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世界をつくる物語 第50章

「体の調子はどうですか?」

「ありがとうございます。あの、なんかまだ、つわりも来ていないみたいで」

「ああ、つわりは、重い人と軽い人の差が結構大きいですからねえ」

「あたしはけっこう軽くすんだわねえ。子供が出来て、前よりおデブになっちゃったくらいよお」

 エリシアとアレンとハルディアナが、同じ母親という立場から情報を交換しあう。クレアノンの助手として紙芝居を用意していた黒髪の少女、アレンが、実はファーティスの人間兵器とも言うべき天才魔術師、水の同胞であることも、人間と淫魔の混血で、淫魔としての、性別や容姿を変える能力が不安定なため、ユミルとの性的な接触により、本来の年齢相応の貧相な中年男と、今現在の姿である可憐な少女とをいったり来たりしてしまうことも、ただいまユミルの子供を妊娠しているため性別が女で固定されていることも、すべて、知らぬはザイーレンばかりである。

「まだ、ほんとに、いるんだかいないんだか全然わからないんですけど」

 アレンが愛しげにおなかをさする。

「でも、クレアノンさんもエルメラートさんも、間違いないっておっしゃってましたし、それに、その――」

 アレンはポッと頬を染めた。

「その――そ、そういうことをしても、私の姿が変わりませんでしたし」

「――」

「なら、間違いないわねえ」

 エリシアは無言で微笑み、ハルディアナはのんびりとした声をあげる。

「どう――なんでしょうねえ?」

 アレンは不安げに眉をひそめた。

「私、本当は、到底若いとは言い難い年ですからねえ。赤ちゃん、ちゃんと産めるでしょうか――?」

「わたしもレオノーラを産む時、子供を産むには若すぎるって言われましたよ」

 エリシアは肩をすくめた。

「大丈夫ですよ。過信は禁物かもしれませんけど、心配しすぎるのだってやっぱり、赤ちゃんにはよくないと思いますよ」

「そ、そうですね。そうですよね」

 アレンは大きくうなずく。

「――ユミルさん、大丈夫でしょうか?」

 アレンが不安げに、今ユミルがザイーレンと対峙しているであろう、奥の部屋をうかがう。

「お、怒られてないでしょうか?」

「ザイーレンは、そんなに話のわからない人じゃないですよ」

 エリシアはにっこりと笑った。

「きっとわかってくれますよ」

「――怖くないんですか?」

 不意にアレンはポツリと言った。

「え?」

「なにを怖がればいいのお?」

 エリシアとハルディアナは、きょとんと顔を見あわせた。

「――国で、よく言われました」

 アレンは、泣きべそのかわりのような、悲しい笑みを浮かべた。

「バケモノ――って」

「え――ひどい――」

「――そう言いたくなる気持ちもわかりますよ」

 絶句するエリシアに、アレンは悲しい笑みをむけた。

「私は――戦いが嫌いなんです。でも、戦わなくちゃいけなかった。だからそういう時、私はいつも――私を手放してしまっていたんです。戦いの度に、私は狂って、戦いのあいだの記憶を、その前後の記憶ごと捨ててきました。戦場の私は――まぎれもない、狂人でしかないんです。だから、私は――あなたがたの大切な人ばかりではなく、味方である、ファーティスの人達まで、たくさん、たくさん、巻き添えにして――」

「――アレンさん」

 エリシアはそっと、アレンの手に手を重ねた。

「もう、いいです。もう、言わなくていいです。あなたがどうしてもそのことを言いたいというのなら聞きますが、そうでないのなら、そんなに無理をして傷口に指をつっこむようなことをしなくてもいいです」

「――ありがとう、ございます」

「ファーティスの連中って、馬鹿ばっかりなのかしらあ?」

 ハルディアナが珍しく、憤然とした声をあげる。

「どこからどう見たってアレンちゃんは、そういうことには向いていないじゃない。アレンちゃんはせっかく、天才的な水魔法の力を持っているんだから、その力をもっと、残らず全部、きれいに出し切るようなお仕事をさせればいいじゃない。なんでわざわざアレンちゃんに、その実力の半分も出しきれないような仕事ばっかりさせてきたのよお。せっかくの力を、どうして無駄に捨てるのかしらあ?」

「――私が殺したからでしょう」

 ポツリと、アレンは言った。

「私はいやだった。戦うのも、殺すのも、ほんとに私はいやだった。でも、私は、戦場に出されて――恐怖で自分を手放してしまった。狂気に身を任せてしまった。戦場に出されれば――追いつめられれば――人を殺せると、殺す事が出来ると、たくさんたくさん、殺す事が出来るのだと、私は――私自身の行いで、みんなにそれを、示して、しまった――」

「――」

 エリシアは泣きそうな顔で、そっとアレンの背中をさすった。

「――ありがとう」

 アレンはうるんだ瞳でエリシアを見つめた。

「私のことを、バケモノと言わずにいてくれて、ほんとにほんとに、ありがとう、ございます――」

「なんでこんなにかわいいアレンちゃんがバケモノなのよお」

 ハルディアナはアレンのほっぺたをムニッとつまんだ。

「ほーら、アレンちゃん、ニコッてしなさい。ね、赤ちゃんはねえ、お母さんの気持ちに、ほんとに敏感なものなのよお。――なーんて偉そうに言ってるけど、あたしもほんとは、子供を産むのはこれが初めてなのよねえ」

「あら」

 エリシアがクスリと笑った。

「じゃあ、わたしが一番先輩ですね」

「そおねえ。エリシアちゃんが一番若いのにねえ」

「ああいう光景を見ていると」

 エリシアは、年上の子が絵本を読んでくれているのを、他の小さい子供達と一緒に夢中になって聞いているレオノーラを見ながら言った。

「娘には本当に、友達が必要なんだなあ、って思うんですよね。友達と――それに」

 エリシアは、ちょっといたずらっぽくクスッと笑った。

「弟か妹も、何人か欲しいかな、なんて」

「何人だってつくっちゃいなさいよお。エリシアちゃん、まだ若いんだから」

「ふふふ」

 エリシアは照れくさそうに笑った。

「まずはザイーレンと相談しないと」

「あらあ、あの人がダメっていうわけないじゃない」

「ふふふ」

 エリシアは再び、照れくさそうに笑った。

「――お友達」

 アレンはそっと、自分のおなかをなでた。

「私達の赤ちゃんにも、お、お友達が、出来るといいな――」

「出来るに決まってるじゃない」

 ハルディアナがきっぱりと言った。

「あたしのおなかにいる赤ちゃんはもう、アレンちゃん達の赤ちゃんと、お友達になるって決定してるんだからね」

「け、決定ですか?」

「そおよお。決定よお」

 目を丸くするアレンに、ハルディアナは大きくうなずきかけた。

「レオノーラも、仲間に入れていただけるとうれしいです」

 エリシアは、アレンとハルディアナに微笑みかけた。

「あの子、おねえさんぶりたい年頃だから、お二人の赤ちゃんと遊ぶことが出来たら、きっととっても、喜ぶと思うんですよ」

「あらあ、いいじゃない」

「――」

 アレンは目にいっぱい涙をため、グスッと鼻をすすりあげた。

「ほーら、ニコしなさいってば」

 ハルディアナは再び、アレンのほっぺたをつまんだ。

「ねえ、楽しみじゃない。そうするとあたし達、親子二代でお友達になるのねえ」

「親子二代で――」

「お友達――」

 エリシアとアレンは、大きく目を見開いてハルディアナを見つめた。

「あらあ、何を驚いてるのお?」

 ハルディアナは肩をすくめた。

「あたしは、あたし達もう、とっくにお友達だと思ってたんだけど、ちがってたのかしらあ?」

「――」

「――」

 エリシアとアレンは、大きく笑った。

 そして。

「違いませんよ」

「ええ、違いません」

 二人そろって、にっこりと。

「わたし達は」

「私達は」

「「お友達ですよね、もう」」

 と、晴れやかに宣言した。




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