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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
三章 魔王少女はスクールアイドルになりたい!?
16/125

15 プロデューサーさん!


 

 テレビの画面を消した俺は、そのまま浅い眠りについた。

 寝ているのか起きているのかわからない微睡んだ時間の中で、幾度となくあの時耳にした『見つけた……』の言葉が湧き出してきては、俺の背筋を凍りつかせた。

 俺の惰眠を破ったのは、前触れもなく鳴り響いた部屋のチャイムだった。

 

「むにゃむにゃ……一体何だ……」


 どうでも良い事だが、寝起きに『むにゃむにゃ』と可愛らしく言える三十手前男は俺くらいだろうと自負できる。

 更には『てへぺろー』なんかも可愛らしく言っていきたいと思っていたりもする。そう、何を隠そう俺は可愛い三十代、四十代を目指しているのだ。

 何のために? とか言うんじゃねえよ。そんなのむしろ俺が知りたいよ!

 ってな具合に、寝起きの状態の頭の中というものは、カオス極まりないものである。

 それ故に、こんな朝早くから俺の事務所のチャイムを鳴らすような奴が、まともな奴であろうはずがないと言うことにすら気が回らないでいてしまったのだ。

 ヨレヨレのシャツのまま、ふらついた足取りで玄関にたどり着くと、俺は何の警戒もなくドアを開けてしまった。

 

「……」


 ドアの前に立つ人物、それを目にした瞬間に、俺から眠気というものは瞬時に吹き飛び、頭からは血の気が引いていくのを感じた。

 

「見つけたっ!」


 甘ったるい声だった。

 その声が耳に入るよりも早く、音速を超えて俺は即座に玄関のドアを締めた。そして家財道具一式をドアの前に並べ立てバリケードを建設した。

 が、そんな努力は無駄でしなかった。


「もーっ、駄目だぞっ?」


 再び甘々ボイスが聞こえたかと思った刹那、玄関のドアが禍々しい光りに包まれた。そして、この世の物理法則を無視した力が発動しては、バリケードをドアごと吹き飛ばしてくれたのだ。


「はぁい! お・ひ・さ・し・ぶ・りっ! キュートでプリティなマジカルプリンセス・ベルちゃんだよっ」


 背後にハートマークを無数に浮かびあがらせながらも、魔王のごとき圧倒的なオーラを放つ存在。そこに立っていたのは、忘れてしまいたくても忘れられない魔王少女その人なのだった。

 そしてその後ろには――暑苦しい、それ以外の表現方法が思いつかない男が立っていた。背後には真夏の太陽のエフェクトがさんざんと輝いていた。

 どこぞの日焼けサロンに通いつめたのか? と思ってしまうほど日焼けした男は、サングラスを掛け全身から汗をダクダクと止めどなく流している。


「そして私はっ! こういうものDAAAAA!!」


 汗まみれ男はおもむろに懐から名刺を取り出すと、もうどうしていいのわからなくなっている俺の手に強引に握りしめさた。

 ネトっとした嫌な感触が手の中一杯に広がって、俺は思わず顔を歪めた。


「湿ってる……」


 案の定名刺は汗でベチョベチョになっており、いますぐにでも投げ捨ててしまいたかったが、俺も一応は大人だ。渡された名刺に嫌々ながらも目を通してみることにした。

 汗で滲んた名刺に書かれた文字は滲んでしまっており、解読するのにいささか時間を要したが、この名刺に書かれていることが本当ならば、アこの男はアイドル事務所のプロデューサーのようだ。


「プロデューサーさんですか……?」


「そうDA! わたしがプロデューサーDAAAA!」


 なんだろう、この男いますぐにでも殴り倒したくなるウザさを兼ね備えている。

 

「立ち話も何DAから! 部屋に行って話そうじゃないか!」


 まるでここが自分の家であるかのように、プロデューサーはズカズカと踏み込んでいく。俺は呆然脂質のままそれに付いていくしかなかった。

 

「うふっ。面白くなりそうねっ」


 小悪魔的な笑みを浮かべては、魔王少女あらためベルがスキップをしてついてくるのだった。

 


 ※※※※


「なんでこうなったんだろうか……」


 俺は頭を抱えた。気がつけばいつの間にか、ベルとプロデューサーは事務所のソファーに腰掛けて、至極当たり前のようにくつろいでいた。

 くそう……。ストーカー事件で入ったお金で新しく買ったソファーでなければ、こいつら今頃はしこたま腰を打ち付けているだろうに……。

 そんな俺の思いをよそに、プロデューサーは大げさなアクションで足を組み替えなおすと、額の汗を拭った。

 そして……


「さてと、仕事の話をさせてもらおう」


 プロデューサーの表情が仕事をする男の真剣なものへと変化した。が、汗まみれなのはそのままだった。

 それにつられるように、俺の表情も仕事モードへと移行する。が、今にも逃げ出したい気持ちはそのままだった。


「君に、このマジカルプリンセス・ベルちゃんのマネージャーをやってもらいたいんDA!」


「は……?」


 予測を超えた依頼に、俺は絶句したままう膝から崩れ落ちうなだれた。

 クスクスとこの状況を楽しんでいたベルが、俺の前まで軽やかなステップ&ターンでやってくると、少し前かがみの姿勢になり顔を見つめる。そして白くて細い指先で俺の鼻の頭をピコーンと弾いた。


「今日から君はベルのマネージャーだぞっ。てへっ」


「……て、てへぺろー」


 俺は思わず『てへぺろー」をしてしまっていた。

 そう、それほどまでに今の俺の頭の中はカオス状態になっていたのだ。


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