探す依頼は……そうだな
さてと、予定のない寄り道をしてしまったが、0円労働にならなかったのだからよしとしよう。
「エイドス、まずはゴーグル作りから始めるのが、一番効率がいいと思うけど、お前はどう思う?」
『はい。そのお考えで間違いはないと判断します』
「そうか。じゃあ、決まりだな」
冒険者ギルドの掲示板前。
そこは本来、冒険者が報酬を得るために集まる場所。
だが、俺にとっては、『0円でゴーグルの素材』を集める場所だ。
「探す依頼は……そうだな」
数秒考えて、条件を整理する。
「『ゴーグルの素材が手に入る可能性がある』、『受注者がいない期間』と『報酬の低さ』が反比例している。これで探してくれ」
『了承しました。……演算終了。リストを表示します』
「早いな。少し場所を変えよう」
独り言をこぼす不審者あつかいは御免だ。
俺は、石造りの冷たい壁際、湿った影の落ちる場所へと足を向けた。
「条件に合う依頼の共通項は?」
『共通点は二点。「汚損値の蓄積」、および「経験値の獲得不可」です』
思わず口元がニヤけてしまう。
経験値が入らないというのは、まさしく俺のためにある欠点だ。
それに、汚れるといっても、所詮はゲームだ。大した問題ではない。
「では、では、推奨度の高い順に、挙げていってくれ」
『はい。まずは……』
エイドスが選別した依頼について聞きながら、さらに都合の良さそうな物を選別していく。
そして、いくつか候補が決まったところで、受け付けカウンターの前に立った。
「402番の依頼をお願いします。それと、このカードを確認してください」
受付嬢に差し出したのは、このギルドの冒険者カード。
ただし、特別製。
『全廃棄物の無償譲渡権』に関する権利付き。
「すみませんが、一筆願えますか? 廃棄物の中で気に入った物があれば、私が譲り受ける条件で、この依頼を引き受けたいのです」
「代わりにチップとして、この依頼の報酬は差し上げますから」
などと、声のトーンを落として伝える。
「その依頼書を持って先方と交渉しますが、拒否されたら、チップを渡すことはできませんが」
書状はもらえた。
だが、結局チップは拒否された。
ギルド規則に書かれているから、当然なんだがな。
◆
受けたのは、依頼No.402『ギルド地下倉庫の定期清掃および廃棄物運搬』。
受注履歴は過去3ヶ月ゼロ。
担当者に書状を渡し、現場に向かう。
案の定、倉庫は、酷い状態だった。
このゲームがリアルだとは聞いていたが、こういった空間に入ると、すごいなとしか言いようがない。
リアリティという暴力を、見せつけられた気分だ。
カビと鉄粉の入り混じった重い空気。
不規則に明滅する天井の明り。
そして地下倉庫の床を埋め尽くす、木箱に入った、剣や杖、鎧や兜の成れの果て。
毛皮や薬草だった何かもあるな。
まさしく、宝の卵たちだ。
今は、活かすことは出来ないが、な。
視覚情報がエイドスによって解析される。
さて、ゴミ拾い……いや、宝探しを始めるとしようか。
ギルドで借りた使い古しの軍手をはめる。
山積みの廃棄物に手を伸ばした。
泥まみれの水晶、折れ曲がった剣、用途不明の乾燥した草。
それらを二つの木箱へ振り分けていく。
「エイドス、これは?」
『マスター、それは大蜘蛛の抜け殻です。粉砕して蒸留水で煮詰めれば、強固な硬化剤になります』
エイドスの声に従い、俺専用の箱へ放り込む。
「こっちの煤けた紐は?」
『柔軟性は生きています。ゴーグルのベルトに最適です。その隣にある魔石片と合わせることで、レンズのコーティングに使えば夜間視力が得られます』
「……至れり尽くせりだな」
周りから見れば、ただの廃棄物。
だが、エイドスには完成図が見えている。
俺はサッパリだが。
◆
三時間後。
地下倉庫の床には、中身が整理された木箱のみが並んでいた。
俺の仕事は、ここまでだ。
あとは――。
「これか」
『はい。ひび割れた『魔力水晶の残骸』です。ですが、手を加えることでゴーグルのレンズとして再利用可能です』
見た目は、ジャンク品でしかない。
今は、と頭につくか。
『マスター・レン。「大蜘蛛の抜け殻」もお持ちください。接着剤に加工できます』
「なるほどな。他にゴーグル作りに役立ちそうな物はあるか?」
それから三十分間、リサイクル用の木箱を確認し続けたあと、依頼は終了となった。
俺としては、エイドスの指示通り、廃棄物を選別すればいいだけだったから、そこまで疲れてはいない。
「本当に助かった。今度、いい依頼があったら、優先させてもらうからな」
仕分けが終わったところで、担当者に報告に行ったら、思いの外喜んでもらえた。
地下の様子を思い出す限り、そうとう酷い状態だったからな。
この反応も頷ける。
「でしたら、経験値の入らない依頼があったら、教えて頂けますか」
「経験値か……ずいぶん変わった条件だな」
「ええ。いろいろと試したいことがありまして」
曖昧に答えておいた。
エイドス発の知識とはいえ、絶対視するのは危険すぎるからな。
情報源は、少しでも多く作っておきたい。
「さて、レンズは手に入った。次は……これを固定するフレームだな」
ギルドの門をくぐり、街の外へと視線を向ける。
本来であれば、魔物と戦うのがメインイベントなんだろうけど、俺は全力で逃げ回るだけだ。
「さて、じゃあ、『余り物』の回収をしに行くか」




