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あ、これ美味いっすね

 そのままの勢いで、俺たちはギルドの奥へと突き進む。


 歩く。


 廊下の突き当たり、ギルドマスターの執務室。


 歩く。


 蹴破られた重厚な扉。


 書類仕事をしている男がいる。


 あれが、ギルドマスターか。


 ドンッ!


 彼の前に立つやいなや、バッカスは執務机を殴りつけた。


「おいっ! こいつを見てみろ!!」


 ギルドマスターの表情。


 困惑と隠しきれない不快感が混ざっていた。


「何を言っている。お前は……」


「いいから、見てみろ! 俺が、こんな鈍らを打つと思っているのか!!」


 怒号と困惑。


 狭い室内で、感情がぶつかり合う。


「お二人とも、落ち着いてください。マスター、まずはバッカスが持ち込んだ剣の確認を」


「……分かった。……なんだ、これはっ!」


 マスターの眉が険しく寄った。


「『なんだ』じゃねぇよ! 売店で売られていた剣だ。どこかで、すり替えられているんだよ!!」


「そんなことが……」


(彼もまた「白」か)


「問題がハッキリしたのなら、全職員に売店の在庫の販売を停止させるのが最優先でしょう。……それと」


 俺は、本題を告げる。


「損害を最小限に食い止めた報酬として、俺の冒険者登録料を免除してくれませんか?」


 一瞬、空気が凍った。


 二人の巨漢が、俺を見据えている。


 理解不能な生物を見るような目で。


 酷くないか?


 よくあることだから、文句はないが。


「「はぁ!? いま言うことじゃねぇだろ!!」」


 声が、キレイに重なった。


 ごついオッサンのシンクロ。


 だが、そんなものに気圧される俺ではない。


「大事なことですよ! 俺、昨日は食パンの耳とモヤシしか食べていない――あっ、水も飲みましたが、わりと切羽詰まってるんですから!」


 驚愕。


 口をあんぐりと開けたマスター。


 おっ。


 彼の執務机から、高そうな菓子を一つ拝借。


「あ、これ美味いっすね。……じゃあ、また来ますので、登録料を無料にすることを考えておいて下さい」


 これで、パンの耳ともやし(あと水)だけ生活の記憶を、上書きできた。


 得したな。


 じゃ、帰るか。


 ドアに向かって歩き出した――が、肩を押さえられた。


 チッ。


 勢いで、誤魔化されてはくれなかったか。


「待て。ここまで付き合ったんだ、最後までここにいろ」


 肩を掴んだのは、バッカスだったか。


 いい笑顔で圧をかけてくるな。


「だな。最後まで付き合え。……な?」


 マスターも笑顔。


 表情の奥に、逃走を許さない圧力を感じる。


 屈強なオッサン二人に包囲された。


 これは、バイト代の追加請求ができるだろうか。


 あと、暑苦しいおっさん二人に囲まれた精神的な慰謝料も。


「はぁ。分かりましたよ。書類を見せて頂けますか。部外者の俺が変な事をしないよう、監視する人を置いてもいいですから」


 二人が視線を交わす。


 ギルドマスターは、職員を集めるために外へ出ていった。


 バッカスもまた、鍛冶場で何かするようだ。


 で、部屋に残ったのは俺だけ――と、いうことはなく例の女性販売員が残された。


 監視、もしくは警告か。


 だが彼女は書類確認で忙しそうだ。


 チャンス。


「エイドス。この隙に、ギルドの情報を抜き取ろう」


『了解。すでに準備は完了しています。ディープスキャンを開始します』


 チョーカーのレンズに書類を映す。


 ゆっくりと、ページをめくっていく。


 慎重に、――丁寧に。


「読むのお早いのですね」


 少し、ペースが速かったか。


「少し、速読をかじっていたものですから」


 おっ、危ない。


 疑われないようにしないと。


 販売員に、ときおり話しかけられる。


 そのたびに適当に話を合わせながら、情報を盗む。――もとい、確認していく。


「……仕方ない。今回は情報提供料として、付き合ってやるとしよう」


 紙の捲れる音だけが、室内に響く。


 その中に、俺の声が混ざった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になると思っていただけた方へ。


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