成人の儀
-Main story- 5-4
陽が昇る前のまだ薄暗い時間に陸が私を起こしにきた。
「時雨起きろ。朝食の準備ができたぞ。おい、起きろ‼︎」
陸に頬をペチペチ叩かれる気がする。
豪華なベッドに最初は寝れるか心配していたが、杞憂だった。
最高の寝心地でずっと寝ていたい。
ここ数日はまともに休めていなかったから、このベッドの誘惑に負けてしまいそうだ。
「今日は大仕事だろうが‼︎遅れないように、さっさと起きて準備しろって‼︎」
布団をガバっと剥ぎ取られる。
(あぁ…今日は成人の儀があったんだ。)
そう思いながらも、布団を取られた身体が少しでも冷えないよう、身体を丸めて温かさを逃さないようにする。
「これでも、起きないか。あっ!想輝様‼︎朝からどうしたんですか‼︎」
(想輝様が来た!?)
ガバっと慌てて起き上がる。
一気に眠気が吹き飛んだ。
しかし、あたりを見渡しても想輝様の姿はない。
不思議に思って陸を見上げる。
「やっと、起きたか。」
陸はニヤッと笑って、〝俺は天才だ。”っと得意げにしていた。
どうやら想輝様が来たと言うのは嘘のようだ。
陸のドヤ顔を恨めしく思ってしまった。
しかし、起きられた事は事実だ。
悔しいが、この状況は甘んじて受け入れるしかない。
「ほらガウン羽織っておけ、少し冷えるし。あと、色々と面倒だから。」
(色々面倒とはどういう事だろう?)
と、疑問には思ったが、冷えるのは確かだ。
大人しくガウンを羽織って寝室を出る。
「時雨様おはようございます。ゆっくり寝られましたか?」
空がいつものように朝の挨拶をしてくれた。
「おはよう♪時雨‼︎ あれっガウン羽織ってる。部屋着似合ってたから、明るい時にちゃんと見たかったのに。」
海が悪気なく部屋着について触れてきた。
そこでふと気づいた。昨日もガウンを羽織ればよかったのだと。
昨日のような思いをしない為に、ガウンの前がはだけないようにしっかりとまくしこむ。
空も部屋着の話が出てから、ソワソワしだしていた。
昨日の空の様子がおかしかったのは、どうやら私のせいだったらしい。
そして、先程陸がいっていた面倒とはこのことなのかもしれない。
これはさっさと着替えてしまう方が良さそうだ。
美味しいご飯を頂いてから、儀式用の服に着替え身だしなみを整える。
外からは会場に人が集まってくる気配がしていた。
もうすぐ、式典が始まるのだと実感が湧いてくる。
そして、いよいよ式典開始の間際となった。
外はまだ薄暗く、空気はひんやりとしていた。
私は気を引き締めて、昨日準備をした祭壇の前へと座り薪に火を焚べ、開始の時を待っていた。
しばらくすると、想輝様もやってきて、火を前にして座り準備を整えていた。
ゴーンと儀式開始の鐘の音がなり響く。
音に驚いた鳥達の羽ばたく音が聞こえただけで、その後は静寂に包まれていた。
厳かな雰囲気の中、大きく息を吸い意識を集中させ、私は祝詞を詠みあげる。
『この地を守りし、大いなる神・颯命樹神よ。祝詞を奏上いたします。
この度十八の年を重ね成人を迎えた想輝に神の祝福をお与え下さい。国を護り、民を導くことを使命とし、その命尽きる時まで使命を貫く事を心より誓い、その決意をここに捧げます。この誓いが長期に渡り遂行出来るよう想輝を厄災から護り、健全なる精神を、健全なる身体を想輝にお与え下さい。
日々の神の導き、見守りに感謝申し上げ、ここに祝詞を奏でさせていただきます。』
祝詞の間、パチパチと木が爆ぜる音が聞こえいた。
想輝様は、目を閉じ額に護摩木をあて、自分の願いや思いを護摩木に込めている。
祝詞が終わり、静寂の中、想輝様が持っていた護摩木を火へとくべる。
すると、天まで昇る勢いで、火が上がり、それを見た参列者は火の力強さに圧倒され、感嘆の声をあげていた。
成人の儀では、この火の強弱をみてその者の人生の吉凶を導き出すのだ。
想輝様の場合、火はとても勢いよく燃え上がっていたので、波乱の予感はあるものの、結果は必ず伴ってくるっという神からのお告げが届いたというわけだ。
想輝様が護摩木をくべて、火が轟々と上がったのを合図に、宴が開催される。
ここから私は、宴の間、火を絶やさないように見守り続けるのだ。
周りは無礼講で飲めや食えやの大騒ぎでとても賑やかだ。
そんな様子を眺めながら、私は火が消えないよう木をくべていく。
こんなに大勢の人があつまっているのは、想輝様の人柄の結果だろう。
そして天を見上げると、颯命樹神の聖獣が私の祝詞に応え、大空を飛び、想輝様の成人を祝ってくれていた。
成人の儀は、太陽の翳りとともに宴が終わり、神からの贈り物を受けとって終わりを迎える。
太陽の動きに合わせ、焚いていた火を徐々に弱めていく。
完全に火が消えたころに、灰の中から私が祈りを捧げた宝珠を取り出す。
この宝珠はずっと火の中にあっても、溶けたり割れたりしないのだ。
それが神秘的で、この宝珠は厄災を祓い、心身を守ってくれる神の力が宿っていること知らしめ、そんな宝珠を授かる事ができる人物は偉大であると、人々に認知させる為のものなのだ。
取り出した宝珠を、想輝様へと授ける。
「成人おめでとうございます。想輝様に神の御加護がありますように。」
想輝様は頭を下げ、宝珠を受け取り、誓いを口にする。
「命ある限り私は国を護り、民達を導き続けることを改めてここに誓います。」
そう想輝様が告げると、周りからは歓喜の声が上がった。
兵士達は拳を空にかかげて声をあげ、民たちは拍手喝采で想輝様の成人を祝っていた。
参列者それぞれが思い思いの方法で想輝様を祝福していた。
そんな彼らを見ていると、なんて素晴らしい日なのだろうと、しみじみと感じた。
そしてそんな素晴らしい日に私が色を添えれたことを嬉しく感じ、そして、そんな自分を誇らしく思えたのだった。
颯命樹神:木の神




