第5話 エメラルド=フィ=トワイライト
「あの~・・、あなた達? そのままで良いの?」
集落まで護衛として付いてきてくれてるエルフの女性が、耐えきれず聞いてきた。
それもそのはず、集落に向かって歩いている魁人の右腕にはエメリィが、左腕にはエメラがそれぞれ抱き付いている。所謂両手に花状態だからだ。
「カイトは、私たちの嫁にするからねっ! これで問題無しだよねぇ~。 エメラ~。」
「うん・・。 エメねぇ・・。」
エメリィは嬉しそうに、エメラは少々照れながらそう言った。
『えぇっ!?』
そんな発言に対し、俺と護衛のエルフの女性が同時に驚く。
「俺は嫁じゃなく夫だからね! と言うか2人共嫁にもらっていいの!?」
「いきなり結婚相手連れてきたの!? しかも《ヒューマン》!?」
『・・・。』
そう言った2人の間で少し沈黙が流れた。
『あれ?』
どうやら俺と護衛のエルフの女性が驚いたポイントは、違った様だ。
「まぁ、まぁ良いわ。 とりあえず着いたわよ。 ここが私達の集落。 じゃあね、あなた達。」
そう言って、護衛をしてくれていたエルフの女性は、外壁の門の前で俺たちと別れ、去って行った。
そして、俺は姉妹の2人を伴って門を潜り集落に足を踏み入れた。
すると、そこには魁人が今まで見た事も無いような光景が広がっていた。木々の天辺が見えない様な太い幹の大樹が連なり、それぞれの枝の間には木造の家屋が所々に建てられている。もちろん木の上だけで無く地上にも家屋が建てられ、階段に梯子、移動用の足場でさえも木々できちんと造られ、整備されている様だった。
「おぉ~。 これぞファンタジー!」
今までは空想の世界だけだった様な光景を見た俺は、思わず感嘆の声を上げた。
「エメリィッ! エメラッ!」
すると、俺達の進む方向から、姉妹の2人の名前を呼ぶ女性の綺麗な声が聞こえてきた。
『エメラルドお母さま!!』
姉妹の2人が、前にいる女性を一様にそう呼んだ。
「えっ!? お母さまっ!? お姉さんとかじゃなくて!?」
俺は姉妹のそんな一言に思わず驚き、その美しい女性の容姿を、何度か見返してしまいながらも、現実を中々受け入れられず、本当は冗談なのではないかと思ってしまう程に、母親と言うには若々しい姿であった。
「2人共無事だったのね! 良かったわ。」
姉妹の無事な様子にほっとしているエメラルドと俺たちは、互いに歩み寄っていく。どうやら、嘘偽りなく、エメラルドは2人の母親の様だ。
「お母さま。 彼はクロミネカイトって言うの。 強いんだよ~。 カッコイイんだよ~。 私達の旦那様!」
「へぇ~。 それはすごい・・・。」
「・・・・・・。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!? 旦那様っ!? 2人のっ!?」
エメリィの言葉に対して、エメラルドは言葉も途中に、笑顔のまま思考が止まったかの様に沈黙する。しかしながら、突然驚愕のものへと変わり、驚きの声を上げた。
「あぁ、これは遺伝かな・・・。」
俺は、エメリィとエメラと同じ様なリアクションをするエメラルドを見て、妙に納得してしまった。
「上手くやったわねっ!」
エメラルドはそう喜び、右手を前に出し、親指を立て、グッジョブをしながらウインクをした。
「えっ!? 上手くやった!? お母さんグッジョブしてる!? しかもウインクまで!?」
「えっ!? すでに親公認なの!?」
俺はエメラルドの発言と行動に思わず驚いてしまう。
『でしょっ!』
そして姉妹の2人も、俺の腕に片手で抱き付きながら、それぞれに残りの手の方で、エメラルドと同じ様にグッジョブを作り、ウインクでリアクションしていた。
「ふふふっ。 仲が良いのね。 あなた達。」
そして、いつまでも腕に抱き付いたままの姉妹と俺を見て、エメラルドは微笑みながら言ってくる。
「カイトさん・・・で良いのかしら? 私は《エメラルド=フィ=トワイライト》。 2人の母親で、この集落の主です。 2人を宜しくお願いしますね。」
エメラルドは腕に抱き付いたままのエメリィとエメラ、そして、魁人を笑顔で見つめながら、そう告げるのであった。