世界をつくる物語 第63章
「――で」
パルロゼッタは、くるりとこうべをめぐらせて、アレンとエリックとパーシヴァルとを見つめた。
「そっちの三人は、いったいどこのどなたなのであるかな? 吾輩の――いや、セティカの情報網を持ってしても、いまだ情報が不足しているのであるな」
「はっじめましてー! 悪魔のエリちゃん、エリック・レントでえ~っす❤」
「初めまして。エリックの使い魔を務めております、パーシヴァル・ヴァラントと申すものです。以後、どうぞお見知りおき下さい」
「私――私はええと――私はその、アレン、と申します。私はその――私はその、ええと、その――」
アレンは困りきった顔でパルロゼッタを見つめた。
「アレンは、私の妻です」
ユミルが即座に、キッパリと答えた。
「……セティカの情報水晶を、更新しておかなければならんのであるな」
パルロゼッタはボソリとつぶやいた。
「オホッ? 『更新』? おお、なんたるちあ、サンタ・ルチア、『更新』、となとな? ああ、なんとなつかしくかぐわしく魅惑的な響き!!」
エリックが大仰なおどけた身振りで、ひどく楽しげにパルロゼッタの前に躍り出た。
「ああもしかしてひょっとして、オタクもやっぱし、『情報』なんていう得体の知れない化け物に、いろんなものを賭けちゃう系?」
「むむ」
パルロゼッタは、目をむいてうなった。
「そんな事を言うということは、あなたもまた、情報に魅入られたものの一人なのであるな!?」
「トーゼントーゼン、リノ・トウゼン!」
エリックは楽しげに、ケラケラと笑った。
「悪魔なんてねオタク、一人のもれなく情報マニア、新着情報中毒ッスよ!!」
「むむむ、あなたの言っていることは、どうもさっぱりわからないのであるが」
パルロゼッタは、キラキラとその、緑に金の斑点が散った瞳を輝かせた。
「なんだか面白そうなのであるな! 吾輩、まだ、悪魔の社会については全く研究を進めていないのであるな! ええと、エリックさん、であったか? あなたこれから、吾輩に、悪魔の社会についていろいろと教えてくれないか? 吾輩とても、教えて欲しいのであるよ!」
「アララン、そんな事まともにやってたら、オタクの寿命が終わっちゃうッスよ?」
エリックはケタケタと笑い転げた。
「……むむむむむ」
パルロゼッタは、悔しげに大きくうなった。
「吾輩思うのであるが、吾輩達の寿命は短すぎるのであるよ!」
「……」
この場では、おそらく唯一の純血の人間であるユミルが、どう答えようもなく目を白黒させる。確かに、パルロゼッタ属するホビット族は、エルフ族などと比べれば、寿命の短い種族だ。だが、人間は、そのホビット族よりさらに、寿命が短い。
「では、あなたのことはいったん置いておくのであるよ」
パルロゼッタは、いささか名残惜しげにエリックに一瞥をくれ。
「――それで」
クルリとアレンに向きなおった。
「あなたはいったい、なんなのであるか?」
「ですから、アレンは、私の妻――」
「それは、理解したのであるが」
パルロゼッタは、チラリとユミルをにらんだ。
「それがすべてではないであろ?」
「…………はい」
アレンが静かにうなずいた。
「私は、元は――ファーティスの、対大軍用――魔法、兵器、です――でした――」
「…………」
パルロゼッタは、大きく息を飲んだ。この大陸に来て、まだ間がないナルアとオリンは、事情がよくわからず、きょとんとしている。
「…………ユミル氏」
パルロゼッタが、上目づかいにユミルを見つめた。
「それは本当のことであるか?」
「ええ。そして、イェントンの当主も、すでに私達のことをご存知です。――認めて下さった、とまでは、今はまだ、申し上げることが出来ませんが」
「…………吾輩の手には、いささか余るのであるな」
パルロゼッタは、ポリポリとこめかみをひっかいた。
「セティカの代表会議を、招集せねばいかんかもしれんのであるな」
「あなたがたが、私達をいったいどうしようというんです?」
ユミルはギロリとパルロゼッタをにらみつけた。
「そんなに怖い顔をしてはいかんのであるよ、ユミル氏」
パルロゼッタは、ゆらゆらとかぶりをふった。
「物事を難しく考えすぎるのも、悪いほうへ悪いほうへ考えすぎるのも、どちらもあまりよいことではないのであるよ。ユミル氏は、吾輩の仕事をご存知ないのであるか?」
「社会学者さんとうかがっておりますが?」
「ああ、そっちではないほうの仕事のことであるよ」
「え――」
ユミルは一瞬、絶句した。
「セ――セティカの勧誘部隊長!?」
「であるよ」
パルロゼッタは、大きくうなずいた。
「まあ、これほど大事となると、吾輩の独断というわけにもいかんのであるがな。どうであるかアレンさん」
「え?」
急に話をふられたアレンが、驚いて目を白黒させているうちに。
「あなた、セティカの一員になってみる気はないのであるか?」
パルロゼッタは、サラリと言ってのけた。
「え――え!? わ、私がセティカの一員に、ですか!?」
「悪い話では――」
「悪い話ですよ!!」
ユミルが悲鳴を上げた。
「だ、だってあなた、セ、セティカになったら結婚を禁じられるんですよ!?」
「ええッ!? そ、それは困ります!!」
「……誤解があるのであるな」
パルロゼッタは、大きく肩をすくめた。
「結婚を禁じられるのは、罪の免責と引き換えに、セティカになる人だけであるな。ある一定の権利を剥奪される事によって、罪の償いとするために、そういうことをするのであるよ」
「――では、私も結婚を禁じられるんですね」
アレンは唇を噛んでうつむいた。
「私は――罪人、ですから――」
「違うのであるな」
パルロゼッタは、キッパリと言い放った。
「何を言っているのであるかアレンさん。戦場における敵兵の殺害は、全て罪や罰の対象とはならない殺人行為なのであるな。軍人とは要するに、兵士とは要するに、ある特定の状況下において、合法的な殺人が行える、職業集団のことであるな。つまり要するに――」
パルロゼッタは、ビシッとアレンの鼻先に指を突きつけた。
「あなたは、戦場からの脱走と、亡命という罪をファーティスに対して犯しているのかもしれんのであるが、このハイネリアに対しては、今のところ、なんの罪も犯してはいないのであるな!」
「……パルロゼッタさん、それは理屈です」
ユミルがため息をつきながら言った。
「みんながみんな、あなたの理屈で納得してくれるわけではないでしょう」
「それはそのとおりであるな」
パルロゼッタはうなずいた。
「しかし、そうおかしな理屈でもないであろ? セティカの連中のなかにはな、もっととんでもない屁理屈を自在に操るやつらが、いっくらでもいるのであるよ。で、あるからな、アレンさん」
パルロゼッタはにっこりと、アレンに向かって笑いかけた。
「あなたがセティカの一員になれば、同じ仲間の吾輩達が、理屈と屁理屈と、それに、それ以外のいろいろで、あなたを守ってあげるのであるよ!!」
「え――」
息を飲むアレンと。
にっこり笑うパルロゼッタと。
驚いて、その二人を等分に見やるユミルとを。
クレアノンは、目を輝かせて見守っていた。




