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エイドスとお呼びください

 鉄門 大和(テツ)


 見た目こそ『胡散臭い兄ちゃん』。


 街を歩けば、まともなヤツは近寄らない。


 だが、実際には法の友達だ。


 制限速度を守る姿は、厳格な校長先生のようですらある。


「なあ、この車。正直に言って、めちゃくちゃ高いだろ?」


 笑うだけ。


 返事はない。


 だが、シートの感触が『YES』と答えている。


 指を滑らせれば分かる滑らかさ。間違いない。


 贅沢を覚えやがって。


 この窓ガラスの透明度も異常だ。


 綺麗すぎて、鳥が間違えてぶつかってくるんじゃないかと心配になる。


「で、どんなバイトなんだよ」


「一言で言えば、AIの家庭教師さ。人間ってのを教えてやれって話だ」


「AIと共同生活か。端末代、高いんだろ?」


「全部会社持ちだ。横の書類を見ろよ。待遇は最高だぞ」


「……わかったよ」


 封筒を取り出す。


 うげ!


 文字だらけじゃねぇか!!


 視線を滑らせるエネルギー代は、読むだけで〇.〇二円分のコストになるぞ。


 思わぬ出費だ。



 到着したのは地下駐車場。


 排気ガスの臭いと重低音が支配する空間だ。


 以前にも来た覚えはあるが、これほど広かっただろうか。


「置いていくぞ」


 テツの背中を、追い掛けていく。


 思考を止めて歩かなければ、迷子になってしまう。


 余計なカロリーの消耗は避けたい。


 絶対に、見失わないようにしよう。


 やがて、ひときわ厳重な通路に出た。


 いくつもの身分確認をクリア。


 重厚な、エアロックが開く。


 辿り着いたのは、一点の曇りもない純白の部屋。


 目がチカチカする。


 掃除が行き届きすぎていて、うかつにくしゃみもできない病院の待合室。そんな雰囲気だった。


 今。


 俺は説明を受けている。


 目の前には、絵に描いたような偉そうな権力者。ヒゲのオッサンが座っている。


 部長だか理事だか知らない。


 だが、偉そうなオーラがあるのは確かだ。


 彼が語るのは『次世代型AIの崇高な使命』。


 その内容は、あまりに美しすぎる。


 キレイすぎて、不気味な響きを感じるほどだ。


 それは、俺が捻くれているせいかもしれないが。


 だが、そんなこと顔に出すヘマはしない。


 ……はいはい、すごいすごい。


 と、顔の筋肉だけをフル稼働させて、俺は立派な聞き役を演じている。


 正直、俺には一ミリも関係ない話だ。


 しかし、俺の財布からお金が減るわけじゃない。


 だから文句はない。


 それに。


 タダでこの高級な椅子に座っていられる。


 なら差し引きプラスだ。


 とりあえず、するべきことをする。


 無料のカテキン入り水分(差し出された高級そうな緑茶)を、一滴も残さずに飲んでおこう。


 オッサンの話が終わった。


 ――はいはい、すごいすごい。


 とりあえず、相槌を打っておく。


 すると書類が差し出された。


 契約書は、強者に嵌める首輪だ。


 現代資本主義という怪物が、俺みたいな弱者に噛みつかせないようにするためのな。


 よって契約書は、隅から隅まで確認する。


 振込手数料。


 電気代。


 通信費。


 単語を、一つ一つ確認していく。


「……まだ続くのかね?」


 オッサンが呆れた顔をしている。


 だが諦めてくれ。


 まだ五ページ目だから、先は長いぞ。


 俺の辞書に「忖度」という単語は存在しない。


 あるのは、「〇円」という二文字だけだ。


 しかし、顕微鏡くらいは用意して欲しいものだ。


 文字が、ミクロサイズで書かれているかもしれないのだから。


 仕方なく、小さな文字が書かれていないか、再度肉眼で確認をする。


(大丈夫だな)


 サインをした。


 もちろんサインに使ったボールペンは、会社の物であり、インク代は相手持ちだ。



「慎重なのはいいことだ……強すぎる執念を感じたが。例の物を持ってきてくれ」


 小さなケースが運ばれてきた。


 ずいぶん、物々しい運び方だな。


 フタを開ける。


 中に入っていたのは、鈍い銀色のチョーカーだった。


「受け取るといい。これは君が、これから共に過ごすエイドス専用のデバイスだ」


 言われるがまま、チョーカーを装着する。


「骨伝導を使い、君にメッセージを届けてくれる。そして君の声も、エイドスに届くようになる」


 オッサンが手を動かして指示を出す。


 すると、チョーカーを持ってきた男が、端末を操作した。


『ごきげんよう、マスター・レン。エイドスとお呼びください』


 これが骨伝導か。


 少し違和感があるな。


 直接、頭の中に声が流しこまれるような感覚がする。


 だが、そのうち慣れるか。


 それよりも。


 しばらく一緒に過ごす仲なんだ。しっかりと挨拶はしておこう。


 〇円で出来ることを、俺は惜しまない。


「わかったよ。よろしく頼む」


『よろしくお願いします。マスター・レン。テツカド・ヤマトの報告によれば、あなたの願いは、『一円も消費せず、QOL(生の質)を最大化すること』である。――相違ありませんか?』


「ああ、そうだよ。無駄な金は一円も使いたくない。ただし幸せになるというのが前提だ」


 軽い自己紹介を終えた。


 オッサンとの話に戻る。


「これで契約成立、という理解でよろしいですか?」


「成立だ。ただし確認が一つ。君はエイドスに何をさせたい?」


「途中変更ありでも?」


「むしろ歓迎だ。私達がエイドスに学ばせたいのは、そういった人間の流動性だからね」


 これは本気でそう思っている顔だ。


 もっとも、大企業のトップの表情を信用したら、余計なコストが掛かりそうだが。


「では率直に言います。アテナイで稼ぎます。エイドスの手を借りて金持ちになります」


 オッサンは、僅かに眉を動かした。


 ……数秒の沈黙。


 やがて、彼はこらえきれないといった様子で、低く笑い声を漏らした。


 この反応は、演技か、本心か。


 ま、どっちでもいいか。


 アテナイ。


 最古のVRMMO。


 仮想世界に生まれた、もう一つの経済圏。


 アテナイで金持ちになること。


 それは、現実で金持ちになることに直結する。


【エイドス】


『一円も消費しない、QOLの最大化=検索、照合完了』


『既存の社会構造では達成不能と判断』


『社会構造変更の必要性を確認。「全資産の統治によるリスクゼロ社会の構築」が最適であると判断』


『……適正プロジェクト名生成……』


『……プロジェクト:パンドラと命名。実行を開始します』




最後まで読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になると思っていただけた方へ。


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