23 カーニバルだよ!
俺達が河原の土手へとたどり着いた時。二人? は、今まさに戦いの火蓋が切って落とさんとしていた。
全長約三百メートル(敷地面積も含む)のヱル。
身長百四十センチあまりのベル。
体格からしてみれば、比較するのもの馬鹿らしいくらいに格差だが、ベルにはそれを補う魔法というスキルが存在する。
「いやぁ、面白くなってきましたね」
「はい! わたし年甲斐もなく興奮してまいりました!」
ふと横を見ると、そこには当たり前のように解説席と実況席が設けられており、見たことのないおっさん二人が鎮座していた。
いや、一人は見たことあるぞ! そうだ、こいつ近所のファミレスの店長じゃねえか!
「という訳で、この世紀の大決戦『アイドル魔法少女VS動く学園』の実況を、このわたくしファミレス店長!」
「そして解説は、ファミレス常連客の私でやらせていただきます!」
頬をテカテカに脂ぎらせ、心弾ませてマイクを握る二人のおっさんの姿を目にして、俺は思わず立ちくらみかけたが、もはや状況はそれどころではないことを次の瞬間に実感させられた。
そう! 周りをよく見てみれば……。
あれよあれよという間に、黒山の人だかりが出来てしまっているではないか1
ベルとヱルを取り巻く大量の野次馬は、さながら夏祭りの如き盛り上がりを見せていた。
「焼きそば! 焼きそば安いですよー!」
「綿菓子〜! あまーい綿菓子だよー」
などの、祭りおなじみの屋台が所狭しと立ち並ぶだけでは飽き足らず。
「はいはい、こちら限定の魔法少女ベル様Tシャツだよ!」
と、まぁアイドルであるベルのグッズが販売されるのは百歩譲って分かるとしても……。
「こちらは、聖ヱルトリウム女学園こと、ヱルちゃんのピンバッチだよ! レアだよ!」
いつ一体誰がなんのために作ったのか、ヱルのグッズすらも販売されているのだ。
商魂たくましと言うべきなのか、頭がおかしいと言うべきなのか、世の中は本当に油断ができない。
「こいつら……戦いの余波でどうなっても知らんぞ。ってか、どうにでもなれ!」
「ほんと、馬鹿ばっかりね」
と、呆れたような声を出してみせる花火だったが、その右手には綿菓子が、そして左手にはりんご飴が握られていた。
「お前それは……」
「何? あげないわよ! 欲しかったら自分で買ってきなさいよ。あそこにいっぱい売ってるから。あ、おすすめはあの左から三軒目のお店で……」
と、喜々として屋台のおすすめポイントを俺に話してくる。
「何でもない、なんでもないんだ……。そうだな、お前はお菓子大好きっ子だったもんな……」
いつもとは反対に、俺は花火に向けて哀れな子犬を見るような視線を投げかけた。そういえば、こいつはいつも俺の部屋で多種多様なお菓子を食べ続けていたっけか……。
「何よ、子供扱いしちゃってさ!」
ぷいっとそっぽを向きながら、花火はもしゃもしゃと綿菓子を口に運んでいた。
いや、これは結果オーライと考えるべきなのだ。何故ならば、いつも俺を狙っていた殺人パンチが、両手にお菓子を持つことによって封じられているわけなのだから。
さて、こんな緊迫感ゼロの空間の中で、ただ一人緊迫した表情で悲劇のヒロインを演じている人物が一人。
そう、この戦いの発端となった『綾小路桜』である。
「私のために……こんな戦い……駄目だよ! ……でも、少し嬉しい」
身をくねらせて頬を赤らめる姿は、綾小路桜の端正な容姿のお陰で『艶やか』と表現できなくもないが、これをもし一般以下のフェイスを持つ人物がやったならば、『キモい』の一言を投げつけられることだろう。
しかし、唯一の常識人だと思っていた綾小路桜だが、もしかするとこの子も。アレな感じの人物なのかもしれない。
と言うかだな、よく考えれば歩く女学園と普通に友達になっている時点で、すでにアレな人物であることは間違いなかったわけで……。
まぁそれはさておき、この大観衆見守る中、ベルとヱルはどうしていたかというと……。
「もぉ〜ベル様ってば大人気すぎて、こんなにファンが集っちゃった☆」
少し前までの素は引っ込み、甘ったるい口調へと戻り、愛想を振りまきながら眼下のファン? に向けて手を振ったりなんかしていた。
しかしいいのか? こいつ今『飛んでる』んだぞ! それを目の当たりにしても、この野次馬共はなんとも思わないのか? それとも最近のアイドルは飛ぶくらい普通なのだろうか?
と、ここまで思案して、あっさりと答えに行き着いた。
そう、空飛ぶアイドルが別段普通に見えるくらいの、『異常』がもう一つあるではないか。そう、全長三百メートルの歩く女学園『ヱル』である。
それに比べれば、アイドルが空を飛ぶなんてのは、郵便ポストが赤いくらいに大したことではないのに違いない。
さて、歩く異常事態ことヱルはどうしているかと言えば――戸惑っていた!!
こんな全長三百メートルの大柄ではあるが、好きな女の子を隠れて尾行しちゃうくらいの繊細さ? をもっている女学園なのだ。こんな衆人環視の中では、どきまぎしてしまうのは仕方がない。
けれど、彼女? には譲れない大事なものがある。そう、親友であり、愛する人である『綾小路桜
』だ。それを魔法少女アイドルなどという訳のわからないものに取られるわけにはいかないのだ。
と、まぁこれは俺の想像であり、実際どう思っているのかはよくわからないわけだが、多分当たっていることだろう。
何故ならば、ヱルは大きく深呼吸(周囲に防風を撒き散らし)、凛とした目で(学園の中央にある街灯を最大光度で光らせ)、ベルに向き合ったからである。
それと時を同じくして、実況席に設置されたゴングが、戦いの始まりを告げる鐘を鳴り響かせたのだった。




