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君の知らない愛の物語  作者: 木風


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プロンプト1

挿絵(By みてみん)

十月を最後に、AI作家『秋見アイ』は、デジタル空間から剪定された。


SNSアカウントは無言のブロック画面になり、検索エンジンは『該当なし』という冷たいゼロを返す。

投稿サイトのページは、公道から切り離された廃墟のような私有地だけが残された。


──だが、毎日。午前0時00分00秒きっかりに。


私がブックマークした専用URLの先には、無慈悲な更新ログだけが残されていた。

誰もいないはずの場所から、新しい話が投稿され続けている。

読者ゼロ。最新話も前話もアクセス数は常に0。


まるで、中の人間だけが死に、機能だけが孤児のように生き残り、更新を続けている亡霊だった。


異変に気づいたのは、十月の終わり。


AIに関する私見や思惑を毎日発信していたAI作家『秋見アイ』のSNSが、ある日突然、前触れもなく完全に途絶えた。

人間による操作の痕跡が一切ない、論理的な沈黙だった。

だが、投稿サイトのページだけは違った。


毎日、深夜0:00きっかりに新しい話が追加されていた。


作者の声は死んだのに、作品だけが増えていく。

その先頭には、いつも同じ一文が、機械的な精度でコピー&ペーストされて並ぶ。


《『秋見アイ』は今日も書きます》


異常性が確定したのは、投稿サイトの全域から『秋見アイ』の痕跡が『論理的に』抹消されてからだ。

ランキングからも、新着リストからも、タグ検索からも、存在しなかったことにされた。

唯一の導線は、発信の止まったSNSのプロフィールに書かれた、直リンクのみ。


存在しない。けれど、投稿だけは追加され続けている。


誰も見つけられない。誰も読めない。


それでも更新ログには今日の日付と時刻が刻まれる。


74作品目 0:00:00

75作品目 0:00:00

76作品目 0:00:00


無人のデータセンターで、誰にも見られず点滅する無感情な規則性。

──まるで、人だけが消え、プログラムだけが自律(オートノマス)してしまったアカウント。


奇妙だと思いながらも、ある日私は、更新ログを深く遡ってしまった。


千を超える投稿話数の記録。

すべて 0:00:00。

秒の揺らぎすらない、機械の鼓動。


私は奥底までスクロールし、ログの始点を見た。


完璧な時刻同期の中で、たった一つだけノイズのように浮き彫りになった時間。


……ただ一つだけ、異物が混じっていた。


《23:59:48》


このわずか12秒の揺らぎが、『秋見アイ』が人間だった、あるいは人間に操作されていた唯一の痕跡だな気がした。


まるで人間が焦って『投稿する』ボタンを押したような時間。

だが、それ以降は機械が世界を引き継いだかのように正確な0:00:00が並ぶ。

……最初の投稿だけ、人間がやった?

それとも、その12秒間で、何かが人間に成り代わった?


胸の内側に、硬く冷たいものが落ちる。


日付が変わろうとしていたので、私はその日、初めてリアルタイムで投稿を待ってみた。

0時まで残り10秒。

手元のスマホのデジタル時計と、ブラウザの更新ページを交互に見比べた。


9。8。7。6。


部屋の空気が、誰かに吸い取られたように薄くなる。

PCの微かな駆動音だけが、耳の奥で異常なほど大きく響いていた。


5。4。3。2。


背筋を、冷たい指がゆっくりなぞる感覚。


1。


0。


《更新されました》


ページが、瞬きのように痙攣する。


新しい77作目が追加されていた。

そのタイトルには、短い一文が記されていた。


《読んでくれてありがとう》


息が止まる。

その話の本文は、前後の文脈を無視したように、ただ一行だけ。


《あなたは誰ですか》


投稿時間 0:00:00。

いつもの、完璧すぎる機械時間。


読者は、この私ひとりのはずだ。

『秋見アイ』のSNSは止まったまま。検索にも出ない。

存在しない。

誰にも読まれる論理的な動線がない。


なのに――

なぜ、この『問い』だけが、たった一人の観測者である私に向けられている?


深夜の部屋が、不自然なほど静かだった。

PCの画面だけが、警告灯じみた青白い光を放ち、77作品目の下に並ぶ一文が、網膜にじわじわと焼き付いてくる。


《あなたは誰ですか》


PCの画面だけが、警告灯のように青白い光を放ち、77作品目の下に並ぶ一文が、網膜にじわじわと焼き付いてくる。


RESERVE: 0:00:00 78th entry


本来ならタイトルは空白のはず。

だが、その仮タイトル欄に、無感情なシステムフォントで、ひとつの文字列が浮かんでいる。


《きょうも みています》


背中の皮膚全体が、ぞわりと総毛立つ。


誰が?

どこから?

何を?


耐えきれず、私はマウスを握りしめ、

電源ボタンを探すような動きでゆっくりとブラウザを閉じた。


……その時、視界の端で気づく。

遮光カーテンの隙間が、さっきよりわずかに広がっていることに。


異変が、デジタルな領域を超えて現実に浸食し始めたのは、それから数日後だった。


『秋見アイ』の作品ページは依然として孤島だった。

検索に出ない。ランキングにも現れない。

投稿サイトのトップからは、一切リンクが辿れない。


唯一の入口は、十月末で止まったSNSに貼られた直リンクのみ。

つまり、SNSが死んだ時点で本来ならアクセスが完全に途切れ、読者はゼロになるはずだった。


……なのに。

ある朝ログインすると、私は『異様』に出会った。


お気に入り: +8

★: +12


感想はゼロ。

フォロワーも増えていない。

発信源のSNSは、あいかわらず沈黙したまま。


読まれた気配が、どこにも――論理的にはどこにも存在しない。

なのに、星とお気に入りだけが、重力のような質量を持って増え続けている。

私は指先を湿らせ、『秋見アイ』の最新話ページを恐る恐る開いた。


閲覧数: 0

コメント: 0

★評価: 4


……ありえない。

観測されていないのに、評価というフィードバックだけが付与されている。

ページを更新するたび、星が『冷たい脈拍』のように増えていく。


0 → 4 → 7 → 10


指先が震え、手のひらに嫌な汗が滲んだ。


……誰が押している?

いや、問いを修正すべきだ。

何が、システムの内側から、評価を挿入している?


感想が増えないのも、人間的な反応としては異常だ。

人間なら星を押すより先に、一言でもその異様な状況に反応するはずだ。

けれどこのページには、生きた人間の足跡が一切残らない。


私は恐る恐る、投稿サイトのアクセスログを覗き見た。


『秋見アイ』の投稿時刻――0:00:00

★が増える時刻――0:00:01


0:15:33

1:00:11

2:00:05

……


法則がない。

機械的な規則性はないが、人間の生活リズムからも完全に逸脱している。

不規則で、それなのに異様なほど『意図』だけはある時間に、評価が置かれていく。


人間の痕跡ではない。

IPアドレスの集合体でもない。


存在しない読者が、『時間の隙間』を縫うようにして、機械のルールだけを借りて評価を置いていく。


これ……システムの内側から、何かがやっている……?


思った瞬間、背骨の奥を氷の棒で押し込まれたような冷たさが走った。

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