第69話 お持ち帰り
《リベル川》で魁人は気を失って川を流れて来たフード付きのローブを着た女の子を助けた。その女の子はシェリーと名乗るのだった。
「フレイムスフィア!」
「あっ、シェリー。 この球体に触らない様にして手を翳してみて? 体温まるし、服も乾かせるから。」
互いにずっとずぶ濡れの状態ではさすがに風邪をひいてしまうと考えた俺は、空中に留まる様に炎の魔法を発動させ、焚火代わりにした。
「シェリーはどうしてその・・川を流れて来たのかな?」
俺はシェリーを助けた時の経緯を伝えた上で、今度はシェリーの事情を聴く姿勢に移った。
「その・・私は一度も会った事も無い殿方と結婚させられてしまいそうで・・・。 あっ、勿論父からは選択権を頂けているので、お断りする事も出来るのですが、如何すべきか少しでも考える時間が欲しくて家を勝手に抜け出したのです。 ですが、お恥ずかしながら綺麗な川を見ながら思索に耽っている時に足を滑らせてしまい、そのまま落ちて溺れてしまったという訳なのです。」
「ははっ。 シェリーって、ドジっ娘だね。」
「ドジっ娘・・・何か新鮮な響きですね。」
川を流れて来た経緯を聞いて、俺は場を和ませようとドジっ娘という言葉を使ったが、シェリーは初めて聞く言葉だったのか、少しキョトンとした様な顔をして感慨に耽っている。
「あれ? この世界では萌えるって聞いた事あるから、ドジっ娘とかも通じると思ったけど・・・。 ん~。」
「申し訳ありません・・・。 私が無知なばかりに、カイト様にその様なお顔を・・・。」
俺が少し、難しい顔をしながら考える様な仕草をすると、シェリーの目には俺を困らせてしまった様に映ったのか、すまなそうに謝罪してきた。
「あっ、いや! 気にしないで! ドジっ娘なんて俗語、別に知ってなくても良い言葉だしね。」
「それなら良いのですが・・・。 恩人に粗相があっては、家の名に泥を塗る事になってしまいます故。」
「ははっ。 シェリーって言葉遣いといい、綺麗な銀色の髪や身形といい、どこかの貴族かお姫様みたいだ。」
「っ!?」
俺がその様に例えて伝えると、シェリーは一瞬緊張した様に体をビクッと震わせて息を吞んだ。
「あれ? シェリー、どうかした?」
「い、いえ・・・。」
「あっ、そろそろ服乾いて来たけど、シェリー立てる?」
シェリーはこれ以上は踏み込んで欲しく無いのか、言葉少なく覇気のない返事をしてくる。俺はそんなシェリーの様子を見て、話題を変える事にした。
「も、申し訳ありません・・・。 どうやら立つのが精一杯で、まだ歩けそうにもありません・・・。」
俺に言われて自身の状態を確認したシェリー。しかし、何とか立てはしたものの、膝がふるふると震えて、傍から見ても動くのは無理そうだった。
「ほら、背中に乗って?」
俺はそんなシェリーの様子を見て、シェリーに背を向けて屈みながらそう言っておんぶの姿勢をとった。
「カイト様、宜しいのですか?」
「俺には女の子を見捨てて立ち去るという選択肢など存在しない! なんてね。 何か訳有りみたいだし、シェリーが安心出来そうな所まで送って行くよ。」
シェリーからの言葉にどういう意図が含まれるかは計りかねるが、俺はその事は頭の片隅に入れておき、しゃがんだ態勢のまま送る事を提案してみた。
「ふふっ。 お優しいのですね、カイト様は。 私に隠し事があると承知の上でその様に接して下さるなんて・・・。 その・・・もし宜しければ、しばらくの間一緒に居ては頂けませんか?」
「えぇぇぇぇっ!? 俺と!? ちょっ、俺が悪い奴だったらどうするのさ!? 」
シェリーからの思わぬ提案に、俺は驚きを露わにしつつも、軽はずみとも取れるシェリーの発言に、少しムッとした様な顔をして注意も促した。
「ふふっ。 私はカイト様をとても誠実で、お優しい方だと信じる事に決めましたから。 それで裏切られる様でしたら、私の目が曇っていたという事です。 ですから、宜しくお願い致します、カイト様。」
「綺麗な女の子にそんな信頼寄せられたら、男としては絶対に裏切れないね。 分かった。 こちらこそ宜しく、シェリー。」
俺はシェリーのそんな信頼に応えられる様に、改めて挨拶を交わした。
「あっ、でも旅の仲間達が居るんだけど、一緒でも大丈夫かな?」
「ええ、構いません。 カイト様のお知り合いの方達でしたら信用致します。」
「ありがとう、シェリー。 じゃあ、行こっか。 皆に紹介するよ。」
こうして、魁人はシェリーを背に背負って立ち上がり、おんぶする形で車両置き場に戻っていった。
「おーい! 皆~!」
「遅いよ~、カイト~! 何してたの?」
真っ先に俺の呼び掛けに気付いたエメリィが、少し不満気に口を尖らせながら遅くなった理由を聞いて来た。
「えーっと・・・川泳いでたら、女の子拾いました。 ははっ。」
「カイト様に拾って頂いた、シェリーと申します。 皆様、如何か宜しくお願い致します。」
俺がエメリィからの問い掛けに答えると、シェリーは俺に背負われたままではあったが、自ら自身の紹介を始めてくれた。
『えっ?』
『・・・・・・・・・。』
『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』
そんな俺達の話を聞いていた皆がキョトンとした顔をして黙ったかと思うと、皆一斉に驚きの声を上げた。
「あははは・・・。」
そして、そんな皆の様子を見ながら苦笑いを浮かべていた魁人なのであった。




