第32話 デート(2)
「ここです。」
魁人とリリィは歩いて来た森を抜けると目的地の小川に着いた。
草花は生き生きと咲いていて、魁人とリリィしか今は居ない静かなその場所からは、小川のせせらぎが心地よく聞こえている。
「本当に・・・、綺麗な所ですね・・・。」
リリィはうっとりした様に小さく1人呟いた。
「気に入ってもらえて良かった。」
俺はそんなリリィの様子を見て、嬉しさでついつい笑顔が零れてしまう。
「《シャーストラの森》の中以外にもこんなに風に綺麗な場所があるなんて・・・。 カイトさんに出会って無ければ、知らないままでした・・・。」
どうやら本心から出た素直な言葉の様だ。様付けだった俺の呼び名が、無意識の内にさん付けになっていた。
「ただ、恥ずかしながら、この世界の花の名前とかはよく分からなくて・・・。 例えばこのリリィさんの綺麗な髪の色と同じ黄緑・・・色かな? この綺麗な花の名前とかは分かりますか?」
「え、えぇ・・・。 この花は《シャルトルーズの花》ですね。 明るく薄い黄緑色の花という意味です。」
自然と自分を褒めてくる魁人の言葉に、少し照れながらもリリィは答える。
「ははっ。 リリィさんと同じでしたね。」
俺は素直に思ったことをそのまま口に出す。
「うぅ・・・。 あっ、お、お昼! お昼にしましょう! お弁当作って来たんですよ! バスケットの中の物をどうぞ、カイト様!」
魁人の素直な物言いに頬を紅く染めて照れるリリィは、恥ずかしさを誤魔化す様に作って来たお弁当を勧めた。
お弁当を食べるために魁人とリリィは、座るのにちょうど良い大きさの汚れのほとんどない石を小川の側で見付け、そこに座った。
そうして、魁人はバスケットを開け、中に入っている物を見てみる。中にはパンに野菜が挟まれた小ぶりのサンドウィッチが1つと、同じ中身で先の物よりも大きな物が、2つ入っていた。
「私はこちらの1つを。 カイト様はこちらの大きい2つの方を。 どうぞ召し上がって下さい。」
「おぉ・・・。 女の子の手作り料理・・・。 頂きます!」
「あ~・・・。」
リリィに勧められた俺は、女の子の手作りという嬉しさを噛み締めながら、サンドウィッチを食べようと口に運ぼうとする。
「ちなみにどちらか1つは、激辛ソースにしてあります。」
「ぶっ! ま、まさかのロシアンサンドウィッチ!?」
リリィからの思わぬ試練に、俺はサンドウィッチを口に運ぶのを中断し、驚いた様子を見せた。
「冗談ですよ、カイト様。 さっきの仕返しです。 ふふっ。」
俺への仕返しが成功したリリィは、またも嬉しそうにしている。
そんなやり取りをしながら、楽しく昼食を終えた俺達は、その後も小川に足を浸けてのんびり過ごしてみたり、綺麗な草花を見て心地良い時間を過ごしていった。
「そろそろ・・・、日も沈みそうな時間になってきましたね。 カイト様。」
「そうですね・・・。 今日はすごく楽しかった。 だから、こんな時間が終わっちゃうのは何か寂しいですね・・・。」
デートの終りが近づくにつれ、魁人とリリィからは名残惜しそうな様子の言葉が出てくる。
「日が落ち切ってしまうと、森の中を戻るのが難しくなってしまいそうなので、そろそろ帰りましょうか、リリィさん。 良ければまた肩に座っていて下さい。 バスケットは俺が持ちますから。」
「そう・・・ですね。 戻りましょうか、カイトさん。 帰りも宜しくお願いしますね。」
互いに気遣いを言葉にした後、2人は一緒に帰り道を進んでいく。
「今日はありがとうございました、リリィさん。 俺・・・、すごく楽しかったです。 こんな機会が作れたら、また俺と・・・」
「んっ。」
チュッ。
そう言い掛けた俺の頬に、リリィがキスをしてきた。それにびっくりして俺は、リリィの方に思わず顔を向ける。
「ふふっ。 私も楽しかったのでまたお願いしますね。 カイトさん。 さっきのはそのお礼です。」
「は、はいっ! こちらこそ!」
2人は恥ずかしさから顔を紅く染めながらも、互いに次回もこんな機会を作れたらと思い描く。
こうして今回のエメラルド主催のアンケート企画による魁人とリリィのデートは、大成功となるのであった。




