小鈴師匠
その頃、ユート達は
ユートは宿に戻り魔法の制御について考える。
今は魔法の精度向上に注力すべきだと判断した。
しかし一つ懸念があった。
ギルドで聞いた話、詠唱を覚えれば魔法の制御がしやすいらしいこと、
詠唱を覚えるのは誰かに師事してもらうこと
と、金銭が必要なことだ。
「さて、どうしたものか」
悩んでいると扉をノックする音が聞こえた。
「ユート、今ちょっといい?」
「ティナ?どうぞ」
部屋に入ってきた彼女は神妙な面持ちだった。
「実は私も悩んでることがあって」
「何?」
「次どんな依頼を受けようか迷ってるの、常設の依頼だけじゃあまり稼げないし」
ちょうど良かった。この機会に相談してみよう。
「実は俺も考えてたことがあってさ……」
これまでの戦闘経験から感じた弱点や改善点を共有する。
ティナも真剣に耳を傾けてくれた。
「なるほど、確かに魔法は課題だね」
「うん。詠唱を覚えるのは必須だと思うんだけど」
「誰かに教わるのが理想だけど……」
しばし沈黙が流れる。お互いに解決策を探るが思いつかない。
「よし、決めた!」突然ティナが立ち上がる。
「ギルドで情報収集しよう!」
「え?」
「魔法使いの知り合いを探すんだよ」
「それは名案かも!」
そうと決まれば善は急げだ。夜が更ける前に行動を開始することにした。
ギルドへ向かう途中、今日の出来事を振り返る。
「コボルトの件、まだ心残りがあるんだ」
「わかるよ。あの可愛さは罪だよね」
「次は本当に怖い魔物を選びたい」
「賛成!」
ギルドに到着すると掲示板周りに人だかりができていた。
「何かあったのかな?」ティナが首を傾げる。
「聞いてみよう」
どこかで見た少女が掲示板の前で熱心に依頼書を読んでいた。
小さな妖狐の少女は、桜色の浴衣をひらりと揺らして駆け寄ってきた。三つの柔らかな尾が軽やかに踊る。
「あれ……」
ティナが呟いた。「なんかあの子どうしたんだろう」
そのとき少女が振り返った。目が合うと彼女はぱっと表情を明るくした。
「ユートさま、お久しぶりでございます!」
「えっ!?」
驚きすぎて言葉が出ない。まさか――
「小鈴!?」
記憶の中のそのものだった。村を出てから半年以上会っていなかったのに、すこし成長したように見えた。
「うん!魔法の修行が一段落したから会いに来ました!」
彼女は嬉しそうに駆け寄ってくる。三人目の仲間、妖狐の小鈴が再び冒険に加わった瞬間だった。
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【ステータス】
名前:小鈴
種族:妖狐
年齢:36歳(見た目6歳)
HP:75/75
MP:75/75
レベル:15
スキル:
・妖狐魔法
・基礎魔法
・アイテムボックス
・????
・????
特徴:三つの柔らかな尾
鑑定しきれない、どうやら鑑定スキルの熟練度が足りないのか、知識が足りないか微妙な所だ
「それで、ユートさまたちはどんな依頼を受けるつもりですか?」
「それがね……」
ティナが苦笑しながら説明を始めた。「次は魔法使いの知り合いを探そうとしてたとこ」
「そうなの?」
小鈴は目を輝かせた。「ちょうどよかった!私、基本の魔法の講義を終えたばかりだから教えられますよ!」
「えっ!?」
二人同時の反応に彼女は得意げに胸を張る。「森で精霊の加護も授かったから」
「ほんとに?」
魔法の師匠探しという目標があっさりと叶ってしまった。だが――
「基本は詠唱で魔力の流れを整えることなんですけれど・・・」
小鈴が空中に指で魔法陣を描く。青白い光が弧を描いた。
「私は魔法陣で魔法を使う場合が多いですが詠唱だとこうなりますね。」
「〈すべての力の源のマナよ、運ぶ風よ 時を刻む砂よ 門を開け〉――」
詠唱を紡ぎながら掌に乗せた小さな灯火を膨らませていく。炎は蝶のように羽ばたいて空中で舞った。
「わあ!」ティナが感嘆の声を上げる。
「詠唱の言葉そのものが魔力の回路に声が届く範囲が魔法の範囲となります」
小鈴は炎を花弁のように変形させながら続けた。「だからまず言葉の意味を肌で覚えることが大事になります」
彼女は二歩下がり、声のトーンを変えた。
「試しにお手本を見せますね」
詠唱が始まった瞬間、空気が変わった。草葉が一斉に震え、風が渦を巻く。小鈴の周囲に淡い紫色の魔力光が渦巻いた。
「〈すべての力の源のマナよ大地の胎動、天の鼓動を封じ込めし者よ 炎を呼べ 螺旋となりて穿て!〉」
地面から巨大な螺旋状の炎柱が噴き上がった。轟音とともに土埃が舞い上がり、熱波が肌を焼く。
「凄い……」
圧倒される二人。炎はやがて虹色の光粒となって空へ溶けていった。
「詠唱破棄を魔力でごり押しする方法もありますが、コントロールが難しくなり、また魔法の届く範囲も短くなります」
小鈴は汗ひとつかかずに解説する。
「魔法は視認できる範囲、声が届く範囲が基本で、壁などがあると難易度が格段にあがります、なので基本壁とかあったら壁を壊してからになります。」
と小鈴
「だから詠唱は重要」
ティナが呟く。「なるほど」
「ではユートさまもひとつ」
「ええ!?俺!?」
「もちろん!」
「わかった……」
詠唱を考えながら深呼吸。
「〈炎の精霊よ わが手に応えよ〉」
不発。火の粉しか出ない。
「基礎詠唱を省いたらダメですよ」
小鈴が優しくアドバイスする。
「〈すべての力の源のマナよ 運ぶ風よ 時を刻む砂よ 門を開け……〉」
ようやく小さな火球が生まれた。しかし制御しきれず地面で跳ねた。
「大丈夫!初めは皆そんなものです」
小鈴は笑顔で励ます。炎を小さな丸い玉にして彼に投げ返してきた。
「キャッチしてみてください!」
慌てて両手を出すと温かな炎が掌で弾む。不思議と熱くない。
ギルド併設の食堂で祝杯を挙げる三人。
「今日はありがとう小鈴」
「とんでもないです」
「君がいると安心だよ」ティナが言う。「明日からの依頼も捗りそう」
「もちろん!任せてください!」
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