第73話 淫魔族の契約
寝ていた魁人の腰の上に跨ったまま、自己紹介した《サキュバス》のアブリルは、魁人のモノにして欲しいと告げた。
「さきゅ、ばす・・・。 《サキュバス》!?」
「もぉ、そんなに怖がらなくても・・・。」
俺が驚いて、聞いた種族を確認する様に繰り返し口に出すと、アブリルは、俺が怖がっているのだろうと勘違いしたのか、苦笑いを浮かべながら、俺を落ち着かせようとして来る。
「おお~、この世界で《サキュバス》の人と初めて会えた。 あっ、ごめん。 俺は《黒峰魁人》。 魁人って呼んでくれて良いからね、アブリル。」
しかしながら俺は、《サキュバス》に会えた事で高揚感が増し、嬉しさを露わにしながら自己紹介した。
「あ、あれっ? カイトちゃん・・・は、私のこと怖くないのっ? 君達には無い、羽や尻尾だってあるのよ? ほらほら? お姉さん、君たちの精や魔力を食べちゃうのよ?」
初めて会話した時は、妖艶な雰囲気で話していたアブリルだったが、今は平常時の話し方になってきている様だ。どうやら、先にアブリルが言っていた、俺の魔力を吸った所為か、吸い過ぎた所為かは分からないが、それが原因で発情していたのかもしれない。
「えっ? 何で? 俺は会えて嬉しいけど?」
「・・・。」
「もぉ~! 君ってばカワイイんだからぁ~。 ねねっ。 お姉さんの事、1度で良いからリルお姉ちゃん、って呼んでくれないかなぁ?」
俺は、当たり前の事だと言わんばかりに素直な気持ちを伝えると、アブリルは一瞬驚いた表情を見せたが、それも束の間、嬉しそうに自身の名前の呼び方を哀願して来た。
「えーっと・・・、こ、こほん。」
「リルお姉ちゃんっ。 ど、どうかな? 俺には姉が居ないから、お姉ちゃんって呼ぶの、何だか照れるな・・・。」
「カワイイ! カイトちゃんっ!」
「うわっぷ!」
感極まったのか、アブリルが照れて頬を掻いていた俺の頭を、自身の胸に抱き寄せる様にしてきた。その感触は、滅茶苦茶温か気持ち良いものだった。
「ふふっ。」
「我は汝、《黒峰魁人》と契約を願いし淫魔、《アブリル=ルピンケリ》。 これより我が生涯、彼の者とのみ吸精、吸魔するとここに誓う。 また、契約破りし時、我が身を以ちて、彼の者に償うと誓わん。」
「んっ。」
チュッ。
「んぷ。」
「今この時、この口付けを以って、ここに契約を完了せり。」
突然、俺に抱き付いていたアブリルが、微笑みを漏らすと、契約の言葉らしきものを言い、俺に口付けをして来た。そして、唇を離したアブリルが、更に言葉を加えると、アブリルの腹の辺りが紫色に光り輝き、そして、ピンクの柄の紋様の様なものが、アブリルの腹に浮かんだ。
「ふふっ。 今のは《淫魔族》が生涯で1度だけ使える契約の儀式。 これで私が精や魔力を食べる事が出来るのは、カイトちゃん、君からだけ。 もし、他の誰かから食べたら、私に何かしらの罰が下る。 あっ、カイトちゃんには契約の影響は何も無いから、安心してねっ。」
「なっ!? 何でそんな危ない契約を!?」
俺は、何事も無かったかの様に、アブリル自身が危険にさらされるかもしれない事を、そう、しれっと言った事に対して怒りを覚え、声を荒げる様に問い質そうとしてしまう。
「あのね、《淫魔族》が、私が生きる為には必ず、生きている異性の人の精か魔力が必要。 私達は生きる為に、誰かに頼んでそれらを分けてもらうか、無理矢理奪うしかない。」
「その相手を殺してしまう事も?」
アブリルが、少し悲しそうな顔をして話し始めた事で、俺は平静を取り戻し、普段通りに会話出来る様になっていた。
「うん、そう・・・、ね。 相手の許容量が少なければ稀に・・・、ね・・・。 けれど、契約すれば、少しの精や魔力で生きて行けるようになる。 特に、好きな相手、愛せる相手と契約出来れば効果は大きいし、愛情が深くなればなるほど、吸精や吸魔の効果も段々と大きくなっていくの。 ちょっと吸えば何日も、保つ様になったりね。 その点、カイトちゃんは《サキュバス》を怖がらないし、膨大な魔力を持ってて、吸い過ぎても殺してしまう事は絶対に無い。 お姉さん好みのカワイイ顔に、人柄も、お姉さん好み。」
「そこまで言われると、流石に照れるけど・・・。」
俺は少々照れて頬を軽く掻きながら、アブリルの話の続きを聞く。
「だから、生涯に1度の契約の儀式をする相手として、カイトちゃん以上に素敵な人はもう見つから無いと思った。 だから私は、君にこの契約を捧げようと決めたの。」
「そっか・・・。 理由は分かった。 けど、何で事前に俺に相談してくれなかったの?」
「ご、ごめんなさい・・・。 お、怒った・・・、かな?」
俺が真剣な顔付きで、アブリルに問い掛けると、アブリルは不安そうな顔で聞いて来た。
「まぁ、少し・・・。」
「ご、ごめんなさい、カイトちゃんっ。 いきなり知らない女、ましてや《サキュバス》の女にそんな重い事言われても、迷惑・・・」
「あぁ、違うよ、アブリル。」
俺が怒っている事を伝えると、アブリルは、慌てて謝罪の言葉を言って来たが、俺の思いとは異なるその言葉を途中で遮った。
「え?」
「その・・・、生涯で1度だけの契約の儀式、しかも特定の相手のみしか吸精や吸魔が出来なくなる。 それって、その異性が好きになったから、ずっと一緒に・・・俺と居たいって思ってくれたからだよね?」
驚いているアブリルの顔を、正面からしっかり見ながら俺は思いを伝え続ける。
「う、うん。」
「なら、その契約の意味って、俺と結婚したい、もしくは、しても良いって事で合ってるのかな?」
「うん。」
「それなら、せめて、俺も儀式前にアブリルと一緒に居る覚悟、契約する覚悟を決めたかった。 アブリルが、俺とずっと一緒に居ようって決めてくれたんなら、ちゃんと俺もアブリルとずっと一緒に居ようって決めたかった。 その上で契約したかった。 だから、少し怒ってる。 アブリルと居たくない訳じゃない。 寧ろ俺に決めちゃって良いの? って少し思うけど・・・。 まぁ、とにかく今後、今回の様に大事な事を決める時、必ず俺に事前に相談する事! 今回の契約みたいに、大事な事だからこそ、ちゃんと2人で話し合って決めよ? 良いね? 俺と約束だよ?」
「カイトちゃんっ・・・。 ありがとう。 約束します・・・。 やっぱり、君を選んで正解だったっ・・・。」
俺が、怒っていた理由と、2人の約束の内容を伝え終えると、アブリルは、嬉しそうに目尻から涙を零し、両手を組んで、祈りをささげる様なポーズをしながら、噛み締める様にして思いを言葉に出してくれた。
「ふふっ、カイトちゃんっ!」
ぷにゅんっ。
「うわっぷっ。」
そして魁人の顔は、感極まって抱き付いて来たアブリルの豊満な胸に、再び埋められる事となったのであった。




