ep05
超重量の木材で構成・構築されたソレはこの第二音楽室という空間を完全に支配下に置いていた。
木材の表面に満遍なく、濃淡なく均等に塗布された艶を放つ黒色の塗布剤は圧倒的質量・巨大なソレの存在感をさらに高め、そこに重鎮させていた。
俺はカバーを外し天盤を上げて音を出すために組み込まれた無数の部品を覗かせているソレに手を置いた。
自分は手がきれいなほうだと思う。男にしては。
触れる。それだけだった。
指紋一つ一つが吸いつくように、塗布されたそれに吸いつくような感覚が指先、手のひら、接触部位にあった。
すごいっ!!
気分が高揚した。なぜだかわからない。だけど、これだけは言える。
自分はこれを弾いてみたいと。これを自由自在に操ってみたいと。
「…どうかしら。弾いてみたくなった?」
彼女は先ほどまでの激情した話し方とも、初めて会話した時のような話し方とも違う、視線だけで人を魅了できるような、Sっけが多少含有されているそうなることが絶対に分かって、知っていたかのような笑みを浮かべ、話し方は変わらないが、絶対的な確信と自信があった。
ゾクゾクするね。鳥肌が体中に立つ。特に、ピアノに触れているところはやばい。
俺は敢えてこの気分を抑えて、彼女に言う。
「それはもちろん。揚羽が教えてくれるというのなら」
嘘だった。教えてくれなくとも、自己流で、我流で弾くつもりだった。それ程、これは俺を虜にした。俺の意識を捕り込んだ。
「あわてないで。どうせ今の凪クンはあたしなしでもするつもりでしょ。それはいけないよ。そんなことはさせないから」
「どうして、そんなことを」
「凪クンは全然分かってないから…かな。まぁいいから、早く始めようよ。さぁ、椅子を引いて座って。あ、椅子に座るときは椅子の先端にお尻を軽く乗せる感じでね……あ、そうそう、そんな感じ。そう、少し足で体重を支える感じ。――――おーけい。それじゃあ…―――」
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