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やり直し

「うーん・・・。」

「うーん・・・。」


目の前にジジイと幼女がいる。

ずいぶん前から同じ事を考えている。

石造りの暗い部屋で人影が2つ。

窓から微かな陽光に照らされながら特に大きな動きも無く佇んでいる。

あぐらをかきながらお互いに眉間に皺を寄せて目を見つめ合っている。

ジジイと幼女というアンバランスな二人が見つめているのは異様としか言えない。

別に顔や体格等に特殊な所があって見ているのではない。

むしろ2人はかなり普通だ。没個性と言っても過言ではない。

黒髪、黒瞳、黄色人種。お互いの性別や年齢は違うが一般的な日本人だ。

100人が頭に思い浮かべたジジイ像を平均して作られたような顔。

それは幼女の方も同じ。テンプレートじみたモブ顔の幼女だ。

では、何故向かい合って疑問を浮かべながらうなっているのかと言えばそれは・・・。


「「何で、自分の顔が見えているんだろう・・・。」」


そう、お互いに自分の視覚とは別に相手の視界が見えているのだ。

『同時に』目の前にジジイと幼女が居るのだ。

最初は急に視覚がごちゃ混ぜになって酔って吐いたりもした。

だが、慣れてきて分かってきた。

この、『ジジイと幼女で視界が共有されている』と。

最初は相手の視界に居る自分を見ながら手を上げたり、自分を確かめたりした。

まるで鏡を初めて見る猿みたいな間抜けな姿の自分がそこに居た。


数時間経ち、頭がごちゃごちゃになっていたが流石に思考がまとまってきた。

うん、現状把握をしよう。

まずは、自分という存在からだ。

・・・いや、哲学するわけじゃない。

本当に自分と言う存在を確認しなくちゃいけない理由がある。


「うーん・・・やっぱり、君も私なんだろうなぁ・・・」

とジジイが言う。

「えーぇ・・・そうなんだろうなぁ・・・」

そして幼女もそう言う。


そう、私はジジイであって幼女でもあると言うことだ。

同一ではあるが全く一緒ではない。意識は別々にある。

また、共有されている事は視覚だけじゃなかった。

聴覚や嗅覚など、ほとんど全てが共有されていた。

本当に全てだ。そして、その中には記憶も含まれる。

否応になしにお互いが自分と同一人物だと気付かされる。

―――だが、その記憶を探るにあたっておかしな点があった。


「いや、でも私はジジイじゃないような気がするんだけど・・・」

「それを言ったら私だって幼女だって記憶無いんだけど・・・」


お互いが自身の姿に納得がいっていない。

本能的な部分で「今の自分は本来の自分と違う」と感じている。

じゃあ、本来の自分とは?


「「でも覚えてないんだよねぇ~・・・」」


全く記憶が無いと言う訳ではなかった。

大雑把な所は覚えている。

日本で住んでいて、一般的な家庭に居て、のんびりと暮らしていた。

じゃあ、自分はどんな仕事をしていたのか。

そういった記憶を探ろうとするとすっぱり記憶が飛ぶ。

靄がかっていてハッキリしないとかではない。全く無い。

普通に道路を歩いていたら突如崖があったような感覚だ。

個人情報は全く分からなかった。

―――性別、年齢、職業、経歴、家族構成、友人関係など全て。

だが、個人を特定するもの以外はぼんやりと分かる。

どんなテレビ番組を見たことあるとか、これは食べたことがあるとか。

そういった断片的な所でお互いが自分であると理解した。


「「うーん・・・でも、うーん・・・」」


そして状況は最初に戻る。

だからなんなのだって話だ。

こんな石造りの部屋にいる理由も分からないし、どうして自分が2人いるのか分からないし、更にジジイと幼女があらゆる事を共有している理由なんてもっと分からなかった。


「うーん・・・。」

「うーん・・・。」

途方に暮れるとはこうゆう事を言うのだろう。


―――すたっ


「いや、お前さんよ。唸ってないで何か行動を起こさないかの?」

「・・・え?」


ここは広い部屋だが遮蔽物も何も無いこんな所に自分以外の人は居なかった。

何かの台座なのだろうか、そこに白いローブを羽織った童女、いやショタ・・・児童が居た。

体格は大体小学6年ぐらい。緑髪緑瞳で中性的な顔つき。糸目が特徴の児童だ。

「いや、余の容姿はどうでもいいのじゃ。どうせ急ごしらえの借り物だからの。」

「急ごしら、え・・・?」

「だからどうでもいいのじゃ。話を先に進めい。」

年齢の割には妙に年寄りじみた話し方が板に付いていた。

「そう言われても・・・そもそも貴方はどなたですか?」

幼女の自分が問う。ジジイが児童に敬語使うのは微妙だと思ってこっちの私で言ってみた。

「ふぅむ・・・意外とお前さんは察しが悪いの。良かろう、質問を受け付けてやろうぞ。」

にこやかに、コロコロと笑いながら言った。

言葉が高圧的だが表情が温和な感じのせいか、さほど嫌な感じがしない児童だ。

「えーっと、まずは余が誰か、だったよな。余はお前さん達の概念から近いもので言えば・・・そうさのぅ・・・神、じゃな。」

「「えっ・・・!?」」

「もしくは悪魔じゃな。」

「「ええっっ・・・!??」」

あまりに衝撃的かつ突飛で思考が追いつかない。

神と悪魔だと流石に真逆な気がするんだけどなぁ・・・。

「まぁ、深く考えるでない。ここら辺を説明するとちと長くなるからの。今はそうゆうものだと大まかに理解していれば良い。」

「はぁ・・・。」

うーん、とにかく現状が把握できていない今、明確な答えを言ってくれる人が居るというのだから、それに甘えるとしようか・・・。

現状知りたい事をまとめよう。


1つ、自分が2人いる事

2つ、記憶があやふやな事

3つ、此処が何処なのかという事

4つ、上記全てを解決して自分を日常に戻す方法を知る事。


・・・ぐらいかな。


「ほうほう、意外としっかりと考えているではないか。」

「え!?」

「何?何故、考えた事が分かるのだと?それは余が心を読んでいるからに決まっているだろうに。・・・というか、さっきも余の容姿に思考がズレた時があったじゃろ?その時も心を読んで話を戻してやったではないか。やはり、どこか抜けているのかのう。」

そ、そうなのか・・・神とか正直疑っていたけど、本当かもしれないなぁ・・・。

「不敬はそこそこな。まぁ、取りあえずそれら4つの疑問全て晴らして見せようぞ。そうさね、これは所謂ちゅーとりある、なるものだな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神様(っぽい児童、面倒なので以後神様と言う)が色々と説明してくれた。

数時間に渡って優しく説明してくれたが、イマイチ信じれらない。

かいつまんで現状を把握してみよう。

まずは、ここは日本で無く異世界らしい。

正式名称はネーベンココという所らしい。

そしてこの石造りの部屋は廃村付近の霊廟らしい。マジかよ・・・。

じゃあ、なんで私がそんな所に居るのかというと、簡単に言うとそうゆう契約らしい。


順を追って説明しよう。

神様いうに、私は異世界に来る前に意図してか無意識か神様達っぽい人にとって好都合な事をしたらしい。

私は神様に影響を与えるような大層な事をしそうな人物じゃないと思うんだけどなぁ、と思っていると神様がつかさずフォローしてくれる。てゆうか、この神様意外と気配りが細かい。えっと、話を戻すと別に世界的な偉業とかしなくても小さな事柄がやがて大きな波となって影響していくらしい。その一番最初の波が私によって起こしたらしく、本人が気付かないことは良くあるらしい。うん、バタフライエフェクトってやつだね。

私は気付かぬうちに神様的に好感度が高まったらしい。


そんな最中、私はその好感度を保ったまま死んだらしい。

うん、死んだらしい。それも運悪いタイプの死に方らしい。

契約上の理由で詳しくは教えてくれなかったけど、不運と踊っちまった系らしい。

正直、ここは納得できてないけど話を進める。

そこで、あまりにも可愛そうだと思った神様が居たらしい。

そう、それがこの神様こと児童。

児童は哀れみから私に接触して、『契約』の機会を与えた。

『契約』、それが現状の全ての原因。


神様は私に対してこう言ったらしい。


「お前さんのお陰で余は助かった所がある。故にお前さんに好機を与えよう。ただし、それは無償の施しでは無い。お前さんが余に捧げたもののお礼として何でも与えよう。」

神様は財産や記憶の一部。またはそれに準ずる大切な物を捧げると思った。

過去の経験からそう思い込んでいた。

結果から言うとその思い込みが悪かった。


「うーん、じゃあ全部あげます。」


「・・・え?」


流石に神様は驚いたらしい。何がどれくらいの価値でどういったものが与えられるのか、そいったレートを知らず全てを捧げてきた。そんな人は初めてらしい。

本当にいいのかと再三聞いたのにも関わらず軽く「いいですよー」と言ったらしい私。

財産とか地位とかそうゆうものレベルじゃない。全てだった。

現在の所有物全て。肉体や、記憶も。

ばか、私ばか。そのせいで今、私は記憶が無いみたいだ。

どうやら全部記憶を取り除いたら赤子状態で生きてけないから個人情報にまつわる事全て、という事で話が落ち着いたらしい。

じゃあ、私が全てを捧げてまで欲しかった対価とは。


『やり直す』、という力を得る為らしい。


これを聞いて私は開いていた穴がすぽっと埋まった気がした。

そう、これは私らしい。私らしい答えだ。

おぼろげな感覚であるがこの思いは私の中で燻っていた。

恐らくずいぶん昔、生まれて記憶が残るか残らないかぐらいの時から思っていた事がある。

『何故こんな回りくどい方法をやってしまったのか』という後悔と『もう一度最初からやればもっと上手くできるに』という願いだ。

人生はやり直しが出来ない。だからそこには無数の無駄がある。

なぜ、あの時こんな事をしてしまったのか。

なぜ、あの時にこうしていればなど。

思い返せばキリがないだろう。

今はおぼろげにしか分からないが私の人生は後悔にまみれていた。

だから、願った。『やり直す』力を。


まずは、私は全てをリセットされたらしい。

穴だらけの魂というもの以外全て。

その後、世界をやり直した。

この異世界は私たちの世界のちょっとした隣にあるらしい。

どんな世界であるのかは児童のフィーリングに任せたらしい。


次に私は私をやり直した。

そこで以前の失敗を生かすために一つ対策を打った。

それが、「自分を2人に」という事だ。

人は1人では生きていけない。確かに真理だと思う。

だが、私はどうしようもなく1人が好きだ。

―――なので、私を増やすことにした。


それがジジイと幼女の自分。

理解はしたけど記憶失う前の私はぶっ飛びすぎ。やばいしか言えない。

ちなみに何故ジジイと幼女なのかというと、そこは児童のお任せらしい。

男女と老若で分けたらしい。特に理由は無い。


そして、私はいつでも対価を払えば『やり直し』が出来るらしい。

もちろん、また別の異世界に行くとかは無理らしい。

実は児童はここまでぶっ飛んだ要求をされるとは思っていなかったらしく、自前の魔力的なものを使って、要求を満たしたらしい。

契約は絶対。たとえ児童が神的な者であっても破ることは出来ず、泣く泣く言われた事をこなしたせいで、自前の魔力はすっからかん。さすが私、さすがだな。

なので、いくら私が数十年生きて、その記憶を代償にやり直しをしても全てをやり直すには私のリソースが足りないらしい。

そもそも記憶を代償にすること自体がもう出来ないらしい。

「まぁ、とはいっても性別や歳、見姿ぐらいだったらお前さんの魔力でなんとかなるぞい。」

どうやら『やり直し』の力に付随して『ステータス化』という力も付随してきたらしい。

自分の能力値であったり、物の耐久度とかあらゆる事が数値になって見える力。

『何』を『やり直すの』か、そのために必要な力みたいだ。

その能力を使って性別の項目や歳の項目を弄ってやればジジイや幼女も直ぐに変わるらしい。

魔力は体力みたいなものらしくって、自動的に回復することが出来るので、実質やり直しの対価は安いものだ。

また、その気になれば2人を1人に戻したり、3人にしたりも出来る可能性もあるらしい。

でも現状では3人には出来ないらしい。

詳しくはまだ聞いていないが必要なものが揃って能力行使の習熟度が高まっていれば出来るらしい。


『やり直し』と『ステータス化』、まぁなんというか記憶失う前の私はとんでもないな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「まぁ、という訳じゃ。もういいかの?」

「え、まぁ分かりました・・・。」

「それで、お前さんはどうするんじゃ?」

「え、いや、どうすると言われても・・・」


現状を理解したとしても記憶をなくして、何かしたいという気も起きず、また途方に暮れる。

「まぁ、それもそうかの。じゃあ、またの。」

「ちょ、ちょっと待ってください!え?どこかに行っちゃうんですか!?」

ジジイ顔が児童に迫る。犯罪くさい。

「ええい!そうせっつくな!大丈夫じゃ、霊体になって傍におるから安心せい。」

どうやら、霊体という状態になって見守ってくれるらしい。

所謂スリープモードで魔力を枯らした児童にとっては極力眠っていたいらしい。

どうゆう原理か分からないが私が呼べば起きて来てくれるらしい。優しい。

「・・・ふぅ、まあ良い。そうさね。やり直しても記憶が多少あるし区切りがイマイチないのかもしれんのう。仕方ない、余がお前さんを誕生させてやるとするか・・・」


そして私は異世界で、


「ようこそ、新しい世界へ。」


―――私は人生をやり直すことにした。


読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字脱字報告等受け付けております。


次は能力関係とか考察とかする予定。

ゆるく書き続けていこうかと思います。

更新予定日は5月15日です。

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