116 狙われたケツ
「はーっはっはっはっは! ま、またチューしてやったぞ! し、しかも大人のチューだぞ‼ もうこれで完全に、大宇宙守は、僕の嫁だっ!」
若様は俺の唇と口内の感触を存分に堪能したあと、頬を上気させながら高笑いとともに高らかに宣言した。
俺の口の中にはまだ若様の舌の感触が残っている。きっと若様もそうに違いないだろう。お互い顔を見合わせては、頬を赤らめてしまう。
何だ、何だ! 俺と若様は付き合い始めたばかりのカップルか! って男同士なんすけど! 年の差も凄いんですけど! ってか、わけがわからねぇ!
もう何度言ったかわからないが、この異常な場から逃げ出したくてたまらない。
が、今俺のいる場所は空中。若様に抱きかかえられているからいいが、もし手を離されたならば真っ逆さまに転落して死亡は確定だろう。
すなわち、俺は若様にしがみついていなければならないということになる。
中学生男子に必死にしがみつくアラサー男子。知らない人が見たら、俺のほうが若様にぞっこんに見えるかも知れない。
そして、魔王器レヴィアタンもその姿を見て、嫉妬の炎を轟々と燃やしていたのだった。
《ち、ちゅーくらいなんですかぁぁ! わ、私なんて……私のいちばん大事な場所に挿入されているんですからねぇぇ‼ 全身まるごと挿入されてるんですからねぇぇぇぇ!!》
「そ、挿入!?」
『挿入』の単語に若様は淫靡な連想をして、唇の先をプルプルと震わせた。
確かに、俺の全身はレヴィアタンの中に入っただろう。しかし、コクピットに乗り込むことを挿入と表現するのはいかがなものか? そして、それを真に受ける若様は、本当にお子様だった。
「ぼ、僕は攻めだから! 挿入するほうだから‼」
売り言葉に買い言葉とはよく言うが、史上最低の買い言葉だと俺は思った。若様の中で、俺は完全に『受け』ポジションのようである。
《って、あなたは男じゃないですかぁ‼ 男同士とかありえないんですけどぉぉぉぉ‼》
珍しくレヴィアタンが正論を吐く。しかし、お前はロボだぞ。ロボは良いのか! ロボは!
「男同士じゃないとか、ありえないんですけどぉぉぉぉぉ!」
若様はあの腐れ狐の銀孤に、完全に間違った教育を念入りに施されているようである。
《それにですねぇ、私だって挿入しようと思えばいくらだって出来るんですよぉぉ! ほら、こうやって、これを使って!》
レヴィアタンは数十本ものマニュピレーターを若様と俺の前で、ウネウネクネクネとといやらしく動かしてみせた。さらにそれはバイブレーション機能もついているようで、ウィンウィンと振動していた。
――え? あれを!? あれを俺に挿入する気なの!? 何処に!? ねぇ何処になの!!
俺は泣きそうになった。
これは決してモテモテ状態なんかじゃない! いや、ある種の変わった趣味を多数お持ちの方ならば、大喜びできるかも知れないが、残念ながら俺はそこまで変態ではないのだ!
もういっそのこと、若様から身体を引き離し、飛び降りてやろうかとすら考えたが、落下して脳症を飛び散らせる自分の姿を想像しては、金玉を縮こまらせるだけだった。
《ほらほら、あなたのちっちゃいオチンピーなんかより、私のマニュピレーターのほうが、絶対に気持ちいいはずです‼ 主人様もそう思いますよね!》
「ち、ちっちゃいほうが、守のキュッとしまったお尻の穴にはピッタリフィットするんだからな‼ そうだよね、守‼」
二人の視線が俺に集まる。しかし、今更気がついたが、いつの間に若様は俺の名前を知ってたんだろうか? あぁそうか、俺は本名をあのキ○ガイ呪文の中で名乗ってたんだったな。それはともかく、ファーストネームで呼んでくるとは……
それよりも、何でこいつらは俺のケツの穴の話をしているのか! 特に若様はどうして俺のケツの穴の大きさを知っているのか!? あれか、さっきズボンを下ろした時に既に確認済みだったとでも言うのか!? そして、二人の問いかけに俺はどう答えれば良いのか‼
《こうなったら!》
「どっちが気持ちよくさせれるか!」
《「勝負だ‼」》
二人の声がシンクロした。
予想外、まさに予想外。
俺はてっきり二人の超絶異能力バトルが始まるのかと思っていたが、まさか俺のケツの穴攻略バトルが始まろうとは、神様でも予想がつかないに違いない。
どうする……考えろ。考えるんだ。今ここで良いアイデアが浮かばなければ、俺のケツの穴が攻略されてしまう……。何が何でもそれだけは避けねばならない‼
そして、俺が出した答えとは……
「ま、待ってくれ!」
俺の声に、袴を脱いでチンチンを出そうしていた若様の手と、マニュピレーターをドリルのように回転させていたレヴィアタンの動きが止まった。
「やっぱ、俺……ケツの穴を攻略されるのは……一番強いやつにされたいな……えへっ」
何を言っているんだ! 俺は何を言っているんだ! 自分の口から出た言葉の意味がわからない。追い込まれすぎて、俺はトンデモナイ言葉を口に出してしまっていた。えへって何だよ!
俺の言葉に二人は数秒ほど固まっていた。
が、二人同時に笑いだした。
《なるほど、そうですよね。弱肉強食って言葉ありますもんね。私の最強っぷりをみせてあげますよぉ。おーっほっほっほっほっほ》
「そうだな、この我の力を存分に見せつけてやろうではないか! あーっはっはっはっは!」
若様は高笑いを続けながら、俺を地上へと降ろしてくれた。俺は念願かなって開放されたのだ。だが、事態は一向に好転はしていない。むしろ、悪化したとすら言える。
しかしこうなっては、俺はもはや見守るしかない。いや、もはやも何もずっと見守ってばかりである。
そして、見守った結果、どちらかにケツの穴を攻略されてしまうことになるわけだが……。運が良ければ共倒れしてくれる可能性もあるわけで……。俺はほんの少しの可能性にかけて、ただ祈るだけだった。
そんな俺の祈りなど知りもせず、またも宙空へ舞い戻った若様と魔王器レヴィアタンは戦闘態勢へと移行する。
《しかし、そんなちんまいなりでこの魔王器であるレヴィアタンに挑もうとか、やっぱりお子ちゃまは頭が悪いですねぇぇ》
レヴィアタンは挑発をしながらも、既に両目に光の粒子を充電し始めていた。いきなりレヴィアタンビームで決めるつもりだ。
若様もその威力は見ていたはずなのに、怯えるどころか今までの異常の不敵な笑みを見せる。
「魔王器? 魔王器だって? そんなの、僕にだってあるさ‼」
若様が胸の前で両手を合わせる。両手に押しつぶされたかのような、禍々しい漆黒の球体が姿を現した。そして若様はこう唱えだしたのだ。
「我が身に宿りし全てを切り裂く漆黒の刃よ! 我が名によりこの手に顕現せよ‼」
若様は苦痛に表情を歪ませた。その刹那、若様の胸を食い破るように真っ黒な刃がせり出してきたのだ。そう、若様の中から生み出されている。そう表現するのが相応しいだろう。若様自身の身体から生み出されたそれは、刀身一メートルを超える大太刀であり、まるで生きているかのように脈動していた。
「これぞ、我が魔王器ルシファーなり!」
若様はルシファーと呼ぶ大太刀を軽々と片手で担ぎ上げると、歌舞伎のように大見得を切って見せた。
しかし、レヴィアタンはそんな事はまるでお構いなしに、大見得を切っている最中に問答無用でレヴィアタンビームを発射したのだ。
至近距離である。ビームは息をする間もなく若様へと着弾した。哀れ若様はビームの熱量で蒸発……いや! そのビームはまるでチーズのように真っ二つに切断されてしまったのだ。
「我とルシファーに断てぬものなし‼」