野リスとの戦闘
気がつくと、小屋の中に横たわっていた。木造で質素だが十分な大きさの空間だ。窓からは陽光が射し込み、暖かな雰囲気を醸し出している。
「……ここがエーテルが用意してくれた場所か」
起き上がると、体に違和感を感じた。確かに若い。十歳程度の少年の体だ。鏡がないので顔は確認できないが、自分の声の高さから判断すると間違いなさそうだ。
「まずは状況把握だな」
部屋の中を見渡すと、隅に木箱が置いてある。近づいて開けてみると、半年分の保存食と思われる干し肉、乾パン、鉄製のナイフ、木綿の服、ブーツ、2000ゴールド、ポーション×10が入っていた。反対側の壁際には、もう一つ別の箱があり、中には寝袋、毛布、ロープ、などのサバイバル用品が詰まっていた。
「思ったよりちゃんとしてるじゃん」
窓から外を覗くと、周りは確かに林に囲まれていた。鬱蒼とした緑の中で、鳥のさえずりが響いている。
「さて、どうしたものか……」
とりあえず服を着るかと考えていたら
突然、目の前に半透明のウィンドウのようなものが現れた。エーテルが言っていた「専用のステータス画面」だろう。
「おお、これか!」
手を伸ばして触れてみると、ウィンドウは消えたり現れたりした。何度か操作してみると、どうやら念じることで表示できるようだ。
【ステータス】
名前:未設定
種族:ハーフ精霊
年齢:10歳(体のみ)
HP:10/10
MP:50/50
レベル:1
スキル:
・剣術LV1
・言語翻訳
・アイテムボックス
・生活魔法(発火、浄化、飲み水、照明)
・鑑定
・現在地:エルメキダ大陸 北東部
「意外と充実してるな」
まずは名前を決めなければならない。ステータス画面の名前欄に触れると、「設定」という項目が出た。少し考えて……
「ユートにしよう。ユート・エルだ」
名前を登録した瞬間、どこかで鈴が鳴ったような感覚があった。この世界に根を下ろしたという実感だ。
「よし、準備完了だ。まずは生活基盤を整えないと」
小屋の入り口に向かい、扉を開ける。冷たい朝の空気が頬を撫でる。深呼吸すると、森の匂いが鼻腔を満たした。生命力に溢れた大自然の香りだ。
「とりあえず町だ、いくら半年分の保存食があると言っても限度がある」
アイテムボックスいろいろしまい込むと小屋をでた。
「でもまずは方向確認からかな」
背伸びしながら思い付いた事を口に出して行動へ移る。
「鑑定!」
目の前の木を睨みつける。
「モミの木」
木の種類が鑑定された。
「発火!」
両掌に火が灯る。しかし、その火力は小さくて使いものになりそうにない。
「まぁ、生活魔法なんだから仕方ないか」
「火種にして使うか」
アイテムボックスから薪を取り出して火を付ける。
ぱちぱちと音を立てて燃え上がる焚き火。それを見て少し落ち着いた気がした。
「よし、次は町に行く道を探さないとな」
林の中を歩き出す。地面に足跡を残さないように、枝を折らないように慎重に進む。しばらく歩くと
「ん?」
気のせいかだろうか、なにかがいたような気がした。
ガサッ
何かが飛び出してきた、小さい獣のような・・・
ガサッと茂みから飛び出してきた小さな影。灰色の皮膚に尖った耳、鋭い牙、もふもふしたしっぽをしたリスだった
「鑑定!!」
【ステータス】
種族:野リス
HP:3/3
レベル:1
そのまんまリスだった。
「うわっ!」
反射的に後ずさりする。10歳の体では相手の脅威が倍増して見える。しかも武器らしきものは何も持っていない。
「キュー」
甲高い奇声を上げて突進してくる野リス。思わず身をかわしたが、枝に引っかかり、バランスを崩した。
「まずい!」
背中に冷たい汗が流れる。近づく牙。咄嗟に腕で庇う体制を取るが、体当たりされた
衝撃で転がってしまった。
「痛ぇ・・・」
HP8/10 ダメージ2 弱いなりに攻撃が効いている。
「くそっ! どうすればいい?」
リスの体当たりがスローモーションのように見える。衝撃を覚悟したその時、
体に何かが循環するのを感じる・・・
全身が熱くなり、筋肉に力が漲るのを感じた。同時に、意識がクリアになり、周囲の動きが遅く見える。
「よし!」
今度は自分のターンだ。床に落ちていた石ころを拾い上げて投擲する。
命中!リスはうめき声を上げる。
続けて立ち上がりながら距離をとり木の棒を拾い構える。
リスは痛みに悶えるように暴れているがやがて俺の方へ向き直ってきた
。その瞳には怒りの炎が宿っている
「こっちだ!」
アイテムボックスからナイフを取り出し、それでリスを切りつけた
。
しかし
「くそっ!外した」
ナイフの刃はリスかすっただけだった。それでもダメージは与えられたようだが致命傷には程遠い
。
「まだだ」
もう一度ナイフを振りかぶった。今度は狙いを定めて、確実に倒せる位置を狙って
。
今度は上手くいったようだ。リスが倒れ込む音が聞こえる。
慌てて駆け寄ってみると、やはり倒れている。
「やった……」
安堵の溜息を吐き出す。
「こんなところで命を落とすわけにはいかないからな」
初めての戦闘で緊張していたのがわかる。心臓が激しく鼓動しているのを感じた。
「とりあえず小屋に戻ろう。怪我の治療をしないと」
来た道を引き返す途中も警戒を怠らない。リス一体でも苦戦したのだから複数体に出会ったらどうしようもない。
小屋に戻ると、早速怪我の治療を始めた。
「回復魔法は使えないから自然治癒を待つしかないな」
幸い怪我は軽傷で済んでいる。安静にしていればすぐ治るだろうと思った。
ステータスオープン
精霊膜?のスキルも新しく追加されていた。おそらく必死になった結果覚えたんだろう
「ふむふむ。なかなか興味深いな」
今後のためにも色々試しておかないとな。と独りごちた
【ステータス】
名前:ユート・エル
種族:ハーフ精霊
年齢:10歳(体のみ)
HP:8/13
MP:60/60
レベル:2
スキル:
・剣術LV1
・言語翻訳
・アイテムボックス
・生活魔法(発火、浄化、飲み水、照明)
・鑑定
・精霊膜
称号:
・世界渡り人
称号なんていつの間に?
「そういえばレベル上がってるな」
レベルアップによる成長と、リス戦での経験値が反映された結果だな。
「しかし、この程度の敵でレベルアップするとは思わなかったな」
まぁいいか。それよりも今は休憩だ。
ベッドに横になると途端に眠気に襲われた。
明日から本格的に探索を始めようと思っているので今日は早めに寝ることにする
最初は安全な町や村を目指して進む。そこで情報を集めつつ、自分の知識を増やしていかなければ。
そう考えているうちに意識は深い闇の中へと沈んでいった。
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翌日目覚めると同時に昨日と同じようにステータスを確認した。
特に変化は見られない様だ。良かった
今日はまず、この辺りの地理について知るべきだ。マップ機能があれば便利なんだけど……
「鑑定」で地形を調べることは出来る。それで代用しようかな。
# 森の中での生存戦略
次の日、目覚めると同時に昨日と同じようにステータスを確認した。
特に変化は見られない様だ。良かった
今日はまず、この辺りの地理について知るべきだ。マップ機能があれば便利なんだけど……
「鑑定」で地形を調べることは出来る。それで代用しようかな。
朝食を済ませて出発することにした。昨日と同じように森の中を歩いていると……
「また会ったな」
昨日と同じ野リスがいた
鑑定してみる。
【ステータス】
種族:野リス
HP:7/7
レベル:2
特徴:縄張り意識が強い
「レベル上がってるじゃん」
野リスのレベルも上がっていることに驚いた。まぁ、このくらいは当たり前か
。
昨日と同じようにスキルを発動させる。身体が熱くなり、筋肉に力が漲るのがわかる。しかし、昨日とは明らかに違う点があった
それは……
「早い!?」
今までよりも遥かに速い速度で走ることができることに気がついたのだ
。
この速度なら逃げ切れると思い後方に走ってみる。
「あれ?なんか追いつかれた!?」
おかしいなと思い後ろを振り返ると、野リスはこちらへ向かってきていた
。しかも結構なスピードで迫ってきているではないか!!
慌てて立ち止まって振り返ると、その目つきが鋭くなっていたことに気づいた
。獲物を見つけた猛禽類のような眼をしている。
「ヤバイ奴に遭遇したなこれ……」
しかし、ここで諦めてなるものか。何としてでも逃げ切ってみせるぞ
。
その一心で全力疾走を始めた
すると案の定、どんどん距離が離れていった。どうやら撒いたようだとホッとした矢先のことであった
視界の端に小さな影が映りこんだ気がしたのだ。嫌な予感がして振り返るとそこにはあの野リスがいたではないか!しかも今まで以上に早かったのだ!!
このままでは捕まってしまうと思ったがもう遅かった。すでに背後まで来てしまっているではないか
恐怖に支配されて硬直してしまった俺は避けることも出来ずそのまま捕まってしまった
そして……噛みつかれてしまったのだ
「いっった!」
HP5/10 リスに噛まれて出血してしまったようだ。痛い……
しかしなんとか脱出することに成功したものの、その代償は大きく血だらけになってしまった。
「クソっ!ここまでか……」
絶望感に打ちひしがれていると……
「キュイィィイイーーー!!!」
近くの茂みがガサゴソと動く音が聞こえた後、飛び出してきたのはなんと巨大なウサギだった!!
【ステータス】
種族:バトルラビット
HP:25/25
レベル:5
特徴:鋭い爪と歯で攻撃してくる
鑑定してみたらこんな結果だった。つまり強いってことで良いんだよね?
「グルゥゥウウ……」
唸り声を上げながらこちらへと近づいてくる。
「冗談じゃないよ!勘弁してくれって!」
必死に逃げ惑うも追い込まれていく一方であった
体力も限界を迎えようとしていたとき突然のことであった。
ウサギが動きを止めたと思ったらピョンッと跳び上がって攻撃してきたのだ
。
咄嵯に腕で庇おうとしたが間に合わず左肩を掠める形となり負傷してしまった。
あまりの激痛に涙目になりながらも、なんとか立ち上がり距離を取ることに成功したものの足取りがフラついてしまう始末だった。
「マズイな……」
もうダメかもしれないと思ったときだった
「ピュイッ!?」
奇妙な鳴き声が聞こえてきたかと思うと空高く舞い上がり一瞬で姿を消してしまったのだ
「助かった……」
ホッと一安心したのも束の間、またしてもトラブルが発生してしまうことになってしまうとは思いもしなかった
そんな状態でも次の行動を考えることにする。まずは傷の手当てをしなければならないだろう。幸いにして持ち合わせの道具類は無事だったので問題はないだろう。
包帯を取り出す際にポケットの中身も確認すると、いくつかの薬草なども入っていたことに気づいた。これを使えば多少はマシになるだろうと思い取り掛かることにした
しかし……
「いててっ!」
やはりというべきか消毒液などが無いので手当ては困難を極めることになってしまったがどうにか処置することはできた。
それでも完治までは遠いだろうと思えた。
ふぅ~疲れました~でも頑張ります~うん
そう思いながら休憩するために座り込んでいたその時のことだった
「グギャァア!!!」
今度は何だと顔を上げると、そこにいたのは緑色の肌に角を生やした怪物の姿があったではないか!しかも大きい!
「嘘だろオイ……」
絶望的な気分に陥ったことは言うまでもなかった
今度こそ終わりかと思った矢先、突如として吹き荒れる風によって視界が遮られてしまったのだ
しかし、すぐに晴れると怪物の姿はすでになかった
一体何が起こったのか理解できずにいると……
「大丈夫ですか?」
女性の声が聞こえてきたのでそちらを見るとそこには白髪の少女が立っていたのだ
その美しい容姿を見て思わず見惚れてしまったのは言うまでもないだろう
そんなことを思っている場合ではないと思うが、つい見とれてしまって動けなかったのだ
「あのぉ、もしもし?」
呼びかけられて我に返ることが出来た
改めてよく見ると年齢は十五歳前後といったところだろうか
服装はフード付きのローブ姿だということがわかるくらいで他にはわからない
ただ一つ気になることがあるとするならば瞳の色だろうか
虹色なのだ。このような特殊な色は珍しいのではないかと思われる
それよりも今は自己紹介をしなければいけないのではなかろうか?と思い至る
とりあえず名前を教えて貰おうと考えて話しかけることにした
「突然ですが、あなたのお名前を伺ってもいいでしょうか?」
その問いかけに対して少し悩んだ様子を見せたがすぐに答えを返してくれた
「私はこの森に住む精霊族なんです。名乗るほどの者ではありませんわ」
どうやら彼女は精霊族という種族のようだ
ということは半分精霊になった俺の同胞というわけだな。これは運命的な出会いなのかもしれないと思ってみたりする
いずれにしても好意的に接してくれるのはありがたいことだと思って感謝しておくべきかもしれない。
さてと、まずは自己紹介をしなければならないだろう
「はじめまして、私はユートと申します。貴女の名前を教えて頂けませんか?」
「そうですね。私のことはセレスと呼んで下さい」
「わかりました。それでセレスさんはここで何をしているのですか?」
「実は私も彷徨っていたらここへ辿り着いたんです。だから一緒に行きましょうよ」
「はぁ、なるほど」
そういうことなのか? なんとも不思議な感覚だと思ったけどそれ以上は深く考えないようにしようと思うことにした。
「わかりました。では一緒に行きましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
こうして二人の旅が始まったのであった。
「ところで、これからどうしましょうか? どこか行く宛てはあるのですか?」
セレスさんに尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた
「そうですね~特に決めていませんでした。とりあえずは食料調達をしたいところですね」
確かに空腹なのを忘れていたかもしれないので賛成した
そこで提案することにしたのだ。まずは食事をするのが最優先であると思う。
「それならこの森の中で探してみますか? 」
「いいかもしれませんね。ただし、危険もあるかもしれませんから注意して探しましょう」
「了解しました」
「あと一つだけ聞いてもいいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「どうして私を助けてくれたのでしょうか?」
「それはですね……」
そして俺は話を始めた。
セレスさんにはこれまでの経緯を説明した上で、自分が何者なのかについても話すことにしたのだ
。といっても詳しいことはわからないがそれでも伝えることに意味があるのではないだろうかと感じたからである
彼女は真剣に耳を傾けてくれていたようで、話し終えるとすぐに言葉をかけてきた
「わかりました。協力させていただきます」
「本当ですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。では早速行きましょうか」
「はい!」
こうして俺たちは行動を開始することになったのだ。
まずは情報収集から始めるべきだと考えているため街を目指すことにする。
その道中で危険な目に遭ったりすることもあるかもしれないけれど、お互いに助け合って乗り越えていければ良いなと思っている次第である
幸いにしてこの森の中はそこまで危険ではないらしく魔物の気配も感じなかったことからゆっくりと歩みを進めることにした
俺とセレスは森を抜けるために歩き始めていた。朝露が残る草むらを踏みしめながら進むにつれ、風の音や小動物の気配が少しずつ変わっていく。セレスの白髪が木漏れ日に照らされて淡く光っている。彼女の虹色の瞳は時折遠くを見つめていた。
「この辺りは比較的安全みたいですけど……油断は禁物です」セレスが呟く。
「そうですか……」
その時だった。前方の茂みからガサガサという音が聞こえ、ピンと立った狐の耳が一瞬だけ垣間見えた。銀色に光る毛並みと赤い着物の袖がちらりと覗く。
「誰かいますね」俺が警告すると同時に、茂みから一人の少女が飛び出してきた。年の頃は14〜15歳ほどか。銀色の長髪に鮮やかな赤い着物。頭の左右にはぴょこんと立つ狐耳。尻尾も二本あってふわりと揺れている。
「人間!?」少女は俺たちを見るなり目を丸くした。「こんな奥地に人間が来るなんて……しかも精霊族まで!?」
「こんにちは。私はユートといいます」俺は慎重に挨拶した。「そちらは?」
少女は警戒しながらも答えた。「わたくしは……紅葉と申します。この森の西側を縄張りとする妖狐の一族ですわ」
セレスが一歩前に出て穏やかに言った。「こんにちは。紅葉さん。私たちも偶然迷い込んでしまいまして」
紅葉は尻尾をピンと立てたまま首を傾げた。「妖精と人間の組み合わせ?奇妙ね。何か目的があって来たのでしょう?」
「実は……」
俺が事情を説明しようとした瞬間、急に紅葉の表情が険しくなった。彼女の耳が後方を向き、尻尾がブワリと膨らむ。
「何かが近づいてくるわ!」紅葉は即座に警告した。
紅葉の警告と同時に、茂みが激しく揺れた。現れたのは通常のリスよりも二回りは大きい個体だった。体毛は茶褐色から赤黒く変色しており、瞳は狂気に満ちた光を宿している。以前遭遇した野リスとは明らかに異なる雰囲気だ。
「あれは……ただの野リスではありません!」紅葉が叫ぶ。
巨大なリスが地面を蹴り上げた瞬間、俺たちの足元に礫が飛んだ。紅葉が素早く袖から符を取り出し空中に投げる。
「狐火!」
符が赤い炎となってリスに向かって飛翔した。リスは素早く木陰に隠れる。
「避けられた!」セレスが焦った声で言う。
俺は腰の短剣を抜きながら紅葉に声をかけた。「協力しましょう!」
「人間の割に度胸がありますわね!」紅葉は笑みを浮かべて印を結んた。「ならわたくしの援護を!『迅風』!」
彼女の周りに風が巻き起こり、リスの隠れている木の枝を切断した。怯んだ隙を突いて俺は駆け出した。
精霊膜のスキルを発動させると全身に熱が巡る。
リスが飛び出した瞬間を狙い、俺は短剣を突き出した。でも回避される
紅葉が再び符を取り出した。「厄介ですわね!『氷華』!」
青白い光を帯びた符が飛翔し、リスの周囲を氷塊が取り囲んだ。動きが封じられる隙に俺は再度突進した。
「これが本気だ!」短剣に力を込め、氷塊を砕きながら刺し込んだ。「ぐあっ!」リスの牙が右腕を掠め、血が飛び散った。
「ユートさん!」セレスが回復魔法を唱えようとする。
「心配は無用ですわ!」紅葉が新たに描いた符を投げた。「『狐火爆』!」
符がリスに貼り付いた瞬間、轟音と共に爆発が起きた。煙が晴れると、傷だらけのリスが倒れていた。
「……なんとかなりましたわね」紅葉が息を整えながら近づいてきた。「傷を見せてくださいまし」
セレスが俺の腕を診る。「幸い浅い傷です。『浄化』」
傷口が淡い光に包まれて塞がっていく。
「素晴らしい魔法ですわ」紅葉が感心した様子で言った。「それにしても……この野リス、解体しましょうか?食用にもなりますし」
俺は驚いて声を上げた。「食べるんですか?」
「もちろんですわ!」紅葉は嬉々として小さな刃物を取り出した。「この辺りの妖狐は森の恵みをありがたくいただくのが礼儀なのですよ」
セレスが申し訳なさそうに言った。「申し訳ありません……私たちはまだ森の掟に慣れなくて……」
「構いませんわ」紅葉は微笑んだ。「さて、ちょうど良い機会ですし……わたくしの住まいでお食事でもどうですか?詳しいお話も聞きたいですし」
三人は互いに顔を見合わせて頷いた。森の奥へ続く獣道を紅葉に導かれながら進むと、次第に霧が濃くなってきた。霧の向こうに小さな庵が見えてきた。
「着きましたわ」紅葉が扉を開けると、「おかえりなさいませ」と幼い声が響いた。小さな三尾の妖狐が丁寧にお辞儀をする姿に、新たな出会いの予感がした。




