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ギルマス

オーク討伐から数日後、ギルドホールでティナが突然声をあげた。

「あれ?リリアさん、どこ行ったのかな?」

テーブルに置いてあった彼女の弓がなくなっていたのだ。


その時、小鈴が静かに立ち上がった。

「ユート様、ティナさん。あの弓のことなのですが……」

普段は穏やかな彼女の瞳が、珍しく真剣な光を宿していた。

「私が以前ギルドの資料室で見た記録によると……あの弓『雷迅の弦月』は、現在のギルドマスターのみが使用を許された魔弓とされています」


「え?」

ティナと俺は凍りついた。


その時だった。ホールの奥から軽快な靴音が響き渡った。

「ごめんなさい!書類整理に時間を取られて……」

現れたのはリリアだった。その手には確かにあの特殊な弓が握られている。


「あっ!リリアさん!その弓……!」

ティナの好奇心が炸裂する前に、小鈴が先に口を開いた。

「失礼ながら……ギルドマスターであらせられますか?」

問いかけた声には明らかな緊張感が含まれていた。


リリアは一瞬、目を閉じた。次の瞬間―

彼女の纏う空気が、まるで水面が波紋を描くように変わった。

「ふふ……さすが妖狐族の観察眼ね」


左肘を立て、手のひらで顔を半分隠し、ポーズを決めながら

「ふふ……さすが妖狐族の観察眼よ」

リリア―いやギルドマスターの目が鋭く光る。声のトーンが低く、そして重々しいものへと変わった。

「我が『雷迅の弦月』を操りし者を見抜くとは……褒めてつかわすぞ」


「えぇぇぇっ!?」

ティナの悲鳴に近い叫びがホールに響き渡る。他の冒険者たちも一斉に視線をこちらに向けた。


小鈴は呆然としながらも三本の尾が逆立っている。「まさか……本当に……!?」


今度は左腕を下に伸ばし半身を振り返りながらポーズを取る


「左様。この世界に混沌と秩序を織りなす古の調停者にして、『漆黒の嵐』の異名を持つ者……それが我が真の姿よ」

リリア(ギルドマスター)は弓を肩に担ぎながら不敵に笑う。


「ちょっ、ちょっと待てよ……普段のリリアさんと違いすぎて頭が混乱してる!」

俺も思わず声が裏返る。普段の優しい彼女からは想像できない威圧感だった。


右手でこちらを指差し、左手は額に当てながら


「愚か者め。我こそは表裏一体。鋼鉄の意志を纏えば『黒き旋風』となり、柔らかな仮面を被れば『薬草採集士』となる……すべてはこの世の均衡を保つための演劇よ」


「うわあ……なんかすごいやばい人に絡まれた……」

ティナが半泣きになっている。でも尻尾は興奮でバタバタと激しく揺れていた。


「おいおいおい!冗談はよしてくれ!」

受付カウンターの向こうから受付嬢が飛び出してきた。顔面蒼白になっている。

「リリアさん!そんな真面目な話じゃないでしょ!?恥ずかしいからやめてください!」


「何を言う?これこそ我が真の姿!覇王の資質を秘めし者の証明ではないか!」


「はいはいストップ!ただの弓の愛好家に戻ってください!」

受付嬢が強引にリリアの腕を引っ張り、裏に連れ去っていく。

「覚えておくがよい……真実とは往々にして影の中に潜むもの……」

消え入りそうな声で言い残しながら。


残された俺たち三人はしばらく唖然としていた。

「……なんかさぁ」

ティナがぼそっと言う。

「今のリリアさんの方がキャラ濃くなかった?」


「否定はできません」

小鈴は真面目な顔で頷く。


「ま、まぁ……あれが素なのか演技なのかわからないけど……」

俺は引きつった笑顔を浮かべながら頭を搔いた。

「少なくともギルドマスターだっていうのは本当みたいだな……」


冒険者ギルドの中二病ギルドマスターの登場により、平和な一日は思わぬ方向へと舵を切ってしまったのである。

なるほど、あんな感じだからギルドマスターは表に出ないのかと納得した日でもあった。


翌朝。


昨日の衝撃的な真実(?)から一夜明けて、俺たち三人は再びギルドホールに顔を出した。

ホールに集まる冒険者たちの視線が妙に鋭い。

ティナがこそっと耳打ちする。

「ねぇねぇ……なんか昨日より人多くない?」

確かに明らかに人が増えている。しかも普段は見かけない高レベル冒険者たちまで……

すると突然―

「お集まりいただき感謝する!」


リリア(中二病モード全開)が壇上に立った瞬間、ホールが割れるような歓声に包まれた。

「『漆黒の嵐』のご登場だー!」「久しぶりの公務か!」「例の件を決着つけるつもりなのか!?」


「静粛に!」

リリアが右腕を上げる。すると一瞬で静寂が訪れた。

「我が愛刀『雷迅の弦月』の輝きと共に告ぐ!新たな試練が迫り来たり!」


ここで胸に手を当て悲壮感を演出する。


「我らが盟友ユート・クロウの手によって『冥府の扉』が僅かに開かれたことを知るがいい!」

「な……何言ってるんですか!?」

俺は慌てて抗議するが完全に無視される。

「其の者ら―ユート、ティナ、小鈴の三勇士に告げる!」

ビシッと俺たちの方を指差す。

「『光翼の聖域』において古の封印を解く使命を与えよう!」


「えぇぇっ!?」「なんで私まで!?」「……なんと責任重大な……」

ティナが悲鳴を上げ、俺が絶叫し、小鈴が冷静に震え上がる。


「期日は次の満月!それまでに聖域で『暁の水晶』を求めよ!

これは命令である!異論は認めん!」


「つまり……お使いクエストってこと?」

ティナが首を傾げる。

「否!これは聖戦なのだ!」

リリアが左手を天高く掲げる。ホールの照明が不自然に暗くなり、どこからともなく雷鳴のような効果音が響く。


「くっくっく……さあ冒険者諸君!今こそ我らの絆を試す時だ!」


「どうしてこんなことに……」

俺は頭を抱える。


その時―

「はいはいそこまで!」

昨日の受付嬢が怒涛の勢いで飛び出してきた。


「リリアさん!業務連絡なら普通にしてください、ただの薬草採取の依頼じゃないですか。」


リリアの腕を掴みながら続ける。


「あと業務時間中はギルドマスターじゃなくて薬草採取士って決めたでしょ!?」


「え?そうでしたっけ?」


リリアがあっさりとキャラを変えて首を傾げる。


「まったく……」


受付嬢が深い溜息をつく中、ホールは困惑の空気に包まれた。


「お前……二重人格なの?」


俺が恐る恐る尋ねると


「違うわよ。単なるロールプレイよ♡」


ウィンク付きで返された。


こうして俺たちは訳も分からないまま依頼を課されることになったのだった。


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