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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
二章 謎の動く学園!?
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04 ねらわれた。学園に。


 咲いている花が枯れるように、あったはずの金もいつの間にか無くなる。

 地下帝国の怪獣探しによって潤ったはずの俺の財布も、枯れ果ててカラッカラのすかんぴんである。

 金が無くなったらどうすればいいのか?

 至極簡単なことだ。


 働けばいい!


 だが、その簡単なことが出来ない人間がこの世にどれくらい居ることか……。いや、まぁ、俺は出来る人間ですよ? ただいまちょっと充電中っていうか、心のリハビリ中っていうか……。

 そうやってダラダラとしていたせいで、俺の財布は空になってしまったのだ。

 

 てな訳で、いっちょ働きますか。生きるというごくシンプルな目的のために……。


 

 ※※※※


《藤宮ビル 大宇宙堂 応接室》


「てかぁ、こうやる気になった時に限って、仕事ってこないもんなんだよなぁ……。なんだろ、これってあれかな、昔に流行ったマーフィーの法則ってやつかな」


 今日の仕事依頼はゼロ。見事に閑古鳥が鳴いている。

 ちなみにどうでもいいことだが、閑古鳥とは『カッコウ』のことである。物悲しく人を呼ぶような鳴き声から、そう言う風に呼ばれるようになったのだ。

 俺はふと思い立って、部屋の中をくまなく探してみた。

 何を探したのか? 閑古鳥をである。

 もしかして、俺の部屋の何処かに隠れ住んでいて、人を呼ばないようにしているのではないかと思ったのだ。

 探し始めて約五分。


「やっぱりだ……。居やがったぜ」


 事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、俺の部屋の片隅にコッソリ隠れて閑古鳥がいたのだ。そして、物悲しそうな瞳でこちらを見つめながら、これまた物悲しく鳴き声をあげていた。

 その物悲しさというものは、どうやら伝染するようで……。


「カッコーカッコー」


 俺はいつの間にか、閑古鳥と並んでいつ来るかもしれぬ客に向けて鳴き声をあげていたのだった……。

 気が晴れるまで鳴くこと一時間。

 どうやら閑古鳥は満足したのか、軽く会釈をすると窓から飛び立っていった。


「達者で暮らせよ―」


 何事も別れというものは悲しいものである。

 俺はしくしくと流れ落ちる涙をハンカチで抑えながら、やっとのこと現実という逃れられない獣と向き合うのだった。

 さて、向き合ったは良いがお客は来ない。とすると、当然だがすることがない。することがないと、重力に従ってソファーに寝転がるしかない。あれ、これって前にも同じシーンを見た記憶が……デジャヴか? いや、デジャヴュのが発音的には正しいのか?


「デジャヴュ」


 俺は口先を尖らせて、それっぽい発音を試みてみた。

 

――イマイチだな。


 俺が納得のいく『デジャヴュ』を言えるようになるまで、一時間の修練を要した。


「デジャヴュ」


 完璧だ。フランス人が聞いてもお褒めの言葉をいただけるレベルで完璧だ。って『デジャヴュ』ってフランス語でいいんだっけか?

 『デジャヴュ』をマスターすることが出来た俺は、何かを成し遂げた気持ちになって祝杯を上げることを決意した。


「確か冷蔵庫の中にビールか何かがあったはずだなぁ〜」


 俺は上機嫌にスキップなどをして冷蔵庫へと向かう。

 そして冷蔵庫のドアに手をかけ、ドアを開き、頬に中の冷気があたった時、自分が置かれている現実をようやく思い出すに至るのである。

 

「ビール飲んでる場合じゃねぇじゃん!」


 そうだ、そうなのだ。ビール飲んでる場合じゃなければ、『デジャヴュ』の練習をしている場合でもなく、閑古鳥と一緒に鳴いている場合でもない。

 俺がするべきことは、金を得るための仕事なのである。


「よし、こうなったら祈ろう。俺の祈りは天に届くはずだ」


 勿論、何の根拠もない。が、俺は祈った。誰に祈ればいいのかわからずに、兎に角祈った。

 そして……。



「すみません、お仕事を頼みたいんですけどぉ〜」


 祈りは天に通じたのだった。



 ※※※※


「どうぞどうぞ、こちらに腰掛けてください」


「あ、はい」


 優雅な佇まいでソファーに腰掛けるのは、ブレザー姿の少女だった、いや、言い直そう。ブレザー姿の見目麗しい少女だった。

 人形のように整った顔立ち、切れ長でパッチリとした目元、『そんな小さな口でご飯食べられるの?』と心配してしまいそうになるおちょぼ口、そして極めつけは『クンカクンカと匂いを嗅ぎたい!!』その衝動に身を任せてしまいたくなる艶やかな黒髪。

 百人が見れば、その百人すべてが口をそろえて『美しい』そう答えるに違いない。そんな万人受けする美少女が、この大宇宙堂に居ることは、完全に場違いに思えた。

 この大宇宙堂に似合う女子高生といえば、世界を狙えるパンチを持つ『藤宮花火』くらいでちょうど良いのである。

 いやいや、藤宮花火は可愛くないのかといえば、別段そうではない。だが、あの性格といい、立ち振舞といい、人を選ぶ可愛さであることは確かだ。

 それに比べて、今目の前にいる少女は、ついつい俺が愛の告白をしたくなるレベルでの美少女なのだ。

 いかんいかん、これは仕事。仕事なのだ。仕事に色恋事というものを持ち込んではいけないのが鉄則である。


「こほん。それで今日はどういったご用件ですか?」


 俺は背筋を正して、少し大人ぶった言い方をしてみせる。大人ぶった言い方とは、余裕のある言い方である。大人とは自分より年下の相手に対して、余裕が有るように見せることで優位性を表現することが大好きなのだ。そして、実際に余裕があるかどうかといえば……それは察して知るべし。

 俺の問いかけに、少女は返事をくれることはなく、ただ黙りこんで下を向いて固まってしまっている。よく見れば、瞳が涙で潤んでいるではないか。


――守ってやりてぇ……。


 今すぐ絶滅危惧種のトキ並に保護してやりたいという衝動に駆り立てられた。

 俺がその衝動に負けて、ソファーを立ち上がりかけたその刹那。


「わたし、狙われているんです!」


 先にソファーから立ち上がったのは少女のほうだった。

 何かに怯えているように、何かから逃げるように立ち上がった少女は、その言葉を発したあと、小刻みに震えだした。今は夏、部屋にはエアコンがかかってはいるが、震えるレベルではないはず。


「落ち着いてください、ここは大丈夫ですから」


 俺の言葉を聞いて、少女の震えはゆっくりと収まっていった。

 

「ところで、一体何に狙われているんですか?」


 この少女の美しさならば、ストーカーの一個小隊くらいはいてもおかしくはない。

 

「わたし……学園に、狙われているんです!」


 ねらわれた学園……そういえばそんな小説があったな。映画化も、ドラマ化もされ、映画の死所以は角川の編集の人がやったという……。おっと、そんな小ネタを考えている場合ではない。


「学園の誰に狙われているんですか?」


「学園に狙われているんです!」


「だから、学園の……えっと、あれですか? もしや学園の生徒全員に狙われているとかですか?」


 学園の生徒全員を虜にする。そんな漫画めいたことも、この少女ならば不可能ではない。


「いいえ、違います」


「ま、まさか……学園の教師陣に狙われているとか……」


 確かにこの魔性の魅力ならば、年配の方々から大人気になってもおかしくはない。


「だから、違うんです! わたしを狙ってきているのは、学園なんです!」


「……」


 少し頭が混乱してきた。落ち着こう、こういう時こそ落ち着きが肝心なのだ。

 学園に狙われてはいるが、学園の生徒には狙われていない。

 学園に狙われてはいるが、学園の教師には狙われていない。

 狙われているのは、学園……。学園!?


 キュピリーン


 その時、俺の脳裏にニュータイプ的直感がひらめいた。

 

「もしかして……もしかしてですよ。あなたを狙っているのは……文字通り学園そのものなんですか?」


「はい! そうなんです!」


 理解を得ることが出来た喜びを、体いっぱい、表情いっぱいに露わにして、少女の目はキラキラと少女漫画のように光り輝いていた。可愛かった。危なく抱きしめてしまうところだった。


 学園。それは建物、及び敷地内すべてを指す。

 日本では物に霊が宿る。いわゆる九十九神と言う思想が存在する。

 ならば、学園そのものに霊が宿ったとしても、何らおかしいことはないのではないだろうか!!


「なるほど、完璧に完全にわかりました」


 心の中に引っかかっていた、小骨が取れたように、俺はすっきりした。


「良かったぁ……。警察に話をしても、探偵さんに話をしても、誰も信じてくれなかったんです……。それどころか精神病院を紹介される始末で……」


「それはなんてかわいそうな……」


 世の中の人間の大半は、固定観念や常識というものにとらわれすぎていて、自由な発想をを持てないでいる。かわいそうに、この少女はその犠牲になってしまったのだ。

 しかし、ここはどんな仕事でも請け負う『よろず屋』である。

 学園に狙われていようが、軍事衛星に狙われていようが、何とかして解決してみせようではないか。


「それでは、詳しいことを話してください」


 『よろず屋 大宇宙堂』の仕事がいま始まる。


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