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世界をつくる物語 第23章

「うっふふー」

 ハルディアナは得意げに、小さな銀の円盤の周りを繊細な銀線細工が囲む首飾りを見せびらかした。

「見て見てえ。買っちゃったあ。いーでしょー?」

「ええッ、ハルさん、この間クレアノンさんから首飾りもらったばっかりなのに、また買ったの!?」

「えー、いいじゃないライちゃん、せっかくの旅行なんだし。それにこれ、ただの首飾りじゃないのよお」

「え、そうなの?」

「そうよねえ、クレアノンちゃん」

「ええ。私もおそろいで買ったんだけど」

 クレアノンがうれしそうに、ハルの物とよく似ているが、銀線細工の意匠がわずかに異なる首飾りを見せた。

「これはね、ハイネル教のお守りの、ハーネ、なんだって。ハイネル教は、太陽崇拝が中心だから、このハーネは、太陽をかたどったものなのよね。あ、もちろん、私もハルディアナさんも、別にハイネル教徒ってわけじゃないんだけど、お店の人に聞いたら、別に教徒じゃなくてもつけてていいって言ってたし」

「へえ、それ、お日さまなんだ」

 ライサンダーは、興味深げに二人のハーネを見つめた。

「そう言われてみれば、銀線細工の形なんかそれっぽいけど。でも、色がなあ。銀色って、お日さまっていうより、なんかお月さまみたいだなあ」

「いいじゃない、ちょっと変わってたほうが。ねー、クレアノンちゃん」

「ねー」

 と、クレアノンがおどけてハルディアナに調子を合わせる。

「いいなあ、ぼくもそういうの、ちょっと欲しいかも」

 エルメラートがうらやましげに言う。今日は、クレアノンとハルディアナ、ライサンダーとエルメラートとがそれぞれ別々に街を観光し、パーシヴァルは単独行動をとっていたのだ。

「あ、エーメ君も、そういうのに興味があるんだ」

「そりゃ少しはありますよ。だってぼく、半分は女の子なんですから」

 純血の淫魔のエルメラートは、男性体、女性体、中性体を、自分の任意で選ぶことが出来る。体の変化にあわせて、心理状態もそれなりに変化するのだ。

「じゃ、今度買ってあげるよ」

「ほんとですか? じゃ、ライさんもおそろいの買いましょうよ」

「えー、俺はいいよ。俺が首飾りなんかしたって似合わねえよ」

「あらあ、ライちゃん、ハイネリアの人は、男だってちゃあんとハーネを身につけてるわよ?」

 と、ハルが口をはさむ。

「俺、ハイネリア人じゃねえもん」

 ライサンダーが、ちょっと口をとがらせる。

「あらあ、そお?」

「柄じゃないって」

「そうかしらねえ?」

 ハルディアナは優雅に小首を傾げた。

「そう言えば、今日は、パースちゃんは?」

「パーシヴァルは、今日は一人でぶらぶらしてみたいんですって。ここは、前いたところとそんなに極端に違うわけじゃないから、安心して楽しめるって言ってたわ」

 と、クレアノンが答える。使い魔のパーシヴァルは、悪魔との契約により、悪魔の一番下っ端である、使い魔になる前は、クレアノン達が今現在いる世界とは、別の世界で人間としての生を送っていたのだ。

「さて――ところで話は変わるけど」

 クレアノンは、面々を見まわした。

「しばらくハイネリアを観光してみて、みんな、どんな感想を持ったかしら?」

「なんていうか、みんな生き生きしてますよね」

 エルメラートが即座にこたえる。

「服の色も綺麗だし、市場にはいろんな品物があるし、あちこちで芸人さん達が芸をしてるし。ぼく達みたいな亜人も、あっちこっちにいっぱいいるし」

「そうそう、俺、昨日出稼ぎに来てる遠縁のおじさんに会っちまいましたよ」

 ライサンダーは首をすくめた。

「いつまで淫魔やエルフなんかとフラフラしてるんだってどやしつけられて、いや、参った参った」

「あらあ、あの人、ライちゃんの親戚だったの」

 ハルディアナがのんびりと言う。

「あたしが出てったら、いきなり真っ赤になっちゃったけどお?」

「そりゃね、ハルさん」

 ライサンダーは、ハルディアナの胸元をちらっと見つめた。

「頭の上で、そんな暴力的なオッパイゆらされたら、たいていの男はそうなるって」

 ライサンダーの父方の血筋、ドワーフは小柄で筋骨隆々、ハルディアナの属するエルフは長身で痩身と相場が決まっている。ただしハルディアナは、世間一般で言うところのエルフにはあるまじき程、豊満で色気たっぷりで肉感的な体型と、それに見合った性格とをしていた。

「へえ」

 クレアノンは興味深げな顔をした。

「あそこのドワーフ鉱山から、ハイネリアへ出稼ぎって、わりと一般的なことなのかしら?」

「まあ、ドワーフは、わりと出不精が多いから、そんなにぞろぞろ出稼ぎに行くってこともないですけど。でもそうですね、ハイネリアは、けっこう待遇もいいし、それに――」

 ライサンダーは、ちょっと息をついた。

「ハイネリアの人達は、けっこう面白い発明をすることがあるから。いや、これは俺が言ったんじゃなくて、シャスおばさんの受け売りなんですけど。シャスおばさんいつだったか、ハイネリアの人達は面白い発明をするって言ってましたよ。俺なんかはまだまだ若造なんで、そういう話はまだ早いっておやじとかニックおじさんとかは詳しく教えてくれませんでしたけど、なんていうかなあ、お互いの技術を学び合う、ってことも、あったと思いますよ、確か」

「あら」

 クレアノンはにっこりと笑った。

「貴重な情報をありがとう」

「いや、もっとはやくに言っときゃよかったんですけどね」

 ライサンダーは、照れたように頭をかいた。

「こういうことって、なんかきっかけがないと、思い出さないもんですねえ」

「きっかけがあった時に思い出してくれればいいのよ」

 クレアノンはにっこりと笑った。

「なるほど――どうやらハイネリアはやっぱり、私が思っている様な国みたいね」

「というと」

 エルメラートが身を乗り出した。

「どういう国でしょう?」

「貿易国家にして技術国家よ」

 クレアノンは即答した。

「え? ええと――」

「ああ、ええとね」

 きょとんとしてしまったエルメラートを見て、クレアノンは言葉を探した。

「私とパーシヴァルとで、ちょこちょこ色々調べてみたんだけど、ハイネリアの今現在の国土の中に、大きな鉱山はないわ。だから、ハイネリアの人達は、ライサンダーさんの故郷や、他のドワーフ鉱山、他の人間の国の鉱山から、鉱物を輸入してるのよ」

「あらあ、それじゃ、うかつに戦争なんて出来ないわね」

 ハルディアナが肩をすくめた。

「だって、輸出を止められちゃったら、いっぺんに武器がつくれなくなるどころか、生活だって困っちゃうじゃない」

「そうなのよ」

 クレアノンが大きくうなずいた。

「ハイネリアが、ファーティス以外の国には、基本的に友好政策をとっているのはそれが大きな理由でしょうね。ハイネリアには、資源がないのよ。他の国と喧嘩して、一番困るのはハイネリアなわけ」

「でも、国土を奪い合ってるファーティスとだけは、やりあわざるをえない、ってか」

 ライサンダーがため息をついた。

「他人事ながら、難儀なことですね」

「ほんとにね」

 クレアノンは、真顔でうなずいた。

「その、資源の絶対的な不足を補うために、ハイネリアの人達は、貿易と技術開発に、国の力を注いだみたいね。そう、きっと――」

 クレアノンの瞳が、ふと曇った。

「ガーラートに国を滅ぼされて、ジェルド半島まで落ちのびてきた時、ハイネリアの人達には、もう、ろくな土地が残ってなかったんでしょうね――」

「それがファーティスとやりあう原因にもなってるわけですね」

 ライサンダーが、再びため息をついた。

「こりゃ厄介だなあ。土地問題って、もめるんだほんと」

「あら、実感がこもってるわね」

「俺らの鉱山には、みんなで共有している地区と、誰かが新しく発見して、決められた期間はその発見したやつに独占権がある地域とがあるんですよ。共有部分はいいけど、新しく発見した鉱脈のことでは、こじれるともう、ひっどいひどい」

「なるほど」

 クレアノンは、再び深くうなずいた。

「やっぱりあなたがたがいっしょにいてくれてよかったわ。竜ってね、奪う事は得意でも、そういう複雑な争いは、あんまりピンとこないのよ」

「複雑っつーか、なんつーか」

 ライサンダーは苦笑した。

「でもすごいですねクレアノンさん。俺がチラッと言った事だけで、それだけのことが考えられるんですから」

「あなたがたのおかげよ」

 クレアノンはにっこりと笑った。

「さっきライサンダーさんが言ったように、私もね、考えをまとめるのに、きっかけを必要とするたちなの。あなたがたはね、いつも、いつでも、そのきっかけを私に与えてくれるのよ」

「そうですか?」

 ライサンダーは、照れたように笑った。

「お役に立ててるんなら、いいですけど」

「立ってるわ。すごく立ってる」

 クレアノンは力強く保証した。

 そして。

「ねえ、みんな」

 クレアノンは、目を輝かせて面々を見まわした。

「話は変わるんだけど、『鳥船祭とりぶねまつり』に、行ってみたくない?」

「それってどういうお祭なんですか?」

 エルメラートが身を乗り出した。

「最近始まったお祭なんだって。風の魔法で飛ぶようにつくられた、『鳥船』を、空に走らせて、速さを競うお祭なんだそうだけど、私とパーシヴァルが調べたところによるとね――」

 クレアノンは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「そのお祭に、ソールディンの四兄弟の一人『風のナスターシャ』が、出場するんだそうよ」





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