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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
二章 謎の動く学園!?
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06 聖ヱルトリウム女学園。

 っとまぁ、次の日がやってきたわけなのだが、果たして本当に今日は次の日なのか?

 それを疑ってかかるくらいの用心深さは必要だろう。

 昨日の夜にちゃんと寝て、お天道さまが登り、布団の中で目覚めたからといって、次の日になっているかどうかはまた別の問題だ。

 寝ている間にタイムリープをしているなんてことはよくある設定だし、異世界に飛ばされていたとしてもこれまたよくある設定なのだ。だから、まず目が覚めた時は色々なことを疑ってかからなければならない。

 最初に疑ってかかることは、今がなんと朝ではなく、お昼を完全に過ぎてしまっているというところである。

 いや、あれだ……その、寝坊をしたのをごまかそうと、色々御託を並べているのかと思われるかもしれないが――その通りだ。ごめんなさい。

 昨日夜、布団に入ってから、ストーキングをするという謎の学園のこと考え出したら、テンションが上がりに上って眠れなくなってしまい、『きっと校舎が変形して人型になるに違いない』とか『体育館は後半パワーアップするために合体するに違いない』なんてことを考えだし始めたら、あら不思議どうにもこうにも眠れないときたもんだ。

 いやぁ、いくつになっても合体ロボは男のロマンだよねぇ。プールが開いて出てきたりとか、校舎が二つに割れて変形したりとか、熱いよねぇ、燃えるよねぇ――だから仕方ないよねぇ。


 結論、俺が寝坊したのは仕方がない事である。


 とまぁ、布団の中で言い訳を完了した俺は、待ち合わせの時間に間に合わせるべく、大急ぎで出かける支度をするのだった。



 ※※※※


「なぁんだ、余裕じゃねえか」


 身支度を済ませて急ぎ足ででかけたは良いが、よくよく考えれば待ち合わせの時間までは余裕があった。よくあるだろ、目が覚めた時に『あぁぁぁぁ、間に合わねぇぇ』となって急いでみたら、わりかし余裕があって拍子抜けしたなんてこと。

 仕事とはいえ、美少女女子高生と待ち合わせしているわけなのだから、もう少し格好をつけてくればよかった。俺は寝癖を無理くり整えただけの無造作ヘアを引っ張ってみる。

 とは言え、たとえ時間をかけられたとしても、俺は洒落た服など持ちあわせてはいないし、髪型だって適当な人間だ。むしろ時間をかけて頑張った後に、それに見合うことのない絶望的な姿を鏡に見て、悲嘆に暮れるという悲しい結末に至らなかっただけ良かったといえるだろう。

 待ち合わせ時間まで後三十分。

 待ち合わせ場所まで、ここから歩いて二十分。

 となれば、十分の余裕が有るわけで、俺はダラダラと待ち合わせ場所に向かうことにした。

 五分前集合なんてのは糞食らえである。


「ねぇ、ちょっと」


 十字路で不意に背後から声をかけられた。俺はゴルゴではないので、背後をとられても別に焦ったりはしない。よろず屋ってのは、凄腕でスナイパーでも、銀髪の天然パーマ―で木刀を持っている必要などないのだ。

 俺は振り向く前に、その声から相手を想像してみる。

 若い女の声、それでいて力強さを秘めている。さらに、どこかで聞いたことのあるような声だ。はて、どこで聞いたのか……。とても身近で聞いているようなきがするのだが……。

 その答えは、振り向いた瞬間にわかった。


「何やってんの?」


 そう、声をかけた相手は、拳で世界を取れる女こと、藤宮花火ふじみやはなびだったのだ。

 

「ねぇねぇ、知り合いなの?」

 

 藤宮花火の隣には眼鏡をかけた女の子が立っていた。もしかすると、これは花火の友達!? いやいや、こんな暴力から産まれたような女に友達が居るわけがない。しかも、このメガネ女子は、図書館で読書に勤しむのが大好きです、と言ったいかにもといった感じのおとなしそうな女の子だ。

 あれか、磁石のN極とS極が引き付け合うように、正反対の性格のほうがうまくいくというパターンなのだろうか。しかし、世の中そんな上手く行っているはずがない、もしかすると暴力で支配下に置かれているのかもしれない。ラオウかこいつ!?


「大丈夫か? 暴力で無理やり友達にされていないか?」


 俺は眼鏡少女を助けるべく、二人の間に割って入った。

 そして、俺は右ストレートと言う名の暴力によって、壁まで吹き飛ばされるのだった。痛てぇ、右ストレートを打ち込まれた腹と、しこたま壁に打ち付けた背中が……。

 

「だ、大丈夫ですか?」


 流石おとなしそうな眼鏡女子、そのテンプレートキャラにふさわしく、俺を心配して手を差し伸べようとしてくれる。


「いいの、この人はこういう人だから」


 花火の一言で、さし出した手が止まる。って、いきなり吹き飛ばされる人ってのは、一体全体どういう人だよ。


「そ、そうなの? じゃあ、大丈夫なのね?」


 何をどう大丈夫と思ったのか、眼鏡女子は差し出したてをあっさりと引っ込めてしまった。


「うん、大丈夫だから心配しないで」


「そ、それならいいんだけど」


 眼鏡少女はホッと胸をなでおろす。

 って、胸をなでおろしてんじゃねえよ! この女、一見おとなしい眼鏡女子に見えるが、もしやテンプレートを逸脱したトンデモキャラなのかもしれない。少し注意をしたほうが良さそうだ……。

 

「んで、何してんのよ?」


 藤宮花火は倒れている俺を引き起こそうと、手を差し伸べる――はずもなく、見下ろすようにして尋ねてきた。


「いや……これから仕事の待ち合わせなんだが……」


「そう、仕事あったんだ。んで、待ち合わせ場所はどこなのよ?」


 何だ、どうしてこの女は俺の仕事の待ち合わせ場所を知りたがるんだ。あれか、やっぱり俺に惚れているからか……。しかしこんな暴力女こちらから願い下げだ。


「あの、あれだ……聖ヱルトリウム女学園の前で待ち合わせで……」


 聖ヱルトリウム女学園の名前を耳にした途端、花火の眉毛がピクリと動いた。心なしか表情も険しくなったように思える。もしや、自分に皆無なお嬢様スキルを持ち合わせているものに対する嫉妬心でもあるのか、それとも昨日出会った綾小路桜あやのこうじさくらのことでも思い出したのだろうか。

 

「ふ〜ん、まぁ変質者として捕まらないようにね。行こっ、百合ゆり


「うん、わかった。それでは失礼します」


 どうやら眼鏡女子の名前は百合と言うらしい。百合はペコリとこちらに頭を下げると、早歩きでどんどん進んでいく花火を追いかけるように、小走りで去っていった。。

 俺はといえば、未だ壁にへたり込んだまま。ねぇねぇ、完全放置ってどうなのよ? 

 俺は壁にもたれかかりながら、女子高生という生き物の恐ろしさを実感していた。更に、俺が今から向かう先は、その女子高生の巣窟女学園である。あぁ、全くもって嫌な予感しかしない。

 いやいや待て待て、さっきの二人は野生の野良女子高生だ。血統書付きのお嬢様女子高生とは別の種族に違いない。そうだ、そう思うことにしよう。


「よっこらしょ」


 俺は痛めた背中をさすりながら立ち上がると、ポケットの中のスマホを見て時間を確認した。花火と出会う前にあった十分の余裕はすでに消え去っており、俺はこの痛々しい体を引きずって待ち合わせ場所まで走らなければらないようになってしまったのである。


「恨むぞ!」


 俺は腹と背中を抑えながら、不格好にも走りだすのだった。



 ※※※※


 俺が待ち合わせ場所である聖ヱルトリウム女学園の校門前にたどり着いたのは、待ち合わせ時間の五秒前だった。

 すでにそこには綾小路桜が佇んでおり、俺がフラフラになりながら走ってくるのを見て、心配そうに駆け寄ってくれた。


「大丈夫ですか? どうかしたんですか?」

 疲労のあまり前のめりに倒れそうになる俺の身体を、柔らかくて良い匂いのする綾小路桜の腕が抱きとめてくれた。

 ああ、これが本当にさっきの女子高生と同じ生き物だとは、にわかに俺は信じることが出来ない。

 

「ありがとう。ちょっと途中で、野生の女子高生に襲われてね……」


「え? それはどういう……」


「いやいや、何でもない、気にしないで」


 俺は笑って誤魔化すと、もう大丈夫だからと、綾小路桜との間に距離をとった。

 ここは女学園の校門前である。行き交う女性との数も少なくはない。そんな人目のつく所で、身体を密着させていたら、一体どんな噂を立てられるかわかったもんじゃない。即通報され、ポリス沙汰になってもおかしくないのだ。

 

「さて、これからですが……。いつもの様に下校をしてもらって良いでしょうか?」


 俺は仕事モードに口調を切り替えると、脳内にあるスイッチを入れて痛みを遮断する。これは俺の得意技の一つで――まぁ説明すると面倒くさいので今回は省いておく。

 

「わかりました」


 綾小路桜は、手に持った学生カバンをギュッと握り締めると、気合を入れるようにして下校を始めた。

 俺はその後ろ五メートルを尾行する。

 まぁ尾行というのは些か大げさだ。ただ五メートル後ろを普通に何気なく歩くだけなのだから。

 歩くこと五分。

 俺は自分の背中に、今まで感じたことのない強烈なプレッシャーを感じていた。例えるならば、とても大きな壁に押しつぶされそうになる、そんな感じだ。

 俺は強烈なプレッシャーの重圧で、一歩進むだけでボタボタと額から汗を流し始めた。ヤバイ、なんかわからんが背後にやばい奴がいる。

 前を進む綾小路桜は、俺と同じプレッシャーを感じ取っているのだろうか? それとも、俺だけが感じているものなのだろうか……。

 気になった俺が、綾小路桜に視線を向けると、綾小路桜はこちらを振り向いたまま固まってしまっていた。


「どうしたんだ……」


 俺は問いかけようとして言葉を飲み込んだ。居るのだ、確実にいるのだ、俺の背後にそれが……。

 恐る恐る俺はゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには……。


 電信柱の影に身を隠した――聖ヱルトリウム女学園そのものが居たのだ!!


 多分、意味がわからないと思うが、これは文字通りの意味でしか無い。

 電信柱の影に、聖ヱルトリウム女学園が居るのだ。

 いや、もはや電信柱の影に隠れているという意味すらわからない。だって、聖ヱルトリウム女学園そのものなんだぜ? そのあまりにも巨大な身体? を電信柱に隠したところで、何の意味があるというのだろうか。

 そして、俺の昨夜の想像は外れていた。

 俺はてっきり校舎が変形してロボになってストーキングしているものだと思っていたが、そうではなかった。女学園そのものが、敷地を引き連れて移動しているのである。

 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。

 しかし、こんな非現実的な、頭のおかしい光景を毎日味わいながら、未だ正気を保っている綾小路桜はなかなかに大したものだと言えよう。

 聖ヱルトリウム女学園は直立していた。これまた意味がわからないと思うが、直立していたのだ。高さに直すと数百メートルはゆうにあるだろうか。ちょっとした山といったところだ。

 そりゃこれだけ巨大なものに、背後をつけられていれば、プレッシャーを感じないほうが嘘だってもんだ。

 まぁ直立してたら、地面は崩れ落ちてこないのかとか、校舎はどうなるんだとか、色々疑問があるに違いない。が、まるで重力を制御しているかのように、それは全く問題がないのだ。

 それどころか、生徒が普通に校門から出て下校をしていっているではないか……。

 

――おかしい、確実におかしい。どうして、この学園の生徒、先生、さらにはこの近所の人達は不思議に思わないのか?


 だが、その答えは割とあっさり出てしまった。

 誰もがこの異常な光景には気がついているのだ。気がついていながら、認めていないのだ。そう、ちょっとしたレベルの異変ならば、何が起こっているのかと首を傾げるだろうし、勘ぐったりもするだろう。しかし、もしそれが『ちょっと』などではなく『常軌を逸した超レベル』だった場合はどうだろうか?


 『狼が来た―! 狼が一匹襲ってきたぞー!』


 これならば、信用するだろう。

 しかし、これが……。


『狼が来たー! 狼が一兆匹襲ってきた―! さらに未知のエイリアンの大艦隊がー!」


 と、来たならば、誰も信じはしないだろう。自分の目で見たとしても、夢か、見間違いだと思うに違いないだろう。

 あまりにもおかしい出来事を、人間の脳は理解しない。理解することを放棄してしまう。それ故に、この動く学園というものを、自分の理りの外の存在と決め打って、無かったものと、見ていないものとしてしまっているのである。

 

『そんなのあるわけがない、きっと疲れてるんだ』


『うーん、睡眠不足かなぁ』


『あらあら、眼鏡を変えたほうがいいかしらね』


『気にしない、気にしない、一休み、一休み』


 こんな具合である。

 ただ、それが自分自身に関わってくると、そうは言っていられない。自分自身に関わってしまった綾小路桜は、この日現実的な光景と、正面から立ち向かわなければならなくなったのだ。

 

「こうなったら、俺がなんとかするしか無いんだよなぁ……」


 さぁ、ここからが『よろず屋 大宇宙堂』の見せ場だ。


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