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世界をつくる物語 第81章

「ごめんなー、クレアノンさん、こいつら寝ちまって」

 カルディンが苦笑しながら、4歳になる自分の甥っ子と姪っ子、ラルーシェとルディリアをそっとベッドにおろす。

「ま、こんなチビすけなんだから、寝ちまうのも当然だよなあ。ごめんなー、急に部屋とベッド用意してもらっちまって」

「私は別にかまわないけど――メリサンドラさんは、お子さんが戻らなくって心配なさらないかしら? もしなんだったら、エリックかパーシヴァルに知らせに行かせるけど?」

「ああ、姉貴はもう、泊ってくるかもしんねえってことは知ってるし。――ってか、クレアノンさんってすげえな」

「あら、なにがすごいのかしら?」

「うちの兄貴なんか、人間だけど、今のクレアノンさんみたいに、きちんと気を使うことが出来るかどうか怪しいもんだぜ」

 と、カルディンは苦笑する。

「チビどもは、みーんな寝ちまったなー。ルカも、ロンも、リーンも――」

 言いながら、ラルーシェとルディリアが眠るベッドの隣りにおかれた、大きなベッドの上で、三人ゴチャゴチャとからみあうようにしている、上から、5歳、3歳、1歳の、自分の子供達を見降ろし、優しく微笑むカルディン。

「ありがとなー。今日は、パーシヴァルがこいつらの子守をしてくれたから助かったぜ」

「それは、パーシヴァルに直接言ってあげてくれないかしら? それを聞けば、パーシヴァル、きっと喜ぶと思うのよね」

「ああ、そっか、そうするよ、うん」

 と、軽くうなずくカルディン。

「――あいつも全然、『悪魔』って感じじゃねえよな」

「え? ――ああ、パーシヴァルのことを言っているのかしら?」

「ああ。あんなに真面目で、おひとよしでよ。あれが悪魔だったら、俺なんか、大悪魔とか、魔王とか呼ばれたっておかしくねえぜ。ハハハッ」

 おかしそうに笑うカルディンを、クレアノンは、いたって真剣な顔で見つめた。

「そうねえ――パーシヴァルは、まだ、正式に悪魔になったっていうわけでもないし」

「へ? あ、そーなの?」

「ええ。それに、『悪魔』になってからだって、本人にその意思があれば、『悪魔』以外のものになることだって可能だし」

「へえ……正直俺は、そこらへんのことって全然わっかんねーや。……つーか、『竜』とか、『悪魔』とかの専門家って、いたっけなあ? セティカの連中のなかには、もしかしたら、そんな変人がいくらかいるかもしれねえなあ……なんつって、そんなこと言う俺だって、『奇人変人ソールディン』の、一員なんだけど、よ」

 そう言って、ケラケラと笑うカルディン。

「専門家――ねえ」

 クレアノンは、その、銀の瞳をしばたたいた。

「私達竜の中にも、あなたがたのような、人間や亜人の専門家、っていうのは、あんまりいないかもしれないわねえ。ああ、あなたがたに対する、知識がないっていうわけじゃないわ。それでも――その知識って結局、通り一辺倒の、一般論でしかないことが多いのよね」

「ゲェ、その、『一般論』の中で、俺らがいったいどう言われてるのか、なんて、出来れば知らずにいたいなあ」

 そう言って、大きく苦笑するカルディン。

「あら――どうして?」

「んー、なーんか、ろくなこと言われてねえんじゃねえか、って気がするし」

 そう言って、カルディンは、ふと、真面目な顔になった。

「――なあ、クレアノンさん」

「なにかしら?」

「俺なんか、人のこたあ、これっぽっちも言えた義理じゃあねえんだけどよ――あのよ――あの、よ――人間ってなあよ、正直――大概、ろくでもない代物なんだよ、いやほんと」

「……パーシヴァルも、似たようなことを言ったことがあるわ」

 クレアノンは、ゆっくりと言った。

「私は、そうは思わないんだけど――他ならぬ、『人間』であるあなたや、元々は、『人間』だったパーシヴァルは、どうしてそんなふうに思うのかしら?」

「それがほんとのことだからだよ」

 カルディンは、言下に答えた。

「クレアノンさん、あんたは、『竜』だ。だからよ――だから、あんたの前では、なんていうかな――あんたの前では、かっこつけたり、真剣になったりする人間が多いんだよ。だから、あんたは正直、今まで、人間の、結構綺麗なところばっかり見てきたんだと思う。でもよ――これは、俺自身そうだから自信持って言える。人間なんて、そんなにお綺麗なもんじゃあねえ。卑怯で、いじましくって、怠け者で、嘘つきで、いいかげんで、残酷で、偏見持ってて、差別とかガンガンして――そういうのも、人間、だ。だからよ――」

 カルディンは、どこか透き通ったような、普段の彼だったら決して浮かべないような笑みを浮かべた。

「クレアノンさん、あんたがこれから、人間の、汚いところ、いやなところ、どうしようもないところを見ても――出来ればあんまり、がっかりしねえでやって欲しいんだ。だってよ――俺ら、そうしなくっちゃ、生きていけねえことが多いんだもん。卑怯になったり、残酷になったり、自分と自分の家族以外のものを踏みにじったり――そうしていいって思ってるわけじゃあねえ。そうしたいと思ってるわけでもねえ――と、思う。と――思いたい。でもよ――そうしなくっちゃ、生きていけねえことだってあるんだ。だから――だから――俺らの、『弱さ』や、『汚さ』に、あんまりがっかりしねえでくれると、ありがたいな、と、思う」

「……あなたはとても、真摯な人なのね、カルディンさん」

 クレアノンの銀の瞳が、ひたとカルディンを見つめた。

「心配しないで。あなたがたの、卑怯さも残酷さも、竜や悪魔のそれと比べれば、ほんとにかわいいものよ。まあ、たいていの場合はね。弱い――そう、確かに、私があなたがたの『弱さ』を理解するためには、ずいぶんと時間がかかるでしょうし、もしかしたら、理解することなんて、出来ずに終わるかもしれないけど――」

 クレアノンの唇に、静かな笑みが浮かんだ。

「それでもね――私にはね、『強い』から、何でも一人で、というか、一頭で出来てしまうから、他の者達と関わりあう必要を感じず、ずっと一人でい続けて、それで何の不自由も感じず、自分を変えたいと思うことなんかもない竜の生きかたよりも、自分一人では何も出来ないから、みんなの力をあわせあって、一人では出来ないことを成し遂げる、そして、自分の『弱さ』や、『汚さ』を知って、そうではない自分になりたいと、そう思い続けて、そうなろうとし続けるあなたがたの生きかたのほうが、魅力的に思えるの。――おかしいかしら? 私は、竜なのに、こんなことを思うのって――?」

「まあ、あんたは、とんでもなく変わった竜だとは思うけどな。変人ならぬ、変竜、ってか?」

 カルディンは、面白そうな顔で、ニヤニヤと笑った。

「それでも――俺はあんたが、『変竜』で、ほんとによかったと思ってるぜ、クレアノンさん。きっと――きっと、この宴会会場にいる、他のやつらもみんな、俺とおんなじように思ってるはずだぜ」

「そう――それならよかったわ」

 クレアノンは、にこりと笑った。

「ところで、ヒューバートさんやミオさん、それに、ヤンさんは、眠らなくってもいいのかしら? だって、あの人達だって、『子供』――でしょう?」

「ああ、あいつら、すっかり興奮しちまってるからなあ」

 カルディンは苦笑した。

「まあ、頃合いを見計らって、俺が寝かしつけるとするよ。なんつって、宴会会場に帰って見たら、とっくの昔に全員眠りこけてたりな」

「もしそうなっていたら、パーシヴァルが面倒見てくれてると思うけど」

 クレアノンは、再びにこりと笑った。

「でも、そうね、そろそろ会場に戻りましょうか?」

「ああ、そうするか」

 部屋を出る前に、優しい一瞥を子供達に投げかけ。

 そして二人は、部屋を出て、宴会会場へと戻っていった。





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