第72話 アブリル=ルピンケリ
魁人は、シェリーの頼みでもう1部屋借りる事にし、受付のお姉さんから部屋の鍵を受け取った。
「そうだ、最後にカイト殿。 勇者候補の招集は明後日になる予定だ。 その為、明日1日は自由にしていてもらって構わない。 体を休めるなり、街を見に行くなり、好きな様に過ごしてもらえば良い。 明後日は、私がこちらの宿に迎えに来る。」
カミーラが、これからの予定を、俺に伝えてくれる。
「了解、カミーラさん。」
「ふふ。 これも私達の仕事の様なものだ。 では、カナリー行くぞ。」
「ええ、カミーラ。 それでは、皆様これで失礼しますね。 もし、何かありましたら、私共の詰所にお越し下さい。 詰所は、商業区の王城近くにありますので。」
「カミーラさん。 カナリーさん。 色々とありがとうございました。」
俺は世話を焼いてくれたカミーラとカナリーに、お礼を言った。
「ああ、構わないさ。」
「ではまた。」
こうして、魁人達と別れの挨拶を交わしたカミーラとカナリーは、顔をほころばせながら宿屋を出て行った。
「それじゃあ、今日は部屋に行って休もうか。 俺は明日、街に出てみようと思うから、一緒に来たい人がいれば、昼頃にこの受付前のロビーに集合で。」
『はーい!!』
程無くして、魁人達は皆それぞれに部屋へと向かって行った。
「カイト様。 本当にありがとうございます。」
部屋に入ると、俺はシェリーを背中から下ろし、備え付けられたベットに寝かせてあげた。すると、シェリーがお礼を言ってくれる。
「気にしないで、シェリー。 俺は、傷は魔法で治せても、体力は回復させてあげられないみたいだから、今はゆっくりとお休み。」
俺はシェリーに掛け布団を掛け、ローブのフード越しに頭を優しく撫でる様にしながら、優しい口調で伝えた。
「ありがとう・・・ござい・・・ます、カイト・・・様・・・。 すぅ・・・。 すぅ・・・。」
すると、それが気持ち良かったのか、シェリーの瞼がすぐに落ち、小さな寝息を立てて眠りについた。
「シェリーは寝顔も綺麗だな・・・。 あ~っと、ダメだダメだ。 ふぅ・・・信頼してくれてるシェリーを裏切る訳にはいかないな。」
俺はシェリーの頭を優しく撫でながら、被っているフード中に見えるシェリーの寝顔が、とても魅力的だと感じた。しかし、信頼を寄せてくれたシェリーに応えるためにも、邪念を飛ばし、何とか気を落ち着かせる。
「今の内に、何か食べる物と・・・、水と拭く物も用意して来よう。 とりあず、内側からも鍵開けれるし、一応鍵閉めて・・・、後は書置き残しておけば大丈夫かな?」
シェリーが目を覚ました時に、不自由の無い様に、俺は色々と揃えて来ようと考えた。そして俺は、この大陸に来る時から皆に習い始めていた、この世界の文字で、拙い文章ながらも書置きを残して部屋を出た。
一方、魁人が部屋を出てしばらく経った頃。シェリーが静かに目を開けてベッドから起き上がった。
「カイト様が勇者様候補の殿方だったなんて・・・。 これも、運命なのかもしれませんね・・・。 ふふっ。」
シェリーは、自身しか居ない部屋の中で、1人嬉しそうに声に出して呟く。
「本当にお優しい方・・・。 また必ず、お会いしましょうね、カイト様。」
魁人の書置きを見たシェリーは、最後にそう呟き、魁人の書置きに自身の言葉を書き加え、こっそりと部屋を出て、宿屋を後にした。
そして、しばらく時間が経った頃。外はすでに陽が落ち、夜になっている。そこへ色々と物を揃えた魁人が部屋に戻って来た。
「ただいま~・・・、未だ寝てるかな?」
俺は部屋を出てからそれなりに時間が経っていたが、シェリーが未だ寝ている可能性も考慮して、こっそりと、そしてゆっくり部屋に入った。
「あれ? 居ない? シェリー?」
「ん? 書置きを置いた場所が変わってるから、起きて部屋を出たのか・・・。 あれ? 書置きに何か書き加えてある。」
そんなに広くも無い部屋を一通り探し終えた俺は、書置きを置いた場所が異なっているのに気付き、用紙を手に取ってみると、シェリーに書き加えられた俺当てのメッセージに気付いた。
(カイト様へ。 何の挨拶もせずに去る私を、どうかお許し下さい。 お会いした時にお話ししました婚約について、私の中で決心が付きましたので、家に戻ります。 今までありがとうございました。 もし、次お会い出来る機会を持つ事が出来たのなら、カイト様に直接お伝えしたい事があります。 お許し頂けるのなら、どうか聞いて下さい。 今と変わらない優しい貴方様に、またお会い出来る事を、心より祈っております。)
「シェリーより、か。 行っちゃったか~。 未だあんまり話せて無かったけど、何か寂しいな。 まぁ、シェリーが元気になって良かったとしようか。」
頭の中でシェリーからのメッセージを読んだ俺は、少し寂しさを覚え、軽く苦笑いを浮かべながら1人呟く。
「今日はもう休もう。 明日、出かけるつもりだし。」
シェリーの介抱の予定が無くなった俺は、手持無沙汰になり床に就く事にした。
「あぁぁぁんっ!!」
何時の間にか眠っていた俺の耳に、何だか艶めかしい嬌声が聞こえて来て、眠りから覚めた。
「んぅ・・・、シェリ~、どうかした~?」
ぷにゅんっ。
「あんっ!」
俺は左手で寝ぼけ眼を擦りながらシェリーの名前を呼び、掛け布団を退け様とすると、何かとても柔らかい物を右手で触った、否、掴んだ感触があった。
「・・・。」
「あれ!? そう言えば、シェリーは出て行ったはず・・・。 今の声は一体・・・? それに、ぷにゅんっ、ってめっちゃ気持ち良い感触が・・・。」
段々と目が覚めて来た俺は、今の状況に違和感を覚え始め、ブツブツと呟きながら思考を巡らせる。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁん・・・。」
「ちょっ!? 誰っ!? でか!?」
ハッキリと目が覚めた俺は、俺の腰に跨る、熱い吐息を吐きながら舌で自身の唇をチロチロと舐めている、妖艶な姿のお姉さんと目が合った。そして、俺はそんな姿のお姉さんを見て、思わず驚きの声を上げた。特に胸がでかい。うん、でっかい!
「君の魔力と・・・、はぁ、はぁ、指使い凄すぎぃ・・・。 この私が、気持ち良くなっちゃっうなんてっ。 ふふっ。 それにぃ、君、凄くカワイイ顔してるっ。 お姉さん、君の事気に入っちゃったっ。」
「えぇっと・・・、お姉さんは一体?」
俺は理性を総動員しながら、妖艶なお姉さんに問い掛けた。
「私は《淫魔族》、《サキュバス》の《アブリル=ルピンケリ》。」
「お姉さんを、君のモノにしてよ。」
寝ていた魁人の腰の上に跨ったまま、《サキュバス》のアブリルはそう告げたのであった。




