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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
二章 謎の動く学園!?
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08 これでいいのだ。


 ヱルは語りだす。俺はずぶ濡れになる。

 何故にずぶ濡れなのか?

 噴水から溢れ出る水が、偶然なのか狙ってなのか、俺の頭目掛けて振ってくるからである。

 水も滴るいい男……等とボケをかましている場合ではなかった。

 俺が今すべきことはたったひとつ。

 喋ることの出来ない聖ヱルトリウム女学園の言葉を心で感じることである。

 そう、何事も大事なのは心! ハートなのだ!

 学園に心があるのか? と、誰しもが疑問に思うことだろう。

 ここで断言させてもらおう。


 学園に心は間違いなくある!!


 現に今、俺の心は学園の、いやさヱルの言葉を、耳ではなく心で感じているのだ。

 チャイムの音、風に揺れる木々の音、開け閉めされる窓の音、そして俺に降りかかる噴水の水滴の音。

学園から溢れ出る音の全てが、雄弁に俺の心に向けて語りかけてきているのだ。

 そう言えば、こんな感覚を味わったことが、前にも確かあった。

 あれは嫌なことがあって、へべれけになるまで酔いつぶれた日のことだ。

 フラフラになった俺は、バランスを保つことが出来ずに、近くにあった電信柱にもたれ掛かった。その時である。電信柱が俺に向かって、『こんなことで、お前は良いのか? 将来の事をちゃんと考えているのか?』と説教を始めだしたのだ。

 はじめは『何だ電信柱のくせに、偉そうだな! デカイからって偉いわけじゃないんだぞ! この木偶の坊め!』と、食って掛かっては、話を聞く耳など持たなかった。終いには、唾を吐きかけてやる始末だった。

 だが電信柱は、そんな横柄な俺にも、親身になって話しかけてくれたのである。果たして、俺の人生の中で、これほどまでに俺のことを考えてくれた人? が居ただろうか……。いや、居ない!!

 そう、俺のことを一番考えてくれていたのは、人などではなく、電信柱だったのだ!!

 俺はいつの間にか、大粒の涙をボロボロと流していた。そして、まるで子供のように、泣きじゃくりながら電信柱にしがみついていた。

 そんな俺の子供じみた行為を、電信柱は優しく包み込んでくれたのである。冷たいはずの、電信柱は、何故だかとても暖かかったのを覚えている。

 翌日、その話を知人にしたところ、何だか憐れむような声で『酒は程々にしとけよ』とだけ言われた。

 話がかなり横道にそれてしまったが、聖ヱルトリウム女学園の言葉を俺は心で感じ取ることが出来ている!


 そして、俺は恐るべき真相を知るのだった。


「まさか、お前……いや、あなたは……女性だっんですか!!」


 ヱルが頬を赤らめる。いやさ、それは夕日が校舎を照らし出したに過ぎない。

 美少女をストーキングするものと言えば、男と勝手に決めてかかっていたが、実は女だったとは驚きである。いやいや、よくよく考えてみれば、女学園なのだから、女であるほうが真っ当だったのだ。

 さて、懸命な読者であるならば、ここで眉毛をひん曲げて、頭上にクエスチョンマークを浮かべるに違いない。『学園の性別ってなんだよ!』と、ツッコミの一つも入れたくなるかもしれない。

 ここで世の中を生きていくうちで大切なことを教えよう。


『細かいことを気にしてはいけない』


 かの有名な、頭に鉢巻、腹に腹巻きのお父さんキャラもよく言うではないか。


『それでいいのだ!』


 そうなのだ! こにゃにゃちわなのだ! 柳の下に猫がいるから、猫柳なのだ! バカ○ンのパパなのだ!

 

 さて、ヱルが語った内容を、わかりやすく説明しよう。

 学園として産まれたヱルは孤独だった。簡潔に言えば、その孤独を癒やすために友達が欲しかったのだ。しかし、学園が友達をつくることは、決して容易いことではなかった。

 学園は、気の合う友達の居るたまり場に行くことも出来ないし、LINEのIDを交換することも出来ない。ただ同じ場所に居るだけ、同じ日々を繰り返すだけ。

 けれどある日、綾小路桜を目にした瞬間、ヱルの身体に電流が流れた。実際には校舎の電源と言う電源がクラッシュして放電したわけなのだが、そのせいで数人の生徒が怪我をする羽目になった。

 ヱルは思った。

 この少女と、綾小路桜と、お友達になりたい!!

 しかし、自分が学園、相手は人間。

 どうやってアプローチをして良いものか、ヱルは悩んだ。悩んで悩んで、意味もなく教師を三人ばかり解雇してしまったりもした。

 そして結論に行き着いた。


『悩む前に行動しよう!』


 そう、臆病な女の子だった自分を乗り越えるために、ヱルは勇気を出して行動に移したのだ。

 するとどうだろう。その場から動けないとばかり思っていたのに、自分の体を動かすことが出来るではないか!


 何事もやってみるもんだ!


 ヱルは感動した。そして感動のあまり夕日に向かって叫んだ。そのときに生じたソニックブームで、十数羽のカラスが地面に叩き落されたわけだが、ご愛嬌といったところだ。

 こうして、ヱルは今まで行動することが出来ないでいた臆病な自分にサヨナラをしたのだ。

 そして今現在に至ると逝った具合だ。

 

「そ、そうだったんですね……。ヱルさん、ごめんなさい。わたし、てっきり男の人だとばかり思ってました……」


 綾小路桜はヱルに向かって謝罪の言葉を投げかけた。

 なるほど、この綾小路桜と言う美少女も、なかなかどうしてやるものだ。ここで一番最初に気にすることろが、性別だと来たもんだ。美少女というものは、どこかしら頭のネジが飛んでいると相場が決まっているが、この子もご多分に漏れず、そう言うタイプらしい。

 

「実はわたしも、女友達が欲しかったんです。もし良かったら、お友達になってくれませんか?」


 綾小路桜は天高く掲げるように手を差し伸べる。

 その差し出した手を掴むことは、ヱルには出来ない。何故ならば学園だから。

 それでも俺にはその時見えたのだ。

 喜びに打ち震えながら、その手を握りかえす無邪気な少女の姿が……。

 俺は心の中で一言呟いた。


『これでいいのだ!』


 

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