!』
こちらへ襲い掛かって来た《魔物》達へ向け、イフリートが掌にそっと息を吹きかける仕草をすると、その《魔物》達は断末魔を上げながら燃え出した。
「カイト。 この雑魚共は、わらわ達に任せ、《グヴェルギュオス》とやらの元へ行くと良い。 この魔の子達は中々使える様だ。」
「カイト。 ここには下級と中級の《魔物》、イビリムとイルイビリム。 そして、下級の《魔獣》のガロオ位しか居ない様だ。 数は居るがな。 だが、これならば、我等だけでも十分な上、《精霊》様も居る。 無傷で何とか出来そうだ。 だから、安心して行け。」
「そうだよ、カイト。 私達に任せると良い。」
イフリートとリルドミナ、そしてメルサリアが、順に言葉を掛けてくれる。
「ありがとう、イフリート。 リルドミナ。 メルサリアも。 ここは宜しく。」
「これが終わったら、またわらわの頭を撫でるのだぞ、カイト。」
「ははっ。 分かった。 また後でね。」
「それでクロムは・・・。」
「付いて行きます、マスター。」
「即答!?」
「わ、分かった。 一緒に行こうか、クロム。」
「はい。 マスター。」
こうして、一旦、二手に分かれる為の遣り取りを終え、この場をメルサリア、リルドミナ、イフリートの3人に任せた魁人は、元が壁であったのか、門であったのか、一見しただけでは分からない程無残にも破壊され、大きくポカンと開く街の外壁の間から、街中へと足を進めた。
『グルルルルルルル。』
『ひぃっ!?』
『に、逃げろーーーー!!』
「民衆を守れ!!」
「ガァァァァ!」
「グルゥゥア!」
「陣形を整えろ!」
「《魔族》1体に対し、必ず2人以上で当たれ!」
「ファイヤーボール!」
「痛えよぉ・・・。」
『・・・・・・・・・。』
街に入ると《魔獣》や《魔物》、民衆、騎士、それに冒険者、それらの者達が至る所で戦闘行動及び、退避行動を行っている。更に、残念ながら、無残にも《魔獣》や《魔物》に引き裂かれたであろう、血だまりの中に転がる、もう物言う事の出来ない人々の姿も、そこにはあった。
そして、今目視で確認できる範囲には、未だ多数の民衆が残って居る。どうやら街の外壁が突破されたばかりなのか、避難が間に合っていない様だ。そして更に、《魔族》達に突破を許してしまった場所も悪かった。何故なら、《レルムンガルド》の東側は、北東に貴族区、そして、南東の大部分が市民区である為だ。早急に解決出来なければ、犠牲者がますます増えてしまうだろう。
「グゥオオオオオオォォォーーーーー!!」
「でかっ!? 何あれ!?」
街の様子を確認していると、《グヴェルギュオス》が咆哮を上げた。そして、その方向を見ると、家屋の屋根の上から、巨大であると推測出来るその体躯がちらちらと見え隠れする。
「とにかく、あれをどうにかするしか無さそうか・・・。」
「クロムは戦える?」
「不明です、マスター。 現状可能な事は、体を人の姿か魔剣の姿に変える事。 また、体を人と同じ程度の硬度から、鋼程度の硬度に上げる事。 この2点です。」
「分かった。 一先ず俺だけで戦ってみる。 それで、必要ならクロムも使わせてもらう。 良いかな?」
「はい。 マスター。」
《グヴェルギュオス》の元へ行く前に、人の姿の状態での、クロムの戦闘能力を確認する。現状における自分達の戦力を把握しておく為だ。
「さて・・・。 未だ人が沢山いるから、余り大きな魔法は使えない・・・。 となると・・・、とりあえず勢い付けて思いっきり殴ってみるか。」
「クロムは身を守りながら、後で俺を追って来て?」
「分かりました、マスター。」
「フライ!」
ヒュンッ。
《グヴェルギュオス》への攻撃方法を決めた俺は、飛行魔法の呪文を唱える。すると、体は一瞬フワッと地面から僅かに浮き上がった後、打ち上げ花火の様に、上空へと向かって飛び発った。
「ふぅ~・・・。」
「・・・。」
そして、《アルシェント城》の天辺よりも少し高い位、目測でだいたい30メートル前後だろうか、その程度の高さで滞空する。1度集中し、無意識に使っている身体強化魔法に使用している魔力の供給量を、意識的に増やす為だ。
「よし!」
魔力供給量の調整を終えた俺は、掛け声と共に、空中からでもハッキリと確認できる《グヴェルギュオス》のその巨大な体躯に狙いを定め、急降下する。
「はぁっ!!」
ゴガァォォォォォォン。
バガァァァァン!
そして、気合を込めながら、《グヴェルギュオス》の無骨な外観をした頭部に、掌に自身の爪が喰い込みそうな程に、ギュウッと力を込めて握った右手の拳で殴りつける。すると、頭部と拳とがぶつかる衝撃音と共に、地面がひび割れる音が辺り一帯に響いた。
「グオォォォォッ!」
ズズゥゥゥゥゥゥン。
《グヴェルギュオス》は痛みを覚え苦しんでいる、そんな鳴き声を上げながら、その巨体を地面に張り付ける様に倒れ込んだ。
ズダッ。
「痛ったーーー!? 何こいつ!? めちゃくちゃ硬い!?」
《グヴェルギュオス》を殴り倒した俺は、その倒れた巨体の近くの地面に着地する。しかしながら、《グヴェルギュオス》の頭部を殴った感触は、身体強化していても、普通の人が手で木製の机を殴った様な、そんな硬い感触だった。その為、俺は痛みを覚えた右手を、痛みが和らぐ様に左右に振りながら、思わずその硬さを愚痴っていた。
『・・・・・・・・・。』
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
「な、何だぁ!? 人が空から降って来たぞ!?」
「何者だ!?」
「あ、あの巨体を素手で殴り飛ばした!?」
今まで《グヴェルギュオス》と戦っていたのだろう、この場には冒険者達や騎士達が見える範囲に数十人程居た。その者達は、今し方起こった事に対し、把握するのに少々の時間を要した後、続々と驚きの声を上げて行く。
「き、貴様は!?」
「あっ、ローレンスさん? でしたっけ? 《魔人族》と《悪魔族》の女の子達を味方に付けて、帰還しました。 加勢します。」
「な、何!?」
すると、見知った者が声を掛けて来た。聖王騎士団団長のローレンスだ。俺は簡略化した説明をさっとしたが、ローレンスは状況を未だ上手く呑み込めていないのか、動揺を表す様に声を上ずらせる。
「グゥ・・・、グオォォォォォォォ!!」
ローレンスと2人で話をしていると、《グヴェルギュオス》が両腕を地に突き立て、こちらを睨み付けながら起き上がって来た。
こうして、《グヴェルギュオス》と対峙した魁人。これより、《グヴェルギュオス》との戦いの幕が開けるのであった。




