魔法の練習2
「今日のターゲットはこちらになります!」
小鈴が指さす先にいたのは昨日よりすばしっこい栗毛のウサギ。
「動きを見極めてください」
深呼吸する。〈すべての力の源のマナよ 運ぶ風よ 時を刻む砂よ 門を開け──〉
だがウサギが跳躍した瞬間、狙いがブレた。
「あっ!」火矢は木の根元で弾けた。
「焦らないでください」小鈴の声が冷静だ。「動きを追うのではなく、動きを予想して着地点を攻撃するのですよ」
再挑戦。今度はウサギの着地地点を予想し、瞬間的に意識を高める。
「ファイヤーアロー!」
命中こそしなかったが、火矢が足元に炸裂しウサギが怯んだ。
ティナがその隙にすかさず捕獲する。
「お見事です!」小鈴が拍手。「少しずつ上達しています」
休憩中、俺はギルドカードを確認した。
【ステータス】
名前:ユート・エル
種族:ハーフ精霊
年齢:10歳(体のみ)
HP:21/21
MP:96/100
レベル:7
スキル:
・剣術LV1
・言語翻訳
・アイテムボックス
・生活魔法(発火、浄化、飲み水、照明)
・鑑定
・精霊膜LV2
・回復魔法LV1
・基礎魔法詠唱LV1(NEW)
称号:
・異世界転生者
・小鈴の友人
・紅葉の友人
「新しいスキルが増えた!」思わず声が出る。
「おめでとうございます!」小鈴が尾をふわりと絡ませてきた。温かい魔力の波動を感じる。
「ねえユート、今の感覚を覚えておいて」ティナが提案する。「魔法の直後にどう動くかの連携を考えよう」
その日の成果は十匹。夕暮れ時の宿で反省会をした。
「動きの中で詠唱するのは難しい」と俺が漏らす。
「慣れです」と小鈴。「次は複数目標に挑戦しましょうか?」
「おもしろそう!」ティナが目を輝かせる。
小鈴が茂みを指さした。
「三匹が同時に跳ねます。どれか一匹に集中してください」
〈すべての力の源のマナよ 運ぶ風よ 時を刻む砂よ 門を開け──〉詠唱の最中にも周囲の気配を感じ取る。
「ファイヤーアロー!」
中央のウサギに命中!他の二匹が逃げるがティナが一匹を捕らえた。
小鈴は満足げに頷いた。「魔力の流れが滑らかになりましたね」
彼女の指先から細い光の糸が伸び、地面に複雑な紋様を描き出す。
それが魔法陣だと気づいたときにはもう完成していた。
「これを覚えると便利なんですよ」と小鈴
地面から蔦が伸びてきて、残りの1匹を小鈴が魔法で捕まえた。
「森では、こうやってよく狩りをしていました。」
「すご……」
宿に戻る道すがら、ティナが小声で言った。
「小鈴ってすごいよね。あの詠唱なしの魔法……」
「そうだな、妖狐魔法ってすごいんだな」と俺も感心する。
就寝前、窓辺で月を見上げる小鈴に話しかけた。
「なぜ俺を助けてくれるの?」
彼女は月光に浮かぶ影をなぞりながら答えた。
「運命でしょうか。お姉さまにも言われました……『巡り合わせを大切に』と」
三つの尾が優雅に揺れた。「ユートさまとの出会いは必然だったと思います」
その言葉に胸が熱くなる。
「ありがとう」というと小鈴は嬉しそうに笑った。
「ところで……」小鈴が突然俺に抱きついた。
「な、なんだ?!」
「ふふふ。ユートさまと一緒だと安心します」
「小鈴、あとでその素敵なケモミミをもふもふさせてくれないかな。いや、むしろお願いします」と俺
小鈴さんが目を見開いてビックリしている。あれ? そこまでビックリするようなこと言った?
「……ユート様、大胆ですね。妖狐族の耳のやしっぽを触れるのは家族か番いなんですよ?成人したら家族にさえ触らせないんですよ?」
「なんだって!?」
「つまり獣人女性に耳を触らせてっていうのは結婚してほしいって言っているようなものなんですよ」
そんな、知らなかったとはいえ気軽には触れぬとはもふもふ王への道は厳しい!?
四つんばいになって絶望に打ちひしがれていたが気を取り直して立ち上がる。いかんな、情緒不安定にすぎる。
「ごめん、そんなに大事だとは。」
ティナが入ってきた。「なんだか楽しそうね」
「これからも一緒に頑張りましょうね!」小鈴が手を振る。
その夜、小鈴の存在感が妙に大きく感じられた。
(翌朝)
「今日は北の森に行きませんか?」小鈴が提案した。「珍しい植物があるので材料を集めてみたいです」
「いいね!」俺が応じる。
目的地へ向かう道中、小鈴は突然立ち止まった。
「この先に強い魔力を感知しました」
緊張が走る。三人で慎重に進むと……
岩陰から現れたのは黒い毛皮を持つ大型のキツネだった。黄金の瞳が我々を捉える。
妖狐族の守護者として有名な三
「こいつはヤバい」ティナが短剣を構える。
「魔法の詠唱が間に合わないかも……」俺が呟く。
しかし黒狐は一声鳴くと意外な行動に出た。頭を下げて挨拶すると我々の前に道を開けたのだ。
「通ってもいいということでしょうか」小鈴が驚きの声を上げる。
「もしかして」俺が閃いた。「この前会った紅葉さんの知り合いか?」
小鈴がそっと近づく。「こんにちは」彼女が声をかけると黒狐は静かに頷いた。
「どうやら案内してくれるようです」小鈴の指示に従って進むと美しい湖畔に出た。
「ここで何を……?」
「採集ポイントですよ」小鈴は嬉しそうに光る苔や透明な小花を摘み始めた。「これでハイポーション作れます」
「でも……」彼女が突然耳を動かした。「何かが近づいています」
ガサガサと茂みが揺れた。現れたのは小さな影——赤茶色の毛皮に覆われた野リスだ。ただし数匹いる。
【ステータス】
種族:野リス
HP:40/40
レベル:8
特徴:
・縄張り意識が高い
・群れを作る習性あり
「あれは……野リス!?」
「野リスだから油断できませんね」小鈴が鋭く警告した。
案の定、リスたちは鳴き声を上げて牙を剥き出しにした。一斉に襲いかかってくる!
「私が牽制します!」ティナが先陣を切る。彼女の俊敏な動きで2匹をかわす。
「ユートさま、ここは魔法で!」小鈴が後方支援に回る。
「わかった!」
俺は意識を集中した。〈すべての力の源のマナよ 運ぶ風よ 時を刻む砂よ 門を開け 炎を呼べ 螺旋となりて穿て!〉
渦巻く炎が野リスの群れを包み込む。炎の中から小鈴が飛び出して神楽のように舞い、回し蹴りを放った。
「きゅー!」3匹が吹き飛ばされる。
「後ろ!」ティナの警告に振り向くと新たなリスが背後から迫っていた。が、小鈴の尾が撃ち落とした。
「援護ありがとうございます!」彼女が微笑む。
「みんな……ありがとう」俺が感謝を述べると、この野リスなかなかしぶとい。と小鈴がつぶやいた
「油断しないでください」と彼女が注意を促す。
「了解!」と返事をして戦闘を再開する。
「あれ、なんか違う方向に向かっていくよ」ティナが叫ぶ。
リス達が突然別の方角を睨み始め、急いで逃げ去って行ったのだ。
「一体何が起きたんだ?」
その答えはすぐに分かった。藪の中から現れたのは……先ほどの黒狐だった。
「もしかして……助けに来てくれたのか?」と問いかけると、黒狐は鼻を鳴らして背を向けた。
「守ってくれたんですね」小鈴が感慨深げに呟く。
「結局誰の仕業だったんだろう」ティナが首を傾げる。
「お姉さまの知り合いかもしれませんね」と小鈴が答えた。
「いずれにせよ命拾いしたな」と俺が言うと、みんなで安堵のため息をついた。
「さて、素材集め再開しましょう」小鈴が笑顔で言った。
「では早速作製してみますね!」小鈴は意気揚々と採取した材料を並べた。
湖畔に咲く青い花、半透明の蔓、光る苔……
「これはハイポーションの材料ですか?」とティナが覗き込む。
「はい、お姉様から受け継いだ秘伝の調合法がありますから!」と小鈴は自信満々だ。
小鈴は魔法陣を描き始めた。妖狐族独特の円環模様が複雑に絡み合う。
「まずは青い花の蜜から……」
彼女が指先で花びらを撫でると、星屑のような微粒子が宙に舞った。
「次に蔓のエキスを……」
手をかざすと蔓から緑色の液体が滴り落ちてくる。
「最後に苔の光を……」
苔が淡く輝き、光の粒が魔法陣に吸い込まれていく。
「すごい……」俺は息を呑んだ。まるで幻想的な儀式を見ているようだ。
「これが妖狐族の薬学技術です、人間族が作るハイポーションとはまた違うんですよね」小鈴は誇らしげに笑う。
魔法陣が眩い光を放ち始めた。中央の瓶に様々な色の液体が混ざり合い……
「完成です!」
透き通った青いポーションが瓶の中に満ちた。
アイテムボックスにハイポーションを入れながら、「町にもどって、次の依頼をこなしながら魔法の訓練の続きをしましょう!」
「いいね!次はどんな魔物かな」ティナが期待に胸を膨らませる。
「強い魔物も面白そうですが、慎重に行きましょうね」小鈴が釘を刺す。
町へ戻る道中、小鈴がそっと手を差し出してきた。
「お姉さまには内緒ですよ?」
彼女の三つの尾が照れくさそうに揺れている。
「小鈴……」俺はその手をしっかりと握り返した。
ギルドにて次の依頼は何にしようかと見て回ったが相変わらず、常時依頼のゴブリン討伐、農作物の害獣駆除、薬草採取etc・・・
ティナが掲示板に貼られた一枚の依頼書を指さした。
「これ、どう思う?」
「森周辺の調査?」俺は依頼内容を読み上げる。「森の魔物の目撃情報が増えている、周辺での調査をお願いしたい、ただし森には入らないこと……」
報酬は銀貨5枚。Fランクの依頼としては悪くない金額だ。
森に入らなくていいのなら危険度も低いだろう。
「これにしましょう!」小鈴が決めた。「最近森の様子がおかしいと聞いていたので気になっていたんです」
受付で手続きを済ませると、地図と共に詳しい情報をもらった。
「ここ数週間、森から出てきた魔物が増えています。何か変化があったのかもしれませんが、原因は不明です」
ギルド職員は深刻な表情で説明した。
「くれぐれも森には入らないように」
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