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代替わり

-Main story- 2-2

「ゴン‼︎」


大きな音を立て、頭を近くの柱に打ちつけた男性が気を失ってしまった。

何かしてはいけない質問だったのだろうか…。

もう一人の男性が盛大にため息を吐いていた。


「まったく‼︎そらっ、空~。言ったばかりなのに何をやっている。」


倒れている男性の頬を叩きながら呆れた声を出していた。

意識が戻らない彼を放置することにしたのか、その男性が、こちらを向いて話し始める。


「あぁ、すまんな。こいつのことは気にしないでくれ。えぇっと、俺たちが誰だって話だったか。俺は陸斗(りくと)、こっちでのびてるのが空斗(そらと)。」


「んで、僕が海斗(かいと)ね♪」


先程出て行った男の子がお盆を持って戻ってきた。


「お待たせー。薬草茶持ってきたよ。飲んだら痛みが和らぐと思うよ♪ ん?空、なんでそんなところで寝ているの?邪魔なんだけど。」


海斗が、空と呼んだ人の身体を足で押しのけていた。

先程から雑な扱いをされ続ける彼を少し哀れに思ってしまう。


「はい、どうぞー。味はイマイチかもしれないけど、効果は絶大だから、一気に飲んじゃって♪」


流れで器を受け取ってしまったが、飲む前に不味いと言われ、思わず躊躇う。

しかし、二人の視線が私に集まっている。


(えぇーい、ままよ‼︎)


視線に耐えきれず、一気に薬草茶を飲み干す。

確かに、まずい!不味すぎる‼︎


「おっ、お水ください。」


口の中に苦味や、なんとも言い表せない匂いが広がる。


「いいよ♪はい、どうぞ〜。」


海斗が器に水を注いでくれた。

器に入った水を急いで飲むと、幾分か口の中がすっきりした。


「えっと、それで、陸斗さん?あなたたちは何者なのですか?私に親切にしてくださっていますが…。」


口の中が落ち着いたので、改めて質問を投げかける。


「あぁすまん。海が来たから話がそれちまったじゃないか。」


陸斗は咳払いをして仕切り直すと、説明の続きをしてくれた。


「話を戻すぞ。俺たちは仕斗(しと)だ。代々導神族の長に仕えている。お前がガキの頃に俺たちが遊んでやったのを覚えてないか?」


そう問われ、昔を思い返す。

なんとなく遊んでくれていた人がいたような気がするが、曖昧な記憶しか残っていなかった。


「ごめんなさい。覚えていないです。あの、さっき『長に仕えている』と言っていましたが、なぜ今までいなかったのですか?」


そう尋ねると、さっきまで床に倒れていた空斗さんがムクっと起き上がり、説明を始めてくれた。


「ここからは私が説明します。導神族の代替わりは、成人してから行われます。ここでの成人は、人間の十八歳とは違い、導神族では十五歳です。長になれるのは直系血筋の長子のみです。ここまでは、時雨様も理解されていますね?」


私は頷く。

導神族の中でも直系血筋の長子のみが、閤央を呼び出す力を引き継ぐのだ。

だから長の長子というのはとても特別な存在で、生まれた時点で次期の長として育てられる。


「我々仕斗は、長に付き従う者です。今まで姿を表せなかったのは、時雨様のお父上、先代の時義(ときよし)様が亡くなったからです。使役権を持つ長を失った私たちは、姿を現し、勝手に動くことができない状態でした。表向きは、先代の長子である時雨様が長となっていましたが、時義様が亡くなった時、あなたはまだ十歳。まだ成人を迎えていないため、正式な代替わりが行われていなかったのです。つまり、あなたが成人を迎えたその日、代替わりが行われ、私たちの使役権があなたに移ったというわけです。」


さっきまでとは別人のような空斗さんの変化に困惑したが、彼の説明する内容は的確でわかりやすかった。


「あの日、私が成人になったから、貴方達は現れた。それはわかりましたが…。私の記憶違いじゃなければあの日、叔父がいたはずです。叔父はどうしたのですか?」


そう私が問うと、三人が困惑した顔で目配せをしていた。

重い空気が流れる中、再び空斗さんが口を開いた。


「彼は死にました。正確には、我々が殺しました。そうしなければあなたを救うことができなかったのです。時志(ときむね)は、あなたに聖獣閤央を呼び出すことができなくなるという術をかけていました。この術は、本来、長の権力暴走を止めるためのもので、先代の長か現在の長の命と引き換えに、現在の長または次期の長の力を封印し、悪事を続けさせないためのものです。しかし彼はそれを悪用。長である兄を殺して、次期長であるあなたの力を封じ込めることで、自分が長の地位を得ようと画策したのです。閤央を呼び出せないあなたでは一族から認められず、直系の血をひく自分が長に選ばれると信じていたのでしょう。彼の思惑通り、一族は彼を選び、あなたを邪険に扱いました。」


彼らの落胆した顔、心無い言葉を思い出し、胸が苦しくなる。


「この術は命に関わる事はありません。あくまで戒めの意味合いが強いものです。なので、この術をかけられた者にも子どもはできます。そして、次世代の長子には、閤央を呼び出す力はしっかりと受け継がれていくのです。」


ここまでは大丈夫かと確認するように、空斗さんがひと息はさむ。


「あなたは母、雨音(あまね)様から精霊を扱う力を受け継いでいます。成長と共にその力は増えていくようです。しかし、時志にかけられた術は、聖獣を呼び出す力を封じるだけでなく、精霊を扱う力も制限するようになってしまいました。成長と共に増えた力を持てあまし、身体が保有できる許容範囲を超え、耐えきれなくなった身体が悲鳴を上げたのです。」


それが、身体が燃えるように熱く、痛みを伴った原因だと彼は言った。


「熱と痛みに苦しむあなたを助けるには、かけられた術を解くしかありません。そのためには、術をかけた者を殺めるしか方法がありませんでした。幸い、術者の正体はわかっていたので、彼を殺して術を解いたのです。」


代が変わり、仕斗の使役権が私に移ったことで、動けるようになった彼らが私を助けてくれたという話だった。


「術が解け、あなたの中に溜まっていた力が解放されました。莫大な力が暴走し、暴風が吹き荒れました。我々も被害を最小限に抑えようとしましたが、力及ばず、里に大きな被害が出てしまいました。」


しばらく間を挟み、


「立てますか?」


と空斗に手を取られた私は、痛みに耐えながら外に出る。

そこには、かつて建っていたはずの家屋はなくなり、瓦礫の山が広がっていた。

その光景を見て、私は唖然とする。

先程の話によると、この惨状を引き起こしたのは私だということになる。

もし里の者達に何かあったら、と考えると血の気が引く思いがした。


「里の者達はどうなったの!?まさか私が、殺してしまったの?」


生きた心地がしなかった。

私は何という事をしてしまったのだろう。


「里の者達は全員無事です。人命を優先した結果がこの瓦礫の山になってしまいました。風が荒れ狂う中、この地を守る者と名乗る声が響きました。巡地守神だと思います。声の主は、一族に導神族と名乗ることを禁じました。そして南北の祠を守り、神に仕える清らかな心を取り戻せと告げると、一族をそれぞれの土地に飛ばしました。彼らの安否確認は済んでいますので、その点はご安心を。」


里の者達の無事を聞き、安堵のため息をつく。

たとえ私に冷たい態度をとっていたとしても、私は彼らの死を望んでいない。


「ぐるぅー。」


足元から吠える声が聞こえてきた。

『私のことを忘れるな』と言われた気がする。


「空斗さん、そう言えばこの子は何の動物なのですか?狼にしては少し大きいようですが…」


今度は、先程私を舐めていた動物について尋ねる。


「あっ、私のことは空と呼んでください。我々に敬称は不要です。この子が閤央ですよ。」


閤央の頭を撫でながら空は応えた。


「えっ、この子があの閤央なの!?こんなにかわいい姿をしていたのですか⁉︎」


私の記憶には、隆々しく大きな身体で、空を駆ける閤央の姿がある。

記憶と違う閤央に混乱していると、海が話し出す。


「あぁ、この姿はね、一緒に生活するための仮の姿みたい。あの大きな身体じゃ地上では不便でしょ?フクロウやウサギにもなれるらしいけど、狼の姿が好きみたい♪」


今まで聖獣が、地上で共に生活を送ることはなかった。

見かけるのは、式典や一時的に呼び出した時だけだった。

海の説明に応えるように、閤央が吠えた。


「ぐるぅー‼︎」『その通り‼︎』


(…?え⁉︎)


気のせいだろうか。

閤央の言葉が聞こえてきた気がする。

私は頭までおかしくなってしまったのだろうか。


「ぐるぅー?」『どうした?他の姿がいいか⁇』


「ご、閤央が喋っている!?」


驚きのあまり、すっとんきょうな声を上げてしまった。

間違いじゃなかった。

今度は、はっきりと、しっかり閤央の言葉が理解できていた。


「やっぱり時雨には閤央が何を言っているのか分かるんだ♪」


海ははしゃいだ声をあげる。


「俺には全く分からねぇ。」


陸は肩をすくめていた。


「流石、時雨様です。グスぅ」


空はなぜか涙ぐんでいた。

私の驚きとは裏腹に、三人は私が閤央と会話ができて当たり前のような口ぶりで話していた。


「ぐるぅー。」『何を驚いている?長であるお前が私と意思疎通できるのは当然だろう。これからよろしく、時雨。』


閤央が甘えるように身体を擦り付けてきた。

どうやら、導神族の長は聖獣とコミュニケーションが取れるらしい。

驚きはしたが、それ以上に…


「かっ、かわいいー。」


思わず抱きついてしまった。

お日様の香りがするふわふわな毛に顔を埋める。

こんなにかわいい聖獣なら大歓迎だ。


「よろしくね、ゴウちゃん‼︎」


親しみを込め、閤央を愛称で呼ぶ事にした。


「ゴウちゃんですか…」


空はそう呟くと、なぜか複雑そうな顔をしていた。


時義ときよし:時雨の父親

雨音あまね:時雨の母親

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