第87話 世界の成り立ち
ロアギルからの依頼を、思いの外良い結果で達成する事が出来た魁人。
「さて、未だ幾つか問題があるけど・・・。 何から片付けていくか・・・。」
《ヴァルグヘイム天空城》へ来て、龍の姿から人の姿になったアルカメリル。そして、同じ様に、剣から人の姿になった魔剣の女の子。更には、現状では分からないイフリートの還し方。そして最後に、天空城まで来る事になった原因、現在の《ヒューマン》と《魔族》の争いの解決。色々と懸案事項が積み重なってしまっていた。
「あっ、そうだ! それで1つ、《魔族》の皆にお願いがあるんだけど、《シルヴァリス》を《魔族》達が激しく襲う様になった原因があるなら教えて欲しいんだ。 何か知ってる? というか、《魔族》側は今どうなってるのかな? 皆にそのあたりの話を聞かせて欲しいんだけど、良いかな?」
色々と思案していたが、先ずはここに居る《魔族》達に、現在の《魔族》の状況を聞き、争いの解決方法の模索を優先しようと考えた。
『はい。』
「よし! なら、皆来て! 俺のとこらへんに集まって、座ってくれるかな?」
了承の返事をもらった事で、早速話を聞こうと思い、皆に集まってくれる様に頼んで、その場に胡坐をかいて座った。
『は~い!!』
「それなら、わらわはここで。」
皆も笑顔で軽快に返事をして、こちらに歩み寄って来てくれる。そんな中、イフリートは俺の左隣に腰を下ろしたかと思うと、俺の太股に自身の頭を預ける様にして、横になった。
『・・・・・・・・。』
「あ、あれ? 皆どうしたの?」
しかしながら、皆が俺から一定の距離を保ったまま、黙って立ち止まってしまった。そんな様子を見せた皆に、俺は少々戸惑い、何か理由があるのか聞いてみる事にした。
「カイト・・・。 その・・・ね? カイトは全然平気みたいだけど、炎の《精霊》様が熱くて、近寄るのが難しくて・・・。」
そんな状態の中、エメリィが皆を代表する様にして、理由を話してくれた。
「えっ!? そうなの?」
「おぉ! そうだったな。 カイトが余りにも普通に接触して来くるから、そのあたりの事をすっかり忘れていた。 ほら、これならどうだ?」
イフリートを触っても熱さを感じなかった俺は、驚いてイフリートの顔を覗き込みながら、質問してみた。すると、イフリートもすっかり忘れていた様な反応を見せたが、すぐに自身の纏っている炎をすっと消した。
『炎って消せたんだ!?』
「ははっ。 ありがとう、イフリート。」
「う、うむ。 構わない。 そなたは、わらわの頭をそうやって撫でていれば良い。 ふふっ。」
体に纏っていた炎を消せた事に驚いた俺達。そして俺は、皆に配慮して、すぐ炎を消してくれたイフリートにお礼を言いながら、その頭を優しく撫でた。
「事情とかは、メルサリアとリルドミナが他の皆より知ってるだろうから、2人にメインで聞かせてもらって、2人が知らない事とかあれば、皆も良かったら発言してくれると嬉しい。 良いかな?」
『は~い!!』
「さて、じゃあ改めて。 ちょっと大雑把な聞き方だけど、今《魔族》ってどうなってるのかな?」
「そうだな・・・。 《魔族》は複数の種族の総称だが、性質で大まかに2つに分かれている。 いや、自然に分かれたと言った方が正しいかもしれない。 《魔獣》や《魔物》、そして《アンデット》等、野生の獣の様に、理性など全く無く本能のままに行動する者と、私達《魔人族》や《悪魔族》、《淫魔族》の様に理性があり、知性を持つ者。 その2つのタイプだ。」
「けれど、ここ最近。 大体一月位前だろうか? その頃から、《魔獣》と《アンデット》の代表達が、本来は持つはずの無い、意思の様なモノを持つ様になった。 そして、《ヒューマン》達をより苛烈に襲う様になったのが、10日ほど前だった。」
俺からの質問は、かなり曖昧だったにも拘らず、メルサリアが詳細な答えを返してくれた。
『めっちゃ最近!?』
『えっ、でもそれって・・・。』
俺とエメリィは、メルサリアからの説明に驚く様を見せた後、互いになんとなく心当たりが思い浮かび、顔を見合った。
「どうかしたのかな?」
不思議がっているメルサリアやこの場に居る皆に、俺が別の世界から来たという事を含め、これまでの事について話してみた。
「な、なるほど・・・。 偶然、なのだろうけど、カイトがこの世界に来た時期と、この大陸に来た時期の両方と重なってしまうのか・・・。」
「けど、もし偶然じゃなかったとして、カイトがこの世界に来た事で、そんな影響出るものなの? 」
「恐らくではあるが、カイトはただの人の子ではないかもしれんぞ?」
メルサリアとエメリィ、2人の発言を聞いていたイフリートが、何気なく告げた。
『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』
イフリートの発言を聞いていた皆が、驚いて声を上げる。
「カイトの肉体は人の子、《人族》と同じ様だが、魂の部分で何か交じっている可能性がある。 だから、それが多少影響を及ぼす事があるかもしれん。 わらわでは感じ取る事は出来無いが、先程の話を聞いていた限りだと、光か闇の《精霊》に会う事が出来れば、何か分かるかもしれんぞ。 ただ、今はもう居ない可能性もあるがな。」
「今まで、皆が俺の側に居てくれてたから、余り考えた事無かったけど、この世界に来れた理由ってやっぱり何かあるのか・・・。」
「イフリート、他の《精霊》とかに会う事って出来るもんなの?」
思ってもいなかった話題が出た事で、魁人の関心は、《魔族》達の事から《精霊》達に関する事へと移ってしまう。
「ふむ。 わらわを呼び出したカイトに褒美だ。 少しだけ昔話をしてやろう。」
「この《パンテオン》は1つの《創造神》によって創られた。 初めはここも、海と、一つの大きな陸、そして空しかなかった。」
「そして、次に《創造神》が創ったモノは、8体の《魔神》だった。 まぁ、今は特に必要が無いので、それぞれの名は省く。」
イフリートが、この世界の成り立ちを語り始めた。
「8体という事は・・・。」
「うむ。 察しが良いな。 そなたらに備わっている、基本的な魔力の種類と同じだ。」
「火の《魔神》や水の《魔神》等、8体の《魔神》達を創った《創造神》は、その8体の魔神達に、《パンテオン》で各々に新たなものを生み出せと命じた。 そこで、先ず《魔神》達に生み出されたのが、わらわ達《精霊》だ。 1体の《魔神》につき、10体前後の《精霊》が創られたと聞くが、わらわでは正確な数字は分からん。」
8体の《魔神》と聞いた俺は、1人呟く様に口にしながら、エメリィに習った魔力の属性を思い出していた。すると、俺の太股に頭を乗せて寝転がっているイフリートには聞こえた様で、追加の説明をしてくれた。
「えっ!? 《精霊》って結構偉い!?」
「そうだ。 もっとわらわを敬っても良いぞ、カイト。 ふふん。」
「イフリート凄い! 偉い!」
「んぅっ。 カイトの撫でテクは最高だな・・・。 ふふっ。」
説明を聞いていた俺は、皆が《精霊》に様を付けて呼ぶ理由を改めて知った事で、興奮冷めやらぬまま、その感情とは裏腹に、イフリートの頭を先程よりも優しく丁寧に撫でると、イフリートは気持ち良さそうな声を上げると共に、その表情も緩み切っていた。
『こ、これが勇者の器!?』
俺達の様子を見ていた皆は、驚きを露わにしながら、一言そう呟いた。
「こほんっ・・・。 そして、この頃から属性の概念が創られた。 創造する際に協力した《魔神》や《精霊》の持つ属性の種類によって、基本的なその種族の魔力がだいたい決まって来る。 例えば、火属性の《魔神》のみで創った《精霊》は、火属性特化になるとかな。 《人族》だと、8属性で協力して創造した者達であるため、基本的には全ての属性が平均的になっている。」
表情を引き締め直し、イフリートが続けて語ってくれる。
「ああっ! だからイフリートは、俺が光と闇の属性の魔力が高いから、光か闇の《精霊》に会えたら分かるかもって言ったのか。」
「そうだ。 カイトはどの属性も《人族》の平均値を大幅に超えているが、中でも光と闇属性の魔力が飛び抜けている。 そこに、何か手掛かりがあるかもしれんと思ってな。」
「ちなみにそこにいる魔剣、あやつはこれまで眠っていた金属性の《精霊》が、カイトから魔力を大量に注がれた事で、眠りから覚めたのであろう。」
俺に関する手掛かりについて話してくれたイフリートは、更なる驚きの種を投下して来た。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!? そうなの!?」
「はい。 マスター。」
イフリートから新たな事実を知らされた事で、思わず驚きの声を上げた俺は、その勢いのまま魔剣の女の子を見詰めた。
「えっと、名前は?」
「鋼の《精霊》クロムであり、《魔剣クロム》でもあります、マスター。」
魁人が魔剣の女の子に名前を尋ねると、抑揚の少ない声でクロムと名乗ったのであった。




