第68話 ローブの女の子
ドドドドドドドッ。
『グルゥ!』
迫り来る何かの足音はラナドの集団であった。それも走って来たラナドの全てが、魁人の方へ向かって来ている様である。必然と魁人の脳裏には、《アポトリカ》の乗り物屋での出来事の記憶が蘇っていたのだった。
「カ、カイトさん! 私がラナド達を引き付けますから、皆さんでお逃げ下さい!!」
そんな現在の状況から、カナリーが騎士として最善の選択をしようとしている様だ。俺の前に出て背を向け、ラナド達の前に立ちはだかる様にして立った。
「大丈夫ですよ。 カナリーさんは危ないので、退いておいて下さいね。」
俺は悟りを開いた僧侶の様に、何もかもを受け入れて達観した様ににこやかな表情を浮かべながら、カナリーの肩をポンッと軽く叩いて優しい口調でそう言った。
「さっ、来ぉぉぉぉい!」
『グルッ!』
カナリーを安全な所に退かせて俺が両手を広げて大きくそう叫ぶと、ラナド達は何だか嬉しそうに鳴いている様に聞こえる鳴き声を上げ、そのままこちらへ走って来る。
「な、何だか無駄にカッコイイわね!?」
今の状況を離れて見ていた女性陣の中から、エメリィが苦笑いを浮かべて思わずといった様に感想を漏らしていた。
「し、師匠!?」
「皆さん、これ本当に大丈夫なんですか!?」
こんな状況を初めて見るファブリとミーネが、取り乱しながら驚きや疑問を叫ぶ様にして口々にしている。
ドドドドドドドッ。
ドォン。ドサッ!
ガブッ。カプッ。バグッ。ペロッ。
こうして魁人はラナド達に地面に押し倒され、口に咥えられたり舐められたりして群がられた。傍から見るとその光景は、食べられる獲物とそれに群がるハイエナの様な光景だった。
『キャァァァァ!』
「カイトさん!?」
『師匠!?』
そんな光景を見ていたファブリとミーネ、カナリーは思わず叫び声を上げ驚きを露わにしつつも、俺を心配そうに呼んでくれる。
「うわっ・・この光景は流石に怖いな・・。 だ、大丈夫か、カイト?」
「さ、流石に私も心配になって来たよ~・・。 カイト君大丈夫~?」
ルビアルカとナユカもこの光景を若干引き気味に見ながら、それぞれ心配する様子を見せてくれている。
「んむんむむむぅむぅむっ。」
『こ、今回も何を言ってるのか全く分からない!!!!!!』
そんな魁人の言葉を聞き、ファブリとミーネ、カナリー以外の女性陣が皆苦笑いを浮かべて一様に大きな声で叫んだ。
「うわぁ・・。 流石に涎で全身ベトベトだ・・・。」
そんなこんなで、ラナド達から解放された俺は、涎塗れになった自身の体を見ながら1人ごちる。
「カ、カイトさん? 大丈夫・・そうですね?」
「えぇ。 実は《アポトリカ》でも似た様な事があったので・・・。 ははっ。」
俺は苦笑いを浮かべ、恥ずかしそうに頭を軽く掻きながら、心配そうに聞いてくれているカナリーにそう説明する。
「カイトさん。 この先に《リベル川》という大きな川が在るので、軽く服を洗って来てはどうでしょうか? 流石にラナド達の涎塗れの方を、しかも勇者候補の方をそのままの状態で街を歩かせる訳にはいかないので・・・。 私達はここでお待ちしていますから。」
どうやらカナリーに気苦労を掛けてしまった様だ。俺に気を使ってその様に勧めてくれる。
「そうですね・・。 なら、お言葉に甘えて軽く洗ってきます。」
「はい。 いってらっしゃい、カイトさん。」
こうして俺は一度皆と離れ、カナリーが教えてくれた川を探しに行った。
そしてしばらく道形に歩いて行くと、その眼前に大きな湖が何所までも続いている様な広い川が現れてきた。その川の青く澄んだ綺麗な水は、キラキラと日の光を反射しながらゆったりと流れている様だった。
「滅茶苦茶広っ!! それにすごい綺麗な水だ・・。 結構深そうなのに底までハッキリ見える。」
俺は《リベル川》を見て、思わず1人で感じたままを口に出す。
「ん~、今は周りに人居ないし、このまま飛び込んじゃうか! とうっ!」
ドボォンッ!
キョロキョロと周りを見渡した後、俺はそう言って掛け声を上げると共に川へ飛び込んだ。
「気持ち良い・・。」
そして俺は、水の流れに身を任せる様にして完全にリラックスした様に脱力し、水面にプカプカと浮きながら空を見上げて呟いた。
ゴッ。
「あ痛!?」
そうしてしばらく浮いていると、何か上流から流れて来たモノが、気を抜いていた所為で全く気付いていなかった俺にぶつかって来た。
「痛くなかったけど、癖でまた声出しちゃったよ・・・。 恥ずかしい・・・。 それで、これは・・・フード? あっ、ローブってやつかな? ちゃんと女の子の顔も付いてるよ、ははっ。」
「・・・・・。」
「えっ、人!? 女の子!?」
「ちょ、大丈夫?」
俺は急な事態に1人百面相しながら、焦りを表す様に矢継ぎ早に言葉を発していく。そして、一頻り百面相し終え、落ち着きを取り戻しつつある俺は、流れて来た女の子の生死を確認してみる。
「意識は無いけど脈はある。 呼吸は・・若干浅い。 水飲んじゃったのかも・・・。」
俺はそう判断すると、ローブの女の子を川の中から抱き上げて、川から上がり、地面に横たわらせて人工呼吸を行った。
「こぷっ。 けほっ! けほっけほっ!」
「・・・・。」
「ここは・・・?」
どうやら人工呼吸は上手くいった様だ。ローブの女の子は飲んでしまっていた水を吐き出し、咳き込んだ。そして少しづつ目を開けていくと、現状の確認の為か近くに居た俺に所在地を聞いて来た。
「君、大丈夫? ここは《リベル川》の・・・ど、どこだろう?」
「・・・・ふふっ。 面白い方ですね。」
未だ目を覚ましたばかりな上、溺れた所為で体力が削られているのだろう。ローブの女の子は少々力無く微笑みながら言葉を発した。
「ははっ、そうかな? 俺は《黒峰魁人》。 魁人って呼んでくれたら良いかな。 君は?」
俺はそんな様子のローブの女の子を元気付ける為にも、優しく笑い掛けながら自己紹介した。
「私は・・シェ・・あっ。 シェ、シェリーと申します。」
「宜しく。 シェリー。」
名前を言い直した様に感じられたシェリーだったが、俺は気にせず教えてくれた名前を呼ぶ事にした。
こうして、《リベル川》で魁人はシェリーと名乗るローブの女の子と出会ったのであった。




