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目覚めた恋心

-Souki side-

式典が終わった後、汗を流しに風呂に入りにきた。

式典用の服は重ねてきるので暑くて敵わない。

身体を洗いさっぱりした所で湯船に身体を沈める。


(流石に疲れたな。)


人前に立つのはやはり緊張するものだ。

今回は主役が自分だったのだから尚更だ。

いつも以上に気をはっていたため、疲れもそれなりにあった。


湯の心地良さに緊張がとけ、気もほぐれてきた。

ふっと、式典終盤の時雨を思いだす。

成人の証に授けられた宝珠。

〝おめでとうございます。”と笑顔で渡してきた時雨が、まるで女神の様にみえたのだ。


(らしくないなぁ。今まで散々陰気臭い奴だって思っていたのに。)


時雨も昔から暗かった訳ではない。

幼いころから、時雨は次期長になるために父親の後について学び、宮中によく顔を出していた。

なので、帝王学を徹底的に叩き込まれていた俺とも、顔を合わせることが多々あった。


互いに時間が空いている時はよく一緒に過ごしていた。

あの頃の俺にとって、時雨と過ごす時間は皇子の想輝ではなく、ただの想輝としていられる大切な時間だった。

楽しいこと、大変なこと、悲しいことを互いに語りあううちに、彼女をいつからか自分の姿と重ねていた。

時雨が覚えたばかりの術や精霊の力などを俺に見せて、無邪気にはしゃぎ、楽しそうに笑う姿に癒されていたこともあった。

きっと幼いながらに時雨の事を好きだと感じていたのだと思う。


しかし、それは時雨の両親が亡くなったころから変わってしまった。


父親の跡を継いで長の立場となった彼女はまだ10歳。

そんな子どもが長という重圧には耐えきれるものではない。

時雨は、両親が亡くなってからもしばらくは宮中に顔を出していた。

だが、日に日に時雨の顔からは覇気がなくなり、笑顔が無くなってしまった。

最初のうちは、どうにかしてやれないかと考えていた。

しかし、様子を伺っているうちに、時雨の姿を見かける事はなくなり、彼女の姿を見るのは式典の時だけになっていった。


式典の度に見かける時雨には覇気はなく、いつも暗く俯いていた。

そんな時雨の姿をみる度に、俺は彼女に失望を感じた。

俺は時雨の事を勝手に同志だと思い、この先も彼女は俺と同じように志し高く人々を導いていくのだろうと考えていた。

だから、暗く俯く彼女をみる度に裏切られたと感じ、その姿を見かけることすら嫌になっていた。


しかし、今回の式典で見た彼女は、幼い頃に好意を寄せていた明るい時雨だった。

時雨が成人を迎え、聖獣や仕斗が付き従う様になってから彼女は変わっていったようだ。

そして、そんな変化のあった時雨を今日は女神のようだと感じた。


(不思議なものだな。人は別れや出会いでこうも変わっていくものか。)


浴槽にもたれかかり、天井を見上げ時雨の笑顔を思い出す。

しかし、彼女の笑顔の先にいるのは俺じゃない。

時雨を変えたのは俺ではないのだ。


(・・・。)


風呂に入り、気が緩んだのか、柄にもなく、昔の事を思い出してしまっていた。


(そろそろでよう。まだやることは残っている。)


腰にタオルをまき、脱衣所へと向かう。

すると、扉が開き誰かが入ってくる気配がした。


「あっ、えっ?……⁉︎」


驚いたような声が聞こえ視線を向けると、そこに立っていたのは時雨だった。


「はっ⁇」


俺もさっきまで考えていた彼女が現れ動揺し、間抜けた声を上げてしまった。


「…はっ‼︎ごめんなさい‼︎間違えました‼︎」


我に返った時雨は状況を理解したのか慌てて扉をしめた。

自分は今裸だ。

最低限、隠すところはタオルを巻いていて隠せている。


(そして、ここは男湯で間違いないはずだな。)


一応周りを見渡し、いつもの様子と変わりないのを確認する。

ここは男湯で時雨が入ってくるとは微塵も思っていなかった。

不意をつかれて、変な声を出してしまった自分が情け無い。


(まぁ、裸を見られた所で対したことはない。)


落ち着きを取り戻し、濡れている身体を拭き自室へ向かう支度を整える。

廊下にでてチラリと女湯の扉へと目線を向ける。


(時雨は今風呂に入っているのだろうか。)


ふっと女神にみえた時雨を思い出し心臓が跳ねる。


(俺は何を考えている!?)


頭を振り、邪な考えを振り解く。

やはり俺はどうかしてしまったらしい。


俺は踵を返し自室に戻る前に少し冷静になろうと執務室へ向かうことにした。

仕事をしていればいつもの自分に戻れるはずた。

冷静さを取り戻す為、簡単な仕事を片付けてから、自室に戻ろうとする。

が、浴場前の廊下で、空と呼ばれていた仕斗がウロウロとしているのがみえた。


「どうかしましたか?」


気になったので声をかけると、俺を認識した彼は〝助かりました。”っと事情を説明してくれた。


「実は時雨様がお風呂へ行くといったきり、まだ戻っていないのです。」


(は?)


俺は驚き、懐中時計を取り出す。

あれから一時間は経っている。

戻ってないなんておかしい。

ただの長風呂ならよいが、何かあったのなら大変だ。

近くを通りかかった侍女に声をかけ、中の様子をみにいかせる。

すると、中から慌てた声が聞こえてきた。


「時雨様!大丈夫ですか⁉︎」


侍女の叫ぶ様な声に何かあったのだと思い、急いで中へ駆け込む。

侍女の影から、倒れている時雨の足がみえた。

急いで抱き起こそうと近くによりハッとする。

時雨は裸だったのだ。

俺は慌てて背を向ける。

心臓の音がうるさいほど鳴っていた。


(落ち着け俺。自分は何も見ていない。時雨のはうつ伏せで倒れていた。背中しか見ていない。とにかく落ちけ。)


必死に自分に言い聞かせて、冷静さを取り戻そうとする。


とりあえず時雨を部屋に運ばなければならない。

俺は背を向けたまま侍女に声をかける。


「君、彼女に何か着せてあげてくれないか?それでは部屋まで運んでやれない。」


俺の言葉を聞いた侍女はハッとし、時雨が裸であると気がついた様だ。


「只今ガウンを持ってまいります‼︎」


侍女はバタバタと脱衣所の方へとガウンを取りに走った。


侍女にガウンを着せてもらった時雨を部屋まで運ぶ。

時雨の顔は赤くグッタリとしていた。


(のぼせたのか。)


自分よりも軽くて小さい時雨を横抱きにし、そっと運んでいると、時雨が気持ちよさそうに俺の胸元に頬を擦り付けてきた。

再び俺の心臓が飛び跳ねる。

ドドドドっと脈打つ音が、誰かに聞こえるのではないかと心配してしまう程だった。

動揺を悟られないように、必死に冷静を装う。

時雨を部屋まで運び、一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちで侍女達にその後の対応を頼むと、自室へと急いで戻る。

自室の扉を閉めてから、崩れ込むように、その場で頭を抱えて座り込む。


(思春期の男じゃないんだぞ!しっかりしろ俺‼︎)


俺は、頭を掻きむしり自分に喝を入れる。

そのあとの俺は、ただ扉にもたれかかったまま呆然とすることしかできなかった。

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