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真実

-Main story- 1-3

自慢じゃないが、私は簡単に体調を崩すようなやわな娘ではない。

なのに、ここ一ヶ月ほど体の調子が変だ。

疲れは取れず、身体は重く、起きて動くのがやっとの状況だ。

それに加えて、毎夜続く憎悪の感情をぶつけられる夢。

流石に気が滅入ってきた。


(なんとか、宝珠の準備はできた。)


宝珠への祈りは一日でも怠ると、再び最初からやり直しになる。

この一か月、体調不良が続く中、気力を振り絞りながら祈りを捧げ続けていた。

その結果、私の身体は限界を迎えようとしていた。


今日は一日、寝て過ごそう。

悪夢を見るのではと躊躇しながらも、身体が言うことを聞かないので、布団に横たわりウトウトしていると、外から声が聞こえてきた。


「おーい、時雨ー。いるかーい。」


私を訪ねてくる人は滅多にいない。


(この声は叔父さん?)


叔父はたまに様子を見に来てくれる。

私がここに追いやられたことを申し訳なく思っていると言ってくれる優しい叔父だ。

叔父を出迎える為、ノロノロと布団から出て玄関へ向かう。


「叔父さま、こんにちは。今日はどうなさったのですか?」


叔父はにっこりと優しい笑みを浮かべ、玄関に入ってきた。


「時雨、久しぶりだな。今日はお前の誕生日だろ。イキのいい魚が手に入ったから、プレゼント代わりにお裾分けに来たのだ。」


叔父は魚を持った方の手をあげ、魚をユラユラ揺らしていた。


「ん?なんだ、顔色が悪いな。調子でも悪いのか?」


叔父は、私の様子を気にしてくれていた。


「えぇ、成人の儀の準備で疲れてしまったのか、体調がすぐれなくて。」


叔父の好意とはいえ、魚を食べる気にはなれなかったし、正直今は相手をするのも億劫だというのが本音だった。


「成人の儀?あぁ、皇子は今年で十八歳になるのだったな。とりあえず手を貸すから、部屋に戻って横になりなさい。」


叔父に支えられながら、私は布団へと戻る。


「せっかく来ていただいたのに、おもてなしもできず申し訳ありません。お魚もいただいたのに、食べられそうにありません。」


好意を無下にしてしまうと思い、恐る恐る叔父の様子を窺う。

しかし、叔父は問題なさそうで、機嫌が良いという笑顔を浮かべていた。


「気にする必要はないよ。体調が悪いのは知っているさ。魚は冥土の土産にしてもらおうと持ってきただけだから。」


ニヤリと口角をあげ、叔父が笑っていた。


(今、なんて言った?冥土の土産って何?)


何を叔父は言い出したのだろう。

思考もまともに働かなくなっていた。

ほうけた顔をした私を見て、叔父はいたずらが成功した子供のように満足げな表情を浮かべていた。


「可哀想に。ここまで苦しむなんてなぁ。」


私の頬を指で撫でると、想像以上だったと1人で納得している。


「恨むなら両親を、自分を恨めよ。」


声色を低くし、クツクツと喉を鳴らしていた。


「何がなんだか分からないって顔をしているなぁ。お前の体調不良は、お前自身が引き起こしているのだよ。」


叔父はふざけた様子もなく淡々と話を続けていく。


「本当に周りは馬鹿ばかりで困るよ。本家本元の娘を、こんな村外れに捨て置くなんて。導神族だって自覚はあるのかねぇ。」


やれやれと呆れたように、鼻で軽く笑った。


「身がボロボロになるほどの力を宿した者に能無しだと言って村八分にするとは。脈絡と受け継がれてきた血筋の力を疑うとはなんと愚かだ。」


手のひらを広げ、肩をすくめると、微かに恍惚な表情を浮べ天を仰いだ。


「まぁ、そうなるように仕向けたのは俺なのだが。」


ガハハっと声をあげて笑っている。

突然の叔父の変貌に驚き、頭が混乱する。


「なぁ、時雨。お前、兄貴たちが死んだのは事故だとまだ思っているのか?」


不意に両親の話を持ち出され、叔父の意図が理解できなかった。

あの日、事故で亡くなったと私に告げたのは叔父だったはずだ。

状況がさっぱり飲み込めない。

この人は何を言っているのだろう。

いつもの優しい叔父ではない。


「あなたは誰なの?私が知っている叔父さんじゃないわ。」


いつもの叔父の様子と違うことに恐怖を覚え、距離を取るために起き上がろうとするが、身体は鉛のように重く身動きする事ができなかった。


「お前が言っていた私はこれか? 『一人で抱え込むのは無理だ。私が力になろう。手を貸すよ、時雨』ってか。ははっ。むしろこっちが偽物だな。」


叔父は自分が演じていた様子を思い出して笑っていた。


「兄貴の子供を気にかけるわけがないだろう。私はあの日、兄貴の命を奪ったのさ。お前の力を封印するために、私が殺したのだよ。」


昔を思い出して、高揚した表情を浮べていた。


雨音(あまね)殿には申し訳なかった。道連れにする気はなかったのだが。私を選んでいたら、こんなに早く命を落とさずにすんでいただろう。彼女は選択を間違えた。」


口調とは裏腹に、母の話をする叔父はどこが憂いを帯びていた。


「なんでそんなことをする必要があったの?私の力を封印するぐらいなら、私を殺せばよかったじゃない!」


私は叔父から語られる真実に耐えきれず抗議の声をあげた。


「お前は何もわかってないなぁ。兄貴が目障りだったのだ。地位も名誉も、力も。雨音のことだって手に入れて。ただ、先に生まれただけだろう。それなのに、なぜ私がこんな惨めな思いをしなければならなかったのか。私だって兄貴と同じ、いや、兄貴以上の能力を持っているのだ‼︎閤央を呼び出せないだけで、聖獣を扱えるのには変わりないのに!なぜみんな兄貴ばかりを大事にするのだ。なぜ雨音は私を愛してくれなかった‼︎ 」


叔父は何かに取り憑かれたように話を続ける。


「時雨、お前もそうだ。幼い頃から閤央を呼び出し精霊をも扱えるお前を、村人は神童と呼び、期待の眼差しを向けられていた。私が欲しかったものを、お前は何の苦労もなく手に入れていた!憎くてたまらなかった。」


叔父の目は血走り、何かに取り憑かれているのではないかと感じた。


「私が兄貴よりも先に生まれていれば、雨音だって私を愛してくれたはずだ。村人たちも私に期待をしてくれていたはずだ。」


叔父は胸に秘めていた思いを全て吐き出したようだった。

俯き自分の手のひらを眺めながら、唸るように笑っていた。


(この言葉、聞き覚えがある。夢でよく聞いていた。そっか、あれは叔父さんだったのか。)


優しかった叔父はすべて偽りだった。

私は何を見てきたのだろう。

こんな深い憎しみを抱えていた叔父の本音に気付くことができなかった。

私は自分が望んでいない役目に嘆いて、悲劇のヒロインのように振る舞っていた。

どうして私だけがと思っていた。

しかし、叔父もまた自分の望む道を選べずに苦しんでいたのだ。


(私はやっぱり何もできていなかった。色々なことに蓋をして、やるべきことから逃げていただけだった。)


ふっと、少し前に見た夢を思い出した。


『自分の役目を思い出せ。』


あぁ、あの言葉はこのことだったのか。

あの時感じた罪悪感。

それは、長としての役割を放棄して、自分の役目から目を背けていたものだった。

だけど、今さら後悔しても遅い。

このまま私は熱に焼かれて死んでいくのだろう。


「さぁ、安心して逝け。最期ぐらいは看取ってやるさ、優しい叔父さんがね。はっはっはー。」


目論見が成功した叔父は笑いながら、私の死を待ち望んでいた。


(苦しい、身体が燃えるように熱い。熱い…苦しい… 、………悔しい。)


意識がどんどん遠のいていく。


「うッ…がぁ…」


小さな呻き声が漏れたと同時に、叔父の高笑いは止まった。

その瞬間、私の身体の中から今度は何かが溢れ出す感覚が押し寄せてきた。

それはとても抑えきれるようなものではなかった。

しかし、この何かを解放してはいけないと、本能的に感じていた。

手放せば取り返しのつかないことになる。

しかし、もう一方で、この苦しみから楽になりたいという欲望も芽生えていた。


「我慢するな‼︎ 全て出し切れ‼︎ 後は俺たちがなんとかするから。」


そんな言葉が、どこかから聞こえてきたような気がした。

声の主は誰だか分からないが、『我慢しなくていい』その言葉に心が揺れ、誘惑に負けた私は、苦しみから、現実から目を逸らすように抵抗をやめた。

そしてそのまま、私の意識は途切れたのだった。


雨音あまね:時雨の母親

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