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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
一章 地下帝国からこんちには!?
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02 そのもの蒼き衣をまといて……。


「それでは改めまして、その何ですか、地上世界侵略用の怪獣の特徴などを教えてもらえますか?」


 うむうむ、自分で言っておきながら、ビックリするくらい頭の悪い問いかけをしていると思える。しかし、これが依頼主の求めているものなのだから仕方がない。だから、俺はこれ以上ないと言うほどに顔面の筋肉をキリリと引き締めて言葉を発した。


「はい、主に四足歩行で移動し、殿部には尻尾がありまる。そうそう、敵生体との戦闘用に背中には無数のトゲが生えております。このトゲから溶解物質を発生させ……おっと、これ以上はお教えできません」


 どうやら企業? 秘密的な部分もあるようだ。社外秘と言うやつなのだろうか? とは言え、一体どんな企業が地上世界侵略用の怪獣を開発するのだろうか? もし開発できていたらそれはそれでとんでもないテクノロジーだと言えよう。世界のSONYでもAIBOが精々なのだから。


「なるほど、地下帝国さんにもいろいろご事情があるようで。安心してください、私はプロです。情報を外に漏らしたりなどはいたしません」


「ありがとうございます」


 少しかっこいいやり取りのように思えるが、実際のところ地下帝国の怪獣の情報を何処かに流したとしても、俺の頭がおかしいと言われて終わるに決まっている。


「更に質問なんですが、地下帝国の怪獣ならば、やはりドリルのようなものが付いていたりとかは?」


 その問いかけをした途端、地底人の顔色が赤く変化したと思ったら、さらには黄色、緑、青と、イルミネーションの様に次々と色を変えていく。チカチカとめまぐるしくい変化に、俺の目をどうにかなってしまいそうだ。どうやらこれは、心の動揺、焦りを表しているのだろうか? いや待てよ、もしかすると地底人にとって『ドリル』と言う言葉は性的なものを表していたりとか……。もしそうだとするならば、セクシャルハラスメントになってしまうではないか。

 俺はこの場の空気を切り替えるように、コホンと咳払いを一つすると、


「あ、すみません。今のは気にしないでください」


 と、さり気なく誤魔化してみせた。


「あ、はい。どうも」


 点灯する顔色のスピードが落ち、ようやく元の肌色へと戻る。

 この『よろず屋』と言う仕事は、商売上多種多様なお客を相手にする事が多い(流石に地底人はあんまりないパターンだが)、故に相手のプライベートなところには触れないようにしなければいけない。きっと、この人にとってドリルという言葉は、禁句だったに違いない。

 

「ところで、その怪獣は何処で逃げ出したんですか? 詳しい場所はわかりますか」


「はい、地上世界で散歩をしている最中に、ふと目を離した隙に居なくなられまして……」


 俺は眉をひそめた。

 この会話の中に二つほど引っかかるところがあったからだ。

 まず第一に、怪獣は散歩をするものなのか? 俺の知っている『ゴ○ラ』や『ガメ○』などの怪獣が、散歩をしているところなど見たことがない。

 そして第二に、怪獣とはふと目を離した隙に、居なくなれるものだろうか? 怪獣といえば全長数十メートルだったりするはずだ。ならば逃げ出した痕跡などをたどればすぐに分かるのではないか?

 俺の頭脳がその矛盾点を修正すべく、超高速で脳細胞を働かせる。

 そして導き出した答えは……。


『俺が知らないだけで、怪獣は結構散歩をするものなのかもしれない。ゴジ○だって、日本にやってきたのは、散歩のついでだったとも考えられる。そして、眼鏡を無くしたと思ったら、頭にかけていたなんてことがあるように、普通気がついて当たり前のことも、状況によっては気が付かないこともある』


 すなわち、この依頼人である地底人は嘘を言っていない。

 こうやって、依頼人の発言の虚偽を鑑定することも、この仕事を続けていくうえで重要なスキルなのである。


「そうだ、最後に一つだけ教えて下さい」


「なんでしょうか?」


「この怪獣の名前は?」



 ※※※※



 依頼人から聞くべき情報をすべて聞き出した俺は、『発見しましたら連絡いたします』とだけ告げ、依頼人と別れて街へと繰り出した。

 何のために? それは言うまでもない捜索のためである。

 俺はこのよろず屋と言う仕事をしているせいで、このご町内ではそこそこ顔が知れ渡っている。そんな俺が聞きこみをすれば、怪獣の一匹や二匹きなどあっという間に見つかるというもんだ。

 まず俺が最初に向かった場所は……公園だ。

 なぜ公園なのか?

 公園とは様々な情報が収束する場所なのである。

 公園で遊ぶ小学生や、幼稚園児。さらにはそれを見守る母親たち。そして、職にあぶれた中年男性と、多種多様な人物が集結している。


 まずは子供、小さいからといってこいつらの行動能力を甘く見てはいけない。こいつらは、予想もできないようなところにまで現れる。ブロック塀の隙間に挟まってるとかよくあることだし、廃ビルなんかにも平気で潜りこむ。もしかすると、ホワイハウスとかにも忍び込めそうだから恐ろしい。


 そして子供の母親は、通称拡散マイクと呼ばれるほどに、三度の飯よりゴシップ情報が大好きだ。隣の旦那が浮気しているだの、嫁と姑の間でもめているだの、見栄を張ってブランド物を持っているけど三年ローンだの、そんな事を知って何になるんだよ、と思いたくなる情報を大量に掻き集めている。いわば情報のゴミ収集車だ。


 最後に、職にあぶれた中年男性。彼らの目は普通の人違うものを見つめている。主に、電車の踏切のキンコンカンコンなるやつをボーッと見ていたりとか、電車のホームでフラフラと身体を揺らしながらレールを見つめていたりとか、競馬場で落ちている馬券の中に当たりはないかと見つめていたりとか、何ていうか……なんて言うんだろう。なんとも言えないかな……。と、兎に角、常人では見逃すようなものを見ている可能性がある。


 俺が最初に目をつけたのは、くたびれたジャージ姿でブランコに座ったまま、地面を這いずりまわるアリの数を数えている中年男性だった。

 普通に見れば、これは職にあぶれたサラリーマンが絶望にくれて、意味もなくブランコに揺られているように見えるかもしれない。しかし、世の中というものは得てして油断のならないものである。

 もしかすると、この中年男性は無職サラリーマン風のコスプレをしているだけかもしれないし、魔女の呪いによって無職中年男性にされてしまったお姫様なのかもしれない。勿論呪いを解くのは王子様のキスだ。うーむ、この王子様かなりハードルの高いプレイを要求される。

 それはさておき、アリなどという小さな昆虫にまで目をやっている男なのだから、怪獣を見ていてもおかしくない。俺は迷うことなく声をかけた。


「あのぉ〜。ちょっと伺いたいんですけど〜」


 中年男性は声をかけられてムッとしたような表情を浮かべた。どうやら声をかけられたせいで、数えていたアリの数がわからなくなってしまったらしい。しかしここで引き下がっては、よろず屋のメンツが立たない。ここは真心を込めて、真摯に話しかけるのだ。


「どうも忙しいところすみません。ここらで怪獣を見ませんでしたか?」


 俺の言葉に中年男性は、漕いでいたブランコを止める。もしや思い当たることがあるのか? 俺はすかさず怪獣の細かい特徴を語り出す。


「えっとですね、四本足で歩いて、しっぽがあってですね。背中にトゲトゲがいっぱいあるやつなんですけど、見てないですかね?」


 俺の言葉を聞くにつれて、険しかった中年男性の表情が、次第に優しい物へと変わっていく。そして、中年男性はすっくとブランコから立ち上がると、俺に座るように促した。俺は促されるままにブランコに座る。


「色々つらい事あるけどさ。お互い頑張ろうよ」


「え?」


 中年男性はそれだけ言うと、俺の肩をポンと叩き公園を後にした。

 何だかわからないが、どうやら俺は励まされてしまったらしい。何故だろう……。

 よくわからないまま俺はブランコを漕いだ。


 ――久々にブランコに乗るのも悪く無い……。


 ブランコを一漕ぎするたびに、風を切るたびに、小さいころの無邪気な思い出が蘇ってくる。あの頃は、日がどっぷりと暮れるまで、何も考えないでただひたすらに走り回って遊んでいた。目にするものすべてが新鮮で、驚きと喜びにあふれていた。それなのに……。


 ――あの中年男性もきっとこんな思いに取り憑かれていたに違いない。


 ある程度の年をとってから乗るブランコとは、思い出のタイムマシンなのかもしれない……。

 うむ、いい歳して乗るブランコ……それも良いものだ。

 

 という訳で、ブランコについてのどうでも良い情報は得たものの、肝心な怪獣の情報は何も得られなかった。次に俺が向かうのは、ベンチに座ってペチャクチャと井戸端会議に花を咲かせている主婦だ。

 

「あのすみません、少し伺いたいんですが?」


 俺は善人オーラを全力全開に放出しつつ、今まで培った経験すべてを注ぎ込んでの愛想笑いを披露した。主婦というものは、そこまで徹底しなければいけないほどに強敵なのである。もし、ちょっとした油断から不信感を与えようものならば、即通報&噂を拡散で、明日からこの街で生きてはいけなくなる可能性があるのだ。恐ろしや恐ろしや。


「あら、何かしら?」


 俺の問いかけに答えてくれたのは、主婦グループの中心に陣取っていた人物だった。美容院にいったばかりのようなセットの決まった髪型に、ブランド品であろう衣服と装飾品、そんでもって語尾に『ザマス』と付けそうな雰囲気。確実に主婦カースト制の上位に立つお金持ち婦人である。きっと旦那は会社の重役クラスに違いない。とすると、取り巻きの主婦はその会社の部下なのかも……。

 と、そんな想像はどうでもいい。


「すみません、ここらへんで怪獣を見ませんでしたか?」


「あら、それはおフランスジョークかしら?」


「いや、そうではなくてですね」


「やっぱりなんでもフランス製に限りますわよね。ほら、このネッカチーフもフランス製なんですのよ。さらに、このバッグも」


 ――それを身に着けてるキサマはバリバリの日本人だろうが!!


 と、言い返してやりたかったが、それは胸の内に秘めておくことにした。

 取り巻きのオプションのような主婦連中は口々に、


「そうですわよね。フランス製は最高ですわ。そして、それを身に着けていらっしゃる奥様は、超最高ですわ―」


「最高ですか―?」


「最高です―!」


 と、どこかの新興宗教で聞いたことのあるようなやり取りが勃発してしまった。

 こうなってしまっては情報を得るどころではない、このままでは俺も『最高です―!』とシュプレヒコールをあげる一員に組み込まれてしまう。俺は三十六計逃げるに如かずと、そこから退避した。

 げに恐るべしは主婦軍団なり……。


「ねぇねぇ、おじちゃんさっきから何してんの?」


 その声に慌てて振り向くと……俺の背後に男子小学生が立っていた。俺の背後に音もなく回りこむとは……こいつ忍びの者か!? 伊賀か! 甲賀か!

 その男子小学生は手にクナイを持ち……って、よく見たらスコップだった。


「なにやってんのー?」


「混ぜてよ~」


 何処からともなくわらわらと現れた男子小学生に、俺はいつの間にか完全に取り囲まれていた。三百六十度、何処を見ても子供、子供……。退路はすでに無かった。


「わぁ、大人の人だ―」


「知らない大人の人だぞ―」


「誰かのお父さん?」


「鼻くそつけちゃえ―」


 子供の好奇の視線(鼻くそも)が、矢のように俺の身体に突き刺さる。何故だ! 俺はごく普通の『お兄さん』だぞ! なんで、こんな珍しい物を見るような目で見られなければいけないんだ。

 俺はこの時、動物に居るパンダの気持ちがわかったような気がした。なにか特別なことをしたわけでもないのに、物珍しがられたり、歓声を浴びせられたりというのは、むしろ恐怖でしかないのだ。今度動物園に行った時は、パンダにごく自然な視線を送ってやろうと、心に決めるのだった。

 さて、俺はパンダではないので、笹を食っているわけにもいかず、仕事をしなければならない。

 俺はダメ元で子供たちに聞きこみをしてみた。


「あのさぁ、多分知らないだろうとは思うけど、ここら辺で、四本足で歩いて、しっぽがあって、背中にトゲトゲがいっぱいある、怪獣を見たことないかなぁ〜?」


 俺の言葉に、子供たちは首をひねっては『うーん、うーん』と思案に暮れる。


「うーん、うーん、うんこ!」


 一人子供が脈絡もなく『うんこ』と言いやがった。

 

 キュピリーン

 

 この瞬間、俺はニュータイプ的直感が危険度Aを告げた。

 そう、やってくるのだ! あの恐ろしい『うんこの大海嘯だいかいしょう』が……。


「うんこうんこうんこー!」


「うんこー!」


「うんこっこー!」


「うんちっちー!」


「うんこまーん!」


「うんちさーん!」


 始まってしまった。走りだしてしまった……。

 最高潮のテンションへと達した子供たちの『うんこ』連呼を止めるすべは何もない。すべてを飲み込んで、くだらないお下品ギャグへと変えていってしまうのだ……。

 ナウシカに出てくる王蟲の大海嘯だいかいしょうの様に、それは津波のように押し寄せきては、俺を『うんこ』のゲシュタルト崩壊へと誘う。(ナウシカを知らない人は是非映画を見ると良い。さらに原作漫画全七巻も読破するとなお良しである)

 

 ――うんことは……うんことはなんぞや……。うんこは何処へたどり着くというのか……。らんらんらら、らんらんらーん、らんらんらんららーん。



 俺の意識が完全にうんこへと飲み込まれようとした時、救世主が現れた。

 蒼き衣をまといて、金色の3DSを持って現れた男子小学生は、このうんこコールを繰り返す男子小学生とは違い気品のようなものが感じられた。正確に言うならば、鼻水を垂らしていないのである! こいつエフタルの王族か!?

 その高貴なる小学生は、うんこコールの中で怯える俺に、『怖くない、怖くないよ』とでも言わんばかりの優しい笑みを浮かべてこう言った。

 

「その背中にトゲトゲがいっぱいのやつなら、僕友達の家で見たよ」


 こうして救世主に助けられた俺は、見事うんこ大海嘯から抜け出し、その友達の家へとやらへ向かう事になったのだった。



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