第55話 ファブリ=メアブル
ズザーーーー!
何か大きな影の塊にぶつかったラナドは急停止し、竜車が漸く止まった。
「ちょっ! カイト、何か轢いたぞ! あぁ・・・、あの時、あたしがちゃんと止めてれば・・・。」
「あわわわわわ・・・。 ど、どうしよう、カイト~!?」
ルビアルカは先のエメリィの発言から、少し違和感を感じていたにも拘らず、止めれなかった事を後悔し、エメリィは、こんな事になって涙目になりながら、オロオロしている。
「皆は竜車の中に居て? ルビアルカはいざって時、皆をお願い。 俺はとりあえず様子を見てくる。」
俺は皆を安心させるためにも、一人冷静に、笑顔で皆に話しかける。
「あ、あぁ! 分かった。」
『お、お兄ちゃん?』
「カイト様・・・。」
「カイト君・・・。」
そんな俺を見ていたルビアルカを始め、皆落ち着きつつある様だ。
「うん? これは・・・。」
俺は1人で、竜車で轢いてしまった影の塊の方を見に来た。すると、何か複数の生き物だと思っていた影の塊の方は、1匹の大きい歪な姿をした生き物だった様だ。
「エメリィ、ごめん。 ちょっと来て~?」
俺はこの生き物が何なのか聞こうと思い、エメリィを呼んでみる。
「な、何? カイト。」
エメリィは俺に呼ばれると、恐る恐るこちらにやって来た。
「ねぇ、これって、何の生き物? 《魔族》・・・で合ってるかな?」
「グルゥ・・・。」
その生き物は、未だ竜車にぶつかったダメージが残っているのか、弱々しい鳴き声を上げている。
「う、うん。 イルイビリムって言う中型の《魔物》の一種かな・・・。」
「・・・。」
「カ、カイト?」
急に黙った俺が気になるのか、エメリィは俺に呼び掛けてくる。
「ホーリーライトレイン!!」
キュィーーー。
キュドドドドドドドドドドォン。
魁人が呪文を唱えて魔法を放つ。すると、上空から光の光線が雨の様に絶え間なく降り注いだ。
「キャーーー!!」
余りの威力と閃光に、エメリィは目を瞑って悲鳴を上げる。
「ふぅ・・・。 威力もっと抑えても良かったかな・・・。 さて、もう片方はっと・・・。」
俺は一仕事終えて良い汗かいたなという様な、爽やかな表情で額の汗を拭う仕草をしながら、もう1つの飛び出て来た影の正体を探そうとする。
『えぇぇぇぇぇぇぇーーーー!?』
魁人の行動と表情の落差が大き過ぎて、竜車からそっと様子を窺っていた女性陣含め、皆一斉に驚きの声を上げた。
「《魔物》1匹にあの威力の魔法・・・。 えげつないな・・・、カイト・・・。」
「ピカピカ光ってたね。」
「すごく綺麗だった。」
「相変わらず、カイト様の魔法はすごいですね・・・。」
「カ、カカ、カイト君! せめて合図を頂戴よ~! さすがにあの威力の魔法をイキナリはビックリするよ~!」
魁人の魔法を見て、皆それぞれに思った事を口にする。
「ははっ・・・ごめん・・・。 《魔族》を倒すのは初めてだし、どの位の威力で良いか分かんなくて。 次は気を付けます・・・。」
俺は苦笑いを浮かべながら、さすがにやり過ぎたと反省の色を皆に示した。
「ちなみに、一応カイト君は《魔族》を倒したことあるよ~? あのデビルクラーケンは《海魔族》で、《魔族》に分類されてるからね~。」
「あっ、そうだったんだ。 覚えとくよ。 ありがとう、ナユカ。」
俺は補足を入れてくれたナユカに、笑顔でお礼を言った。
「さてと・・・。 もう1つの方の影も探しておくか。 さっきの《魔物》と似た種類で一緒に行動していたかもしれないしね。 退治しとこう。」
そう言って俺は、掌に魔力を集め始め、もう一つの飛び出して来た影の元へ歩み寄る。
「ふぇぇぇぇぇ!? ちょ、ちょっと待って下さい! わ、私は《ヒューマン》。 《ヒューマン》ですから!! 待って下さい~!!」
すると、慌てた様に木の陰から一人の少女が飛び出して来た。
「君は・・・。」
「わ、私は《ヒューマン》の《ファブリ=メアブル》です。 ぼ、冒険者に登録している魔法使いです。 こ、殺さないで・・・。」
目に涙を溜め、強張った表情で生まれたての小鹿の様にプルプルと震えながら、自己紹介するファブリ。
「あちゃー。 本当にやり過ぎた・・・。」
そんな様子の少女を見た魁人は、自身の顔を覆いながら自責の念に駆られるのであった。




