122 ぶつかりあう力
「こりゃ、色々終わったな……」
世界の終末すら感じさせる次元を超越したエネルギーが、今まさに怒りの化身とかした若様から、魔王器ルシファーへと注ぎ込まれていた。
【み、みなぎってくるぅぅぅぅぅぅぅ!! 若ちゃまぁぁぁぁ、るしふぁぁぁこれ以上注ぎ込まれたらぁぁぁぁとんじゃううよぉぉぉぉぉぉっぉぉ!!】
ルシファーが感極まって喘ぎだしていた。その声は思わず耳をふさぎたくなるほどに、不快極まりないものだった。
「まるで太陽がもう一つ出来たみたいだぜ……」
上空の若様は、第二の太陽と呼んでも遜色ないくらいの存在へと昇華しており、無慈悲な熱量を当たり一面に降り注がせていた。
当たり前の事だが、本当の太陽ってやつは凄く離れた距離にあるから大丈夫なわけで、至近距離にあったならば、それは核をも凌ぐ存在となりえてしまう。
こうなったら、正直気は進まないがレヴィアタンになんとかして若様を鎮圧してもらわなければならない。と言うか、アイツがいらんことを言って若様を挑発したせいでこの有様なのだから、責任を取るべきなのである。
だが、当のレヴィアタンはと言うと……
《もぉぉぉぉぉ、いろいろ面倒くさくなってきましたよぉー! 主人様の言いつけなんて完全無視して、広域破壊兵器をマテリアライズしちゃいますよぉー!》
さらに現状を悪化させる方向に暴走しようとしていたのだった。
『目には目を歯には歯を』と言う言葉があるが、破壊兵器に破壊兵器をぶつけたところで、抑止力とて機能していなければ意味がない。二つの強力な破壊兵器が暴発すれば、ただ破壊が二倍になるだけなのである。
そして、今の場合、それは二倍どころか相乗効果で何倍にも膨れ上がりかねないのだ。
と、俺が珍しく真面目なことを考えている間にも、レヴィアタンは月を破壊しようとした時に見せた『エーテルランチャー』のマテリアライズを完了させていた。
それは砲身が五十メートルを超えるとてもつなく巨大な兵装で、レヴィアタンの言葉をそのまま受け取るならば、月くらい軽く破壊できる力を秘めているらしい。
こうして、最強の刀VS最強の大砲が正面切ってぶつかりあうという、最悪の展開が目の前で行われようとしていた。
――これはもはや逃げたとしてもどうにもならねぇな……。頼みの綱は金狐なわけだけれども……
「あのぉ、金狐さん? 何とか出来たりしませんかねぇ?」
俺は金狐の背中をちょんちょんと突く。
ほんの軽く突いただけなのに、金狐は大きくのけぞり涙目でこちら睨みつけてきた。
「五月蝿い! 触るなっ! ばかっ! あほーっ! って、私、覆面とれたままじゃない! いやぁ、男の人に顔見られるのいやぁぁぁぁ!!」
金狐は可愛い顔を両手で覆いながら、子供のようにジタバタともがきだすという始末だった。それでも、防御フィールドを貼り続けることは忘れていないのだから、大したものである。
「もぉぉ、こんなの私の力じゃ絶対に防ぎきれない! どうしたらいいのよ! 銀孤ぉー! 助けに来なさいよ! いつもイヤイヤエッチな男同士の絡みの同人誌のモデルになってあげてるじゃないのさー! おかげで、男キャラのコスプレする癖ついちゃったし……。今じゃ、立派な男装コスプレイヤーだよ! あほあほあほあほあほーーーーっ!」
金狐の涙声での叫びは切実なものだった。
なるほど、どうして金狐が男嫌いになったのか。それでいてどうして男キャラのコスプレばかりしているのか、すべての謎が解けたような気がする。全ては銀孤のせいだったのだ。いやまてよ、それだと中二病なのは……?
「カッコイイでしょ! 中二病とか言わないでよ!!」
金狐は唐突に俺の心の中を読んだ。どうやら中二病は持ち前のものらしい。
「こうなったら破れかぶれよ! やってやるわよ! もう、兎に角神樹だけは守り通してみせるわ! 私の力のすべてを神樹の防御に回して……」
「あの……そうなると、俺の命は……」
「知らないわよ! そんなの自分で何とかしなさいよ!」
金狐の目は血走っていて、まともな話ができる状態ではなかく、俺の言葉はけんもほろろに受け流された。
金狐のやつは何もわかっていない。自分でなんとかできるならば、とっくの昔に何とかしているわ! 自分じゃどうにもならねぇから頼んでいるのだ! って、我ながら本当に情けないな俺!
もうどうにでもな~れと、俺は腹をくくった。
腹をくくったが、やはりに死にたくはないので、俺は身を小さくして金狐の真後ろに隠れることにした。情けなくても何でもいいから、生き残ればいいのだ!
さて、俺が主人公らしからぬ行動をしている時、二人の攻撃はいままさに放たれんとしていた。
「喰らうがいい、我が怒りの一撃を!」
《吹っ飛んじゃえ! このお子ちゃまクマさんお尻!》
「魔王覇星斬!!」
《エーテルランチャー、フルバースト!!》
コンマ数秒違わずに二人の攻撃が放たれる。
膨大なエネルギーの渦が二人の真ん中でぶつかりあっては、拮抗を見せる。いっときは均衡を保ったエネルギーは、まるでどろどろに溶けた飴細工のように混ざり合い。一つの別のエネルギーとして新たな生を受けてしまった。
「あ?」
《ありゃ?」
若様とレヴィアタンが同時に間抜けな声を上げた。
超新星の如く生まれたエネルギーは二人の思惑とはまるで別方向に飛んでいってしまい。とある物を破壊した後、宇宙の彼方へと飛び去っていった。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
金狐が今までにない大絶叫をあげ、とある場所を指さしたまま腰を抜かして座り込んでしまった。
俺はと言えば、命が助かったことに安堵していていたのだが、その方向が気になって天狗の遠眼鏡で確認してみることにした。
「あれ? あれって、この神社を守っているっていう巨大な結界を作ってるいう御柱なんじゃ……」
そこには、若様とレヴィアタンから放たれたエネルギーの集合体により、見るも無残に木っ端微塵に吹き飛んだ御柱の姿があった。
そして、それと同時に……
【認識阻害の形跡を感知。異常な力を感知。排除を実行する】
天からの声が響き渡った。
「この声……何処かで聞いたものと似ている気がする……」
俺は記憶をさかのぼってみる。
「そうだ! これは迦具夜の声と似て……」
と、思った刹那。
天空から数百もの巨大な物体が飛来してきたのだった。