Secret episode1.ハニードクター
DarkNightの番外編。
※この作品には本編にまだ登場していないキャラが出てきます。
微ネタバレ注意。
出来るだけネタバレ避けたつもりですが出てないキャラが居ますので苦手な方はバックお願いします。
敵側サイドのお話。
私がまだ小さかった頃、祖父に言われた。
『困ってる誰かを助けられる医者になりなさい。』
決して奢ることがなく、常に人の心を第一に考えられるような医者になれと。
扱うのは人の命。
万全を期したつもりでも失敗することもあるし、それこそ奇跡が起こることもある。
我々はそうした不完全で未知数なモノを取り扱う仕事をしているのだからと。
そんな祖父は町医者として地域の住民にとても愛されて居た。
それから、
『とある青年が訪ねて来たらその時はよろしく頼むよ。』
そう言い残し……
➕
(ん……。)
目を開けた。
どうやら仮眠を取るつもりが深く眠ってしまって居たらしい。
この部屋周辺が静かなところを見ると何か不測の事態が起こったとかそんなこともないようだ。
男は短い髪に黄色に近い金髪の髪に同じ黄色の目。
前髪はM字に分かれ真ん中の部分はクロスしている。
彼、ヅッキーは仕事の合間と言うこともあり白衣にネクタイ、前のボタンは開けている。
(祖父の夢……か。)
ふと思った。
町に愛され患者に愛され、その遺志を受け取った父もまた優秀な医師であった。
私自身も親の七光りと言われることもある。
けれど、決して祖父の言葉を忘れることはない。
きっとこれから先もそうなんだろう。
➕
「ズッキーニ院長!回診のお時間ですよ!!」
ナースが茶化すように言う。
「あのさ……私の名前はヅッキー・ニニョルだから。いつもそう言うのやめてくれないかな?」
「つまりは縮めてズッキーニ院長ですよ!皆ナースはそう呼んでますよ?」
「ズッキーニ単体も別に好きではないしそれあまり縮まってないよ?君らがそう言うから患者にまで最近そう呼ばれるだけども。」
やれやれと困ったように笑う。
「それほど患者に親しまれて良いじゃありませんか。愛称のある院長先生なんて素敵ですよ?」
「君達、たまに私をからかってないか」
「あら、バレちゃいました?ほら、行きますよ。大院長。」
ナースがヅッキーを急かす。
「あのさ、その呼び方もやめて欲しいんだけども。」
ヅッキーは苦笑した。
ちなみに大院長とはヅッキーの呼び名でズッキーニと言う愛称より良く呼ばれている。
今では各地に増えた病院。それを統括する一つの大きな病院の院長と言うことで大院長と言う呼び名がついた。
しかし、ヅッキー本人はあまり気に入っていない。
「なんか堅苦しくて嫌でさ。院長までなら良いんだけど。私としてはヅッキーって呼んで貰っても構わないし」
「それ、他の副院長先生方が聞いたら泣きますよ?」
堅苦しい他の先生方が親しげに呼ぶのを想像するのは難しいだろう。
むしろそんなお恐れ多いことは出来ないだろう。
「腕も良くてルックスも良くてゴッドハンドと呼ばれるくらいなんだからもうちょっと大院長は偉ぶっても良いんじゃないですか?」
「……。ルックスは関係ないだろう……?それにそんなでもないし。頼ってくれる患者が多く来てくれるのは医者冥利に尽きるけどね。」
「またまた謙遜を〜。腕の良い白衣の似合う若い医者なんて天然記念物ですよ?若い患者にも人気じゃないですか。まぁ、それもひとえに患者を気配りが出来てるからこそ何ですけどね。」
「……そうなのかな。それなら良いのだけれどね。さ、回診に行くんだろう。患者は待ってくれないよ。さて、お喋りはこれくらいにして早く行こうか。」
ナースの背を押し待っているだろう患者の元へと急いだ。
➕
「子供が居ない……?」
驚いたようにナース長の顔を見る。
「はい。401号室のお子さんなんですが。いつも部屋から出て行っちゃうんですけど……。今日は院内を探しても見つからなくて。」
「そうか……。それは心配だね。あの子はたしか人工透析を行なってたはず。
今週の透析はまだだったし。心配ではあるな……。」
「もしかしたら外に出て行ってしまったのかも……。どうしましょう……先生方も今は出払ってしまっていて。」
「ふむ。なら、私が探してくるよ。後のことは全てここの院長にお任せるよ。残ったナースで院内をまた探してくれ。」
そう言い残しすぐさま白衣のまま部屋(通称、大院長室)を後にした。
➕
患者である子供の名前を呼びながら町を歩き回った。
路地裏、公園、噴水に港。
子供が興味を惹かれるであろうところを探し回った。
時には店の中に入り女の子は見なかったかと聞いたが誰も彼も見てないとのことだった。
携帯に着信が無いことを見ると病院内も非常事態は起こってないようだ。
公園で少し座り、探すのを再開しようとしたその時だった。
一人の男に声を掛けられた。
➕
迂闊だった。
いくら周りが気軽に話掛けてくれる存在だとしても他の者も同じだとは限らない。
自分を軽い存在だと見ない者達も中には居る。
一人で出歩くと言うことがどれ程危ないか忘れてしまって居た。
先程、話し掛けて来た男は体格も良く体つきも屈強だった。
話を聞くと、この近くで病院の入院服を着た女の子を見たと言うのだ。
急いで男の案内のままついて行くとどんどんとひと気の無い通りに連れて行かれた。
流石に不審に思い確認の為、声を掛けようとした時だった。路地から数人のいかにも野蛮そうな男共が出て来たのだ。
➕
「彼女は一体何処に居るのかな?」
いくらヅッキーのようなお人好しでもこの状況では無駄だとわかる質問を投げかけた。
それを聞いた瞬間に周りの男達は笑い出した。
さっきの始め話掛けて来た男が向き直り、
「んなもん知らねーよ。」
と言い嘲るように半笑いを浮かべた。
「ダメだなー。先生。この辺りはガラの悪い奴らばかりなんだから。先生みたいな高給取りがフラフラ出歩くモンじゃねぇよ?」
アハハといかにも頭の悪そうな連中がバカにしたように笑った。
ヅッキーの額を冷や汗が伝う。
「高給取りだなんてことないよ。君らはつまり私を餌に金を釣ろうとしてるワケだ。」
「ほぅ、物分りの良い先生だ。じゃあ、大人しくしてて貰おうか。」
「そうも行かないんでね。私はまだ人探しの途中なのだから。」
そう言い終わると白衣の内ポケットへ指を滑らせる。
金属特有のヒヤリとした感覚が指先から伝わる。それを取り出し勢い良く飛ばし射出した。
普通ならば医療器具であるそれは刃物となり目の前の男に向けて投げたのだ。
「うわっと!おぉ、あぶねぇ!チッ。なんてモン投げやがる。可愛い顔して随分と物騒だねぇ、アンタ。」
男には全て避けられてしまったらしかった。
「悪いけど、私も護身くらいはさせて貰おう。ちょっと痛いかもしれないが。」
そう言うヅッキーの手には手術に使うメスが握られている。
「君らはちょっと悪戯が過ぎたようだね。悪いけど大人しくしてーー。」
ふと気配を察し、瞬時に振り向くと同時に視界が暗転した。
後頭部に強い衝撃を受け、しまったと感じた時には既に遅かった。
ヅッキーの意識は混濁し、すぐに闇へと堕ちていったーーーー。
➕
ここは港町であることもあり、倉庫や工場も多い。
そんな中、使われてない倉庫もあったりする。
つまりは何が言いたいかと言うと。
(まいったな。)
その一つにヅッキーはしゃがんだ体制のまま、縄で後ろ手で縛られ鉄で出来たポールに繋がれ身動きの出来ない状況にあった。
手を動かしても縄はビクともしない。
元々、力の強い方ではないのでポールごと引っこ抜くことも、縄を力で引き千切ることも出来ない。
(携帯は……ないな。)
ポケットに入れていたはずの携帯は取り上げられていた。
ついで言えば白衣の重さからしてメスも全てなくなっているだろう。
もっともこの状況では取り出すことも出来ないだろうが。
「さて、人質となった先生?ご気分は如何ですか?」
礼儀良くぶり軽く会釈をした男が笑い出す。
ヅッキーは反抗的な目で睨み付けた。
「君らのような輩にやる金も何もないよ。うちの病院はね。」
すると男のうちの一人が水の入ったバケツをヅッキーの頭にかけて来た。
「!!げほっ、ごほ…!!!」
変に水を飲み込んでしまったらしく激しく
むせることになった。
冷たさと共に白衣や服に染みる嫌な、気持ちの悪い感覚がした。
「先生、今置かれてる状況理解出来てます?バラしちまっても良いんですよオレらは。」
刃物をちらつかせ、水をかせて来た男が言う。
「おい、人質なんだからあんまり手荒なマネしやがんな。」
リーダー格らしい男が注意する。
「にしても美形っつーのはこう言う顔のこと言うんすよね。中性的っつーかなんつーか。」
「オマエには縁のない顔だな。」
他の男が笑い出す。
と、男達の中の一人がとんでもないことを口走った。
「良いこと思いついたんすけどコイツの服ひん剥いて撮った写真をマニアックな奴らに売ればそれなりの金になんじゃないっすか。」
「はっ??」
ヅッキーは男の言葉を疑った。
(今この男、……なんて言った!?)
ヅッキーの身体に激しく悪寒が襲った。
「成る程、そりゃあ良い。この大先生の写真なら高い値がつきそうだしな。人質代と合わせてたんまりいたーー」
しゃべっていた男が途端に固まった。
固まって、倒れた。前に。
いや違う。しゃべれなくなったんだろう。
倒れた男の後ろに立っていたのは男の影。
ではなく、人だ。
倒れた男はピクリともせず倉庫の床を彼自身の血液で染めていた。
➕
その人物はちょうど男の背中側にいた為、意図せずヅッキーと向かい合うことなった。
コーヒー豆のように焦げ茶の髪、統率の取れた身体に高い身長。
腰くらいある髪の毛に高い身長と長い手足はサラブレッドを彷彿とさせた。
男の左目のあるであろう位置は長い前髪で覆われている。
そして右目は全てを吸い込むようなただただ漆黒の色をしていた。
男は見るだけで上質だと分かる黒いジャケットを着て、ズボンを履いている。
驚く周りを他所にその男は涼しい顔でヅッキーに対し笑顔を向けすぐに前を向いた。
「おや……。殺してはいませんけどね。
そんなに殺気立たれると本当に殺ってしまいますよ。」
そう言いながら男は銀色の何かを黒い革手袋をつけた指で挟み弄んでいた。
ヅッキーはそれをメスかと思ったが違った。
それはメスにも似て非なる、小刀。
それは何の装飾のない彼の見た目にそぐわない程、無骨で本当にただの刃と言った印象であった。
「てめぇ、一体何モンだ!」
男の一人が叫んだ。
「……。何ですか?その使い古された常套句みたいな台詞。」
男はつまらなそうにため息をついた。
「……ま、良いでしょう。教えてあげましょう。ワタシの名前はアウェー・リラ・ヴェイツ。ただの通りすがりですよ。」
言い終わるとアウェーは勢い良く手に持つ数本の小刀を散り散りになっていた男達に投げ命中させた。
急所は避けているようだが、すぐに何人もの男が戦闘不能になり痛そうにもがいていた。
鉄パイプを持った男がアウェーの頭めがけ鉄パイプを振り下ろそうとした。
が、あっさり交わされよろけた所をアウェーに蹴り上げられた。
男はだらしなく気絶したらしい。
すぐにアウェーは懐から小刀を出し威嚇するようにリーダー格の男の足元に投げた。
「まだやりますか?ワタシは構いませんがアナタ方の怪我が増えるだけですよ。」
とこんな状況に置いてニッコリと微笑みかけた。
「構わないさ。こっちには銃があるからな。そんな飛び道具だけじゃーーひっ!?」
「飛び道具だけ……じゃ?」
アウェーは脅すようにまるで狼が目の前の非力な子羊を見るような目で見た。
ヅッキーは信じられない表情で目の前の光景を見た。
無数の、小刀。
それは物理的、物質的法則を無視し。
宙に、浮いていた。
数多の刃となって。
➕
「はぁ、血生臭いですね。
大丈夫ですか?そこのアナタ」
男達は床に真っ赤な液体をたらしたまま転がっている。
対するアウェーは返り血一つ着いてない。
「良かったですね、何ともなくて」
言葉を失うヅッキーにあぁ、そうだとアウェーは新たなに小刀を出した。
ぴくりと身を固くしたヅッキーを気にせず
自分の背後にジョリと音がし手が自由となった。
「あ、ありがとう……。なんて御礼を言ったら良いのやら……。」
恩人を一瞬で疑ってしまったことを恥じ、お礼を言う。
「……本当に甘いですね。アナタは。ワタシがここに来なければ危うく羞恥な姿を世間に晒す所でしたよ?」
図星を突かれ、うっとなるヅッキーを見てアウェーは言った。
「良かったら、送って行きましょう。近くにワタシの呼んだ警官ももうじき来るでしょうし面倒なことになる前にここを抜けますよ。」
「え?通りすがりじゃー??」
「じゃないですよ。さっきのジョークです。アナタを探して居ました。大院長先生」
そう言うとアウェーはその辺に倒れていた男のポケットを弄り、ヅッキーの携帯を奪い返すと慣れたようにひょいとヅッキーを抱えた。
「ええぇ!?流石に自分で歩けるから!」
じたばたとするヅッキーにアウェーは言った。
「彼等に何かされたのでしょう?大方分かってますよ。無理はしない方が良い。
じゃ、行きましょう」
そのあとで病院まで周りの好機な視線を浴びることになったのは言うまでも無い。
➕
病院へ戻るとヅッキーの安全を確認し、喜ぶ人達に向かい入れられた。
どうやらあの男達は既に人質として値段交渉をしてたらしかったがまだ金は一銭も払っておらず彼等は転がっていた所をやって来た警官に取り押さえられ回収されたそうな。
「彼らがうちの病院でせっかいにならなかっただけ良かったけどね。」
自分の部屋の暖かみを改めてヅッキーは感じた。ずっとここに居る空気、匂い。
「フフ、それはそれで滑稽でしたがね。」
アウェーは楽しそうに笑った。
ちなみに迷子になってた女の子は院内にて隠れてた所を無事ナースに発見されたそうだ。
「その女の子とやらも無事で良かったですね。」
「おかげでこっちはとんだ目にあったけどね。人生勉強にはなったから良しとするかな……。」
ヅッキーはコーヒーを入れアウェーに振舞った。
「ところで、君の用件をまだ聞いてなかったね」
コーヒーに口をつけかけたアウェーはコーヒーカップを置いた。
「あぁ、ワタシはアナタの祖父に生前付き合いがありまして。」
「えぇ!?お爺様に!??」
ガタンと驚き危うく自分のコーヒーカップを零す所をアウェーがカップを直した。
どう見ても二十代後半のアウェーに付き合いなどーー
「こう見えて童顔なんですよ。」
考えを見据えたかのようにアウェーは言った。
「えぇと。そういう問題なのかい……?」
とりあえずヅッキーは自分の椅子に座り直した。
「祖父に聞いてた。髪の長い青年とは君のことかな。」
「えぇ、多分そうですね。成る程、それならば話が早い。
実はワタシが来たのは援助をお願いしたいんです。」
「……。援助かい?君に助けられたことだしそれは構わないが。一体、何が目的で?」
「あぁ、そうだ。まだ、アナタ自身にはちゃんと名乗ってませんでしたね。」
アウェーはなんて失礼なことを、と呟きヅッキーに一礼した。
「ワタシはある結社の頭領をしていましてアナタに協力を仰ぎたい。」
「協力?」
すると、アウェーはさも当然だと言うように、それを何回も言ってきたと言う口振りで
「この世界に復讐する為に。」
その言葉はヅッキーの部屋に響いた。
➕
「ぷっ、ははは……。君は面白いな」
ヅッキーは笑い出した。
「ワタシは冗談も面白いことも言ってませんよ」
侵害だと言うように少し怒った表情でアウェーはヅッキーを見た。
「ふーむ、実に興味深いね。けれど、そうか。助けられた手前、君の願いに応えないワケにいかないか。それに」
「それに?」
「君のような優しい人が復讐すると言うのならばその後の世界も気になるしね。うん、協力しよう。」
こうして優しき医者はこの不思議な青年に協力することとなった。
➕
「いやはや、そんなこともありましたね……。実に懐かしい」
アウェーは診察室の椅子に座りヅッキーに向かい合わせに座っている。
「懐かしいね。あの時はまさか君の友人になるとは思わなかったけれど。」
「確かにワタシの友人って感じの人少ないですからね。皆、部下って感じで。」
「私もその部下の一人には違いないのだけどね。」
「まぁ、そうですねぇ……。」
アウェーは退屈そうに天井を仰ぎ見た。
「そう言えば……。ここらで最近、妙な事件があってね。」
「!……妙?」
「私の病院、あ。こことは違う所なんだけど怪我人が複数出て居てね。どの怪我人もチンピラみたいな輩で……。」
「以前ヅッキーを襲ったような?」
アウェーはニヤニヤしながら煽る。
「もう!その話は良いからっ!!」
照れつつヅッキーは声を荒げる。
「で、その怪我人がね、口々に言うんだ。ある単語を。『狂乱舞の騎士』と。」
「狂乱舞……またすごい名前ですね……。それはそれは……。動く価値ありと。」
「かな?」
「情報ありがとうございます。」
アウェーは立ち上がる。
「もう行くのかい?」
ヅッキーがアウェーに問い掛ける。
「はい。ぼやぼやしてられませんからね。そのなんたら騎士さんのことも調べてみますよ。」
「あぁ。」
「それじゃ、また。」
アウェーはジャケットを羽織り診察室から出て行った。
ヅッキーは小さく呟いた。
「うん、また。」
今回、本編より早く敵側のキャラを出す試みをしてみました。
また機会があればこういったこともしたいと思ってます。