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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
三章 魔王少女はスクールアイドルになりたい!?
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10 天気のいい日はお外に。

《藤宮ビル二階 大宇宙堂 応接室》


 いつもの殺風景な応接室も、今日はこころなしか輝いて見える。

 それは何故か?

 今日はとても良い天気で、窓から差し込む日差しが部屋の中を照らして眩しいからか?

 答えはNO! である。

 そう言えば


『天気が良い日はつい外に出かけたくなるね』


 そんな台詞を漫画や小説などで、可愛らしい女キャラがよく言うのを見る事がある。

 まぁ確かに、雨が降っていれば、傘やかっぱなどの雨具が必要になり、荷物になって外に出かけるのが億劫になるのはわからないでもない。

 それでもアスファルトを打ち付ける雨音や、土砂降りで視界が霞む情景に趣を感じるポエマーなんてのも居るはずである。

 天気の悪い日をこよなく愛するものは、俺のごくごく私的な観点から言わせてもらうと、中二病患者に多いと思われる。奴らは、闇とか、黒雲とか、そういう暗いものが居大好きだからだ。

 まぁそれはともかく、俺にとって天気の良し悪しというものは、外出するに至って、大きなファクターにはなりえないのである。

 なら、俺が外出するのに重要なことは何であるか?

 その問には、即答で答えることが出来る。


『金があるか無いかだ!!』


 そうお金がたくさんある日は、思わずお外に出かけたくなるものなのだ。

 だって、もし急に欲しいものを見つけたとしても、悩むことなく購入することが出来るんだぜ? これほど素晴らしいことはないだろう。

 世界は金で回っている。

 更には、俺の人生もきっと金で回されているに違いない。

 更に更に言ってしまえば、この地球すらも金で回っているんではないだろうか。

 俺はお札の上に乗っかった地球が、レコードのようにクルクルと回るさまを想像してしまっていた。

 

「うん、無いとも言えないな……」


 もしかすると、宇宙船から見た地球の映像とやらは全て捏造されたもので、本当の地球とは札束の上で回っているのかもしれない。

 さて、こんな荒唐無稽な妄想はさておき、俺は中身がいっぱい詰まっている財布を見つめては、ニンマリと薄汚い笑みを浮かべた。

 この財布の中のお金は、子供銀行券などではなく、正真正銘の日本銀行券である。

 前回の女学園ストーカー事件を解決した事によって得た報酬は、滞納していた家賃を払い終えた後でも、まだまだ潤沢な状況を維持していたのだ。


『少年よ、金を持って外に出よ!!』


 そんな台詞を偉人が言ったかどうかはどうでもいい。

 少年と呼ばれる年齢はとうの昔に通過した俺は、元気いっぱい夢いっぱいで、事務所を飛びだして行くのだった。




 ※※※※


 という訳で、俺は外に出かけたわけなのだが、行き先なんてものは決めていない。


「俺から言わせれば、わざわざ行き先を決めるようなやつは素人だ」


 勿論、何の素人であるのかなんて野暮なことを聞くやつは、それまた素人に間違いない。

 素人スパイラルの誕生である。

 わからないことがあった場合は、『なるほど』等と意味深な表情でもして答えておけば良い。世の中は結構そんなものでなんとかなる様に出来ている。

 だが、それがいけなかった。

 俺はいつも口を酸っぱくじて、『世の中は油断しちゃいけない』と言ってきたはずなのだ。

 それなのに、経済的に裕福になったことで、『世の中』に『油断』をしてしまっていたのだ。

 そうでもなければ、俺は無意識とは言え、あんな場所へと足を向けるはずはないのだから……。

 

「いやぁ、本当にいい天気ですね」


 不意に俺に声をかけてきたのは、近所に住む『オウ・サマ』だ。

 口ひげを蓄え、貫禄のあるガッチリとした体型、ドン・キホーテででも揃えたのだろうかと思ってしまうコスプレ的な王様衣装。一言で簡潔に表すならば、トランプのキングのカードを想像してもらえるといいだろう。写真を見ているかのように瓜二つだから。

 どうでもいいことだが、アニメ『ダンバイン』の主人公『ショウ・ザマ』と、同じように名前を発音してもらえると良いだろう。

 

「確かに良い天気ですね」


 俺は普通に挨拶を交わす。

 お気づきの人もいるかもしれないが、名を体で表すという言葉があるように、この人は『王様』である。

 とは言え、この人の国というのは、敷地面積約百平方メートル程度の広さしかなく。それは、いわゆる一軒家程度の広さだ。

 実はこの人が日本に亡命して、この超狭い独立国家を築き上げるのに、よろず屋としてちょっとした協力をしたことがあるのだが、これはまた別のお話である。

 兎に角、俺と『オウ・サマ』はいくらか繋がりがあり、友好的な関係を保っている。

 

「またそのうち、我が国に遊びに来てくださいよ。大宇宙だいうちゅうさんなら、パスポート無しでの入国を許しますよ」


 一軒家であっても国は国、なんと『オウ・サマ』の家――もとい国に入るためにはパスポートが必要であり、入国審査場も完備していた。


「そうそう、うちの息子と娘も会いたがってましたよ」


 ちなみに、息子の名前は『オウジ・サマ』、娘の名前は『オヒメ・サマ』と言う。何ていうか……学校でいじめられていないか心配な名前なのだが、心配を他所に元気にすくすくと育っているらしい。

 

「それでは、わたくしは政治的外交に向かいますので……」


 そう言って会釈をすると『オウ・サマ』は、自慢の顎髭を撫でながら去って行った。

 政治的外交と言う言葉が意味するところを俺は知らない。

 だが取り敢えず……。


「なるほど」


 と、訳知り顔でこう答えておけばよいのだ。

 『オウ・サマ』との挨拶を終えた後、これまた何の気なしに歩いていると、俺は不意にネットリと舐めわすような視線を感じて背筋を凍らせた。

 

 ――何だ一体……。


 俺が慌てて、その視線を感じた方向を振り向くと――そこには公園のブランコをゆっくりと漕ぐ中年男性の姿があった。


「まずい……。俺はいつの間にか、公園にまで来てしまっていたのか……」

 

 俺にとって公園とは、パレスチナの紛争地帯並に死地である。

 前々回の情報収集のときにも、子供たちによる『うんこ大海嘯』にのまれて死にかけたほどなのだ。

 そして今は、無職っぽい中年による謎の視線……。それどころか、中年男性は俺にこちらに来るように、艶かしく手招きをしてくるではないか。

 

 ――行ったらられる……。


 何の根拠もなしに、俺の本能がそう囁いている。

 俺は慌てて公園とは逆方向に向かって全速力で駆け出した。

 走って走って、息が切れるまで走り抜いたと思ったその時、ふいに周りに霧が出てきては、俺の視界を奪った。


「なんでいきなり霧が……。ん、なんだこの石塚は?」

 

 見たことのない石塚には、しめ縄のような物が結び付けられており、怪しげな文字の書かれた御札のようなものが貼り付けられていた。


「何だかよくわからんが、兎に角ここまでくれば大丈夫だろう……」

 

 俺は疲れ切った体を休ませるために、近くにあったベンチのようなものに腰掛けた。

 腰掛けたベンチは『キィーキィー』と金属の軋むような音を立てて少し揺れた。


「ん……これは……まさか!?」


 俺は無意識のうちに手に掴んでしまっていたものを見て驚愕した。


「そ、そんな……これはブランコのチェーン! そして俺が座っているのは!!」

 

 このとき、ようやく俺は気がついたのだ。

 俺がベンチだと思って座っていたのは、公園のブランコだったということに……。


「あーっはっはっは! これぞ奇門遁甲きもんとんこうの陣!」


 声に驚いて横を振り向くと、そこにはブランコの上に仁王立ちをして、俺を見下ろす中年男性の姿があった。

 まさか、無職っぽい中年男性が、奇門遁甲の陣を使うとは……、って奇門遁甲の陣ってなんだよ!!


「さて、ブランコに座ったことだし、少し話をしようじゃないか」


 勿論俺はこの中年男性と話すことなど一つたりともありはしない。だから、即座にブランコから立ち上がって、この場から退散を……。


「か、身体が動かないだと……」


 俺の身体はまるで石になったかのように、ピクリとも動かなかった。

 

「うふふふふ、霧の中に痺れ薬を混ぜてあってね……。是が非でも話を聞いてもらうよ」


 中年男性の口から爬虫類を思わせる舌先が顔を出していた。

 まさか、無職っぽい中年男性が、妖術使いの類いであろうとは……。本当に世の中というものは油断ができない……。

 ああ、いつもキメ台詞的に何度も言っているというのに、こんな大事な時に油断をしてしまうとは……。

 俺は無事に家にかえることが出来たら『世の中は油断ができない』と習字紙に百回書き殴ろうと決めるのだった。



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