縮まる二人の距離 後編
-Main story- 5−7
食事と着替えを済ませてから、私は想輝様へ謝罪をするために執務室を訪ねていた。
だが、ノックをしても返事はなかった。
(いないならしかたない。また改めよう。)
仕方なく、先に帰り支度をすることにした。
精霊の力を使い、灰を集め、壺の中へと片付ける。
仕斗は昨日まとめた荷物をせっせと荷車へ積み込んでいた。
四人での片付けなので、帰りの支度はあっという間に終わってしまった。
(想輝様は、もう部屋にいるだろうか?)
改めて執務室を訪ね扉をノックすると、今度は中から返事が聞こえてきた。
どうやら想輝様はいるようだ。
「時雨です。少しお時間よろしいでしょうか。」
少し間があったが、〝どうぞっ。”と声が聞こえてきた。
「体調はどうだ?」
部屋に入るや否や、想輝様が私の体調を気にかけてくれた。
「はい。大丈夫です。あの、その事でお話が。」
その言葉を聞いた想輝様がハッと身構えた様にみえた。
「昨夜は色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした。男湯と女湯を間違えたり、倒れた私を運んでくださったみたいで、ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。」
私は頭を深々に下げて謝罪をする。
「あっあと、朝食も消化に良いものばかり並んでおりました。細やかな気遣いをしてくださりありがとうございます。」
恥ずかしさもあり、捲し立てる様に話してしまった。
「あぁ、気にしなくていい。体調が戻っているならよかったよ。」
(どうしょう、次はどんな言葉で繋げればいいいのか。)
恥ずかしさで頭の中は真っ白になっていた。
どう話を続けようと悩んでいると、なんだかホッとした様子の想輝様が話を繋いでくれた。
「儀式の時は、神と見間違うほど立派に仕事をこなしていて、しばらく会わないうちに、いつの間にか成長し大人になったんだなっと思っていた。だが人の本質とは変わらないものだな。おっちょこちょいな所は子供の頃と変わっていなかった。」
想輝様が微笑んでいた。
その顔をみた瞬間、ふっと子どもの頃、想輝様と過ごしていた記憶が蘇ってきた。
(そういえば、小さい頃もこうやって私に笑ってくれていた。)
両親から教わった術や精霊の力などを新しく覚えたときは、想輝様に褒めて欲しくてよく見せていた。
その時も今みたいに微笑んでよく頑張ったなっと褒めてくれていた事があった。
想輝様に褒められるのが嬉しくて、つい調子にのっては物を壊して、父様に怒られていた。
そんな時、いつも想輝様が私を庇ってくれていた。
昔の懐かしく大切な記憶に胸が温かくなる。
「お恥ずかしい所ばかりをお見せしてすみません。」
今度は照れ隠しの謝罪だった。
「あっ、あの、想輝さまが私を部屋まで運んでくださった時、とても心地よく安心感を感じていました。さすが想輝様だなって思いました。昔から変わらない、強くて優しい想輝様のままですね。」
伝えるかどうか迷っていたが、想輝様の笑みに流されて正直に昨日感じた事をつげる。
想輝様は一瞬驚いたような顔をしたが、また微笑みをうかべてくれた。
「そうか。時雨の中では俺はそんな風にみえているんだな。でも優しいだなんていうのはお前くらいだ。家臣達は俺の事を恐れているからな。」
想輝様には珍しく、自虐的な発言だ。
想輝様は駄目な事は駄目だと、はっきりと告げるからみんな怖く感じてしまうかもしれない。
けれど、良い所はしっかりと褒め、認めてくれる想輝様のことをみんな尊敬している。
「それをいうなら想輝様だってそうですよ。私のことをおっちょこちょいというのは想輝様だけです。」
クスクスと互いに笑い合う。
幼い頃、一緒に、過ごしていた時間が戻ってきたようだった。
この時間を終わらせたくはなかったが、仕斗も待っているし、何よりも忙しい想輝様の時間を割いてしまってはいけない。
改まって想起様に礼をする。
「想輝様、改めまして成人おめでとうございます。これからも私の力の及ぶ限り、導神族としてお支えして行こうと思っています。これからもよろしくお願いしますね。」
ニコリと笑えば、想輝様は驚いた顔をしていたが、
「こちらこそ、よろしく頼む。」
っと立ち上がり私に手を差しだしてきた。
私はその手をとり、握手をかわす。
二度と交わることはないだろうっと思っていた二人の道が再び交わる。
そして、遠く離れていた心の距離もグッと縮まった様に感じていた。
その後、想輝様に別れの挨拶を済ませ、仕斗と合流し帰路に着く。
この数日で想輝様に対する印象が大きく変わった。
そして、それは私の中に奮起する気持ちを植えつけたのだった。




