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第89話 焼肉

 天空城で王都に向かい始めた魁人達。しかし、《魔族》達の事について、話が十分に出来ていない事に気付いた皆は話し合いを再開した。


 「それで、《魔獣》と《アンデット》の王・・・、あっ、代表だっけ? 2つの種族の代表達が、意思の様なものを持って何か変わったのかな?」


 《魔族》達について、俺は改めて質問を投げ掛けた。


 「そうだね。 《魔獣》の代表、《グヴェルギュオス》が《魔獣》と《魔物》達を従えるようになった事が大きい。 もちろん、今までも複数の個体、群れで生きていたものは居る。 しかし、普段は群れであったとしても、たかが知れている程度の数と戦闘力しか無い。 我々よりも遥かに数の多い《ヒューマン》達が力を合わせれば、《魔獣》や《魔物》達が多少群れていても、問題になる事は少ないだろう。」

 「しかし、《魔獣》や《魔物》が1つの強力な個体に統率され、更に数を急に増やした事で、状況が逆転した。 基本的に、《魔族》それぞれの個体は、《ヒューマン》のそれぞれの個体よりも強力だからね。 カイトはかなり特殊な例だけれど・・・。」


 「あはは・・・。」


 話をしてくれているメルサリアが俺の話題を出すと、こちらをじっと見て来た。俺はその応えとする様に、苦笑いを浮かべながら、頬を軽く掻いた。


 「そして、《魔獣》や《魔物》達と同様に、《アンデット》達にもそれが起こってしまった。 代表の《グレゴール=アストラン》が、他のアンデット達を、急に従える様になったんだ。」


 メルサリアが、《アンデット》達の変化についても説明をしてくれた。


 「言い難い事だが、カイトの影響も少しはあるだろうな。 カイトの強大な力は、良くも悪くも、この世界の者を惹きつけてしまう。 わらわを含めてな。」


 「カイトちゃんは、魔力が高いからねぇ。 おかげで私も、すっごく強い魔力を感じて、カイトちゃんと出会えたものぉ。 私にとっては、とても良い影響だったわ。」


 そして、メルサリアの説明が終わると、イフリートとアブリルがそれぞれの考えや思いを伝えてくれた。


 「ははっ。 ありがとう、イフリート。 アブリル。」


 「恐らく活動が活発化したのは、それぞれの種族の本能が刺激された為だろう。 《魔獣》や《アンデット》は捕食本能が特に強い。 《魔獣》は一部の魔力や生き物の肉を、そして、《アンデット》は人の一部の魔力や精気を食べる。 奴等は、喰えば喰うほど寿命が延びるからな。」


 「ついでに言っておくと、私達《魔人族》や《悪魔族》達は、《ヒューマン》と同じ食べ物で食事もするが、魔力も食料とする事が出来る。 そこにいる《サキュバス》は一部の魔力と精気をな。」


 「あれ? じゃあ、俺って餌に見られてるの!?」


 「ああ。 それも極上のだ。 ふふっ。」

 

 『確かに美味しそう、色んな意味で・・・。』

 『じゅるり・・・。』


 「えぇぇぇっ!?」


 「あはは・・・。」


 この場に居る数人の《魔族》が、目をギラつかせながら、獲物を見る様な目で俺を見て、舌なめずりをして来た。しかしながら、アブリルも《魔族》であるため、皆の気持ちが分かってしまうのだろう、1人苦笑いを浮かべている。


 『いえいえ。 なんでもないですよ?』


 「そ、そう?」


 俺が驚いた反応を見せた事で、先程俺を獲物を見るような目で見て来た《魔族》の皆が、ニコッと笑顔で、明らかにとぼけた様な反応を返して来た。その様な反応を返され、俺はたじたじになりながらそう一言返す事しか出来なかったのだった。


 「こんな話を聞いて、お前は怖くならないのか? 我等は未だお前の嫁候補。 怖いのなら、今なら嫁にするのを取りやめる事も出来るぞ?」


 『・・・・・・・・・。』


 リルドミナが俺に向けて、そう忠告すると、事の成り行きを見守る様に、《魔族》の皆は静かに黙った。


 「え? 怖くなんて全く無いけど?」


 『・・・・・・・・。』


 気にしている様子も無く、俺がしれっとそう言うと、《魔族》の皆は黙ったまま、驚いた様にポカンとする。


 「皆の事は今日初めて知ったけど、精気や魔力を食べる話は、もう前にアブリルから聞いてるから、その事については全く問題無い。 怖かったらアブリルを嫁候補にしたりしないさ。 これも、俺の魔力が高くて良かった事の1つだな。」


 「なんとも懐の深い男だな、貴方は。」


 「なんてったって、これでも勇者ですから。」


 『ぷっ。 あははっ。』


 胸を大きく反らせながら、俺があからさまに誇大な態度でそう言い放つと、メルサリアも俺と同じ気持ちになったのか、可笑しくなって思わず互いに吹き出して笑ってしまう。


 「それで、結局のところそいつらは倒すしかないの?」


 エメリィが結論を急ごうと、この場に居る《魔族》の皆に向け、疑問を投げかけて来た。


 「選択肢としては、ダメージを与えて弱らせた上で封印するか、もしくは倒しきるしかないかな。」


 「そう・・・。」


 メルサリアが、エメリィの疑問に回答すると、エメリィは静かに一言そう漏らした。


 「ちなみにだが、2体共食べると美味いぞ?」


 「へ~。 食べれ・・・ん?」


 『えぇぇぇぇっ!? 食べれるの!?』


 リルドミナからのそんな発言が、俺達にとって思いも寄らないものであったため、一様に信じられないといった顔をして驚いてしまった。


 「ああ。 《グヴェルギュオス》も《グレゴール=アストラン》も、見た目はまぁ・・・、あれなのだが・・・。 《グヴェルギュオス》は頭と骨に表皮を除く、体全体が極上の肉の塊だ。 特に焼肉が美味い! 焼けば香ばしい匂いと共に、じゅうじゅうと旨みの詰まった肉汁がその肉から溢れ出る。 そして、何も調味料を使わずに、ただ焼いただけにも拘らず、噛めば肉の甘味が口一杯に広がり・・・。」


 『もうやめてーーー!! 聞いてるだけでお腹空いちゃうから!!』


 「む? そうか? なら、話はここまでにしよう。 話はな・・・。」


 ぐぐぅぅぅぅ~~~・・・。

 『・・・・・・・・・。』


 俺を含めた数人から、皆に空腹を知らせる様に、お腹の鳴る音が聞こえて来た。お腹の鳴ってしまった、お腹の鳴ってしまった他の皆は、少し恥ずかしそうに頬を染めている。


 「ははっ。 ちょっと止めるの遅かった・・・。 俺、お腹空いちゃったよ・・・。」


 カラカラカラカラ。

 「でしたら、丁度良かったですね。 ご用意させて頂きました。」


 まるでタイミングを見計らったかのように、《魔人族》と《悪魔族》の複数のメイド達が、ホテル等の高級飲食店で食事をすると見る事がありそうな、銀のサービスワゴンを押して、玉座の間に入って来た。


 『あるの!?』


 あまりの準備の良さに、俺達は口を揃えて驚きの声を上げてしまう。


 その銀のサービスワゴンの上には、極上の厚切り和牛ステーキを彷彿とさせる様な、食欲を刺激する香ばしい香りを放つ、食べごたえのありそうな肉厚のステーキが乗せられていた。


 ぐぅぅぅぅ~~~・・・。


 話に聞かされていた同種の肉のステーキが出て来た事で、俺達は再びお腹を鳴らす事となった。


 「《グヴェルギュオス》の個体の肉では無いが、同じ《ディアガロオ種》の個体の物だ。 大きければ大きい個体である程、肉の旨みは増すが、小さい個体でも十分美味いから食べてみてくれ。」


 「こんなに出してくれるって事は、もしかして予め用意してくれてた?」


 「出発する時、私達の眷属達に指示を出しておいたんだよ。 私達からの親愛の証・・・、とでも思っておいてくれると良いかな。」


 「覚悟しておけよ、カイト。 我等《魔族》の女の愛は、この厚切りの肉の様に重いからな。」


 「う、上手い事言うわね・・・。 美味そうなだけに。」


 「ははっ。 応えられる様に頑張ります。」


 メルサリアが焼肉を出してくれた理由を教えてくれると、リルドミナとエメリィが、肉の話題で冗談の応酬をした。俺は2人の遣り取りを見て思わず笑いを零した後、メルサリアとリルドミナに向けて、決意を表明した。


 「今、簡単なテーブルと椅子も用意させる。 束の間の間、待っておいて欲しい。」


 リルドミナの一言を皮切りに、あっと言う間に《魔人族》と《悪魔族》のメイド達によって、テーブルと椅子が用意されて行った。


 「それでは、皆。 食べて欲しい。」


 メルサリアが食事開始の合図をくれた。


 『いただきます!!』

 『あむっ。 んくんくっ。』


 『・・・・・・・・・。』


 俺達は一斉に挨拶をすると、それぞれにナイフを使って肉を切り、ホークで刺して口に運んで咀嚼した。


 『う、美味っ!?』


 『それは、良かった。』


 俺達が驚愕の表情のまま、素直な感想を述べると、メルサリアとリルドミナの2人は、笑顔で嬉しそうに応えてくれた。

 

 タッタッタッタッ。

 「メルサリア様! カイト様! 大変です! 《レルムンガルド》から火の手が上がっています!」


 しかしそんな時、突然《魔人族》の女戦闘員が玉座の間に駆け込んできた。


 『ぶふっ!』

 『けほっ! けほっ!』

 『え、えぇぇぇぇぇっ!?』


 天空城で王都へ向かっていた魁人達。しかしその途中、メルサリアとリルドミナが振舞ってくれた食事をしている時、突然知らされる事となった凶報。そんな火急の知らせを聞いた魁人達は、驚く余り思わず(むせ)てしまうのであった。

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