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第56話 お姫様抱っこ

 「俺は《黒峰魁人(くろみねかいと)》。 怖がらせてごめん。 攻撃したりしないから、怖がらないで? ね?」


 先程、魔法によって怖がらせてしまったファブリに対し、俺は両手を上げ、何もしないとアピールしながら出来る限り優しく話し掛けてみる。


 「・・・。」


 「あはは、カイト・・・。 キミ、今回はちょっとやり過ぎちゃった様ね・・・。」


 未だ警戒を解かないファブリの様子を窺いながら、側にいたエメリィが苦笑いを浮かべて同情する様に声を掛けて来た。


 「あぁ・・・どうしよ・・・。」

 「あ、俺も、と言うか、俺達も冒険者なんだ。 ほら。」


 俺は何か打ち解ける方法は無いかと思案する。そして、何か共通の話題で話せる様になればと考えた俺は、ファブリに冒険者組合でもらったブレスレットを見せてみた。


 「っ!! じゅ!?」

 「お、お願いします! な、仲間を、友達を助けて下さい!!」


 すると、俺のブレスレットを見たファブリが、急に懇願する様に助けを求めて来る。


 『へ?』


 理由も分からず助けを求められた俺とエメリィは、一緒にポカンとした表情を浮かべて顔を見合わせた。


 「えーっと・・・。 どういう事?」


 切羽詰まった様子のファブリからの助力を願う懇願に、俺はとりあえず理由を聞く事にする。


 「あっ、すいません・・・。 わ、私は森を抜けた所にある、《ナミン》という村から来ました。 村が《魔族》に襲われたんです。 正規の兵士さん達は居ませんが、村にもちゃんと冒険者組合の支部があるので、普通なら問題は無いのですが、襲って来た《魔族》の数が多くて・・・。 数人がばらばらに各地の町や村へ救援を呼びに行く事になったのです。 その内の1人が私だったのですが、さっきの《魔物》に見付かって逃げていたところで、あなた方と会った、という訳です。」

 「未だ、村には冒険者の友達が残って戦っています。 ど、どうか、助けては頂けませんか・・・。」


 状況説明を終えたファブリは、泣き出しそうな顔で改めて俺達に助力を求めてくる。


 「分かった。 俺達で役立つかは分からないけど、行ってみようか。」


 そんなファブリの様子を見て、俺はほとんど意識する事無く自然とそう笑顔で口にしていた。


 「たくっ・・・。 カイトは女の子皆に優しいんだから、もう・・・。 仕方ないなぁ。」


 そんな魁人を見て悪態をつく様に言うエメリィだが、その顔は優しそうに微笑んでいる。


 「あ、ありがとうございます!」


 感謝の言葉を伝えて来てくれながら、ファブリが初めて俺達に笑顔を見せてくれた。


 「あ、ファブリ・・・で良いのかな? 俺は魁人で良いから。 それで・・・、君は竜車操れたりする?」


 「は、はぁ。 慣れてますけど・・・?」


 「なら、頼むよ。 この大陸に着いて、《アポトリカ》で竜車買ったのは良いけど、誰も運転手した事無くて・・・。」


 「た、確かに初めてみたいですね。 馬車や竜車を操る人を一応御者って言うので・・・。 わ、分かりました。」


 「なるほど・・・。 まだまだ知らないことが多いな~。 ファブリ、一先ず村まで竜車の御者お願い。」


 俺は、1人この世界での知識不足に対して自虐的に呟いた後、ファブリに御者を改めてお願いした。


 「よし! じゃあ、2人共乗って!」


 「分かったわ、カイト。」

 「は、はい。」


 俺が竜車に乗る様に促すと、2人は了承した。


 「っ!!」


 ファブリが歩き始めたところで、顔をしかめて急に立ち止まった。


 「ファブリ、どうかした?」


 「あ、いえ・・・。」


 「足、怪我してるな・・・。」


 少しファブリの立ち方に違和感を感じた俺は、ファブリの足を見てみると切り傷がある事に気付いた。


 「ファブリ。 一時的とは言え、これからしばらく俺達はパーティだ。 今後は遠慮しないで言う事。 良い?」


 「は、はい・・・。 ごめんなさい・・・。」


 「なら、良し! じゃあ、ちょっと失礼して。」


 そう言って俺はファブリの両膝裏と背中に手を当て、スッと自身の胸へ抱き上げた。


 「きゃっ!」


 『あぁーーーーーー!!』


 俺の行動を見ていた女性陣が一斉に声を上げる。


 「今は時間が無いから、一先ず竜車で治療しよう。」


 「は、はい! カイトさん・・・。」


 ファブリは恥ずかしそうに頬を染め、もじもじしながらも体を預けてくる。


 『ま、まさかのお姫様抱っこぉーーー!?』


 そして、遅れるようにして、もう一つ皆から叫ぶ様に声が上がり、辺りの森に木霊する。


 こうして森中で女性陣達の声が響き渡った。そして後に、この声を聞いた通り掛かりの旅人数人が、この森で叫び声を上げる女の霊が出るという話を広める事となるのであった。

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