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想輝の恋心⁉︎

-Souki side-

執務室で仕事をしていると、何やら外が騒がしい事に気がついた。

何事かと思い、休憩も兼ねて声が聞こえる方へ足を運ぶことにした。

そこには祭壇など明日の儀式に必要なものがセッティングされていた。


(騒がしかったのは準備を進めていたからか。)


明日の主役は自分なのだと改めて気を引き締める。


「あとは、これをおけば、よし、準備完了‼︎」


聞き慣れた声が聞こえたので、そちらの方に視線を向けると時雨の姿があった。

越志が、式典準備の為に前日の昼頃から時雨が来ると言っていたのを思い出す。

以前、時雨を見かけた時は確か建国記念日の時だった。

その時の時雨と比べると随分と様子が変わっているようだった。

前回は、暗い顔で俯き、見るに耐えない笑みを顔に貼り付けていて、みていて鬱陶しく思うほどだった。


(だが…今日は笑っている。)


時雨は、楽しそうに生き生きとしていた。

時雨の周りを先代の長が引き連れていた仕斗が囲んでいた。

前回の式典の時にはいなかったはずだ。

導神族は成人を迎えた時が代替わりの時期だと聞いた事がある。

仕斗は長に仕える者達といっていたし、時雨に使役権が移ったのだろう。


(導神族の成人は確か15歳だったか。)


代が替わり、仕斗達と共に行動するうちに心境が変わった様だ。


(越志が言っていた通りだったな。ふん、面白くない。)


〝面白くない?”何故今自分はそう感じたのか。

人が前向きに成長していくことはいい事だ。

しかし、時雨が仕斗に笑いかけているのをみていると、モヤッとした感情が胸のうちに湧き上がってくる。


(この気持ちはなんだろうか。)


自分に問いかけてみる。

が、思い当たる事は何もない。

きっと仕事で疲れているのだ。

式典が間近でやらなければいけない事が山程あった。

呑気なやつをみて、きっと羨ましく思ったという所か。

訳のわからない気持ちに最もな理由をつけて頭の隅に追いやる。


とにかく騒音の原因は突き止めたので、部屋に戻ろうとすると、今度は越志と目が合ってしまった。

そして、越志は俺に向かい手を振ってきた。


(何か用事か。)


疑問に思い、越志がやってくるのを待つことにした。

しかし、越志がこちらにくる気配はなく、あろうことか俺のいる方へ時雨を誘導している様だった。


(今度は何を企んでいるんだか。)


ため息をつくと、時雨がさっきまでの笑顔とは一転しておどおどとした感じでやってきた。


「想輝様、こんにちは、ご機嫌いかががでしょうか。南の村の騒動では、手をかしてくださりありがとうございました。」


俺に、先日の騒動の礼をしてきた。

おどおどとはしていたが、前みたいな暗い印象は全く感じられず、単純に俺と話すのが怖いという様子だった。

やはり面白くない。

ここは大人の対応をする方がいいだろう。


「大したことはしていない。無事に収拾がついたようで、よかったな。里の方はどうだ?だいぶ落ち着いてきたのか?」


俺が気をつかい様子を聞くと、時雨は何故か頭を傾けていた。


「はい、里の方は少しずつ復興作業は進んでいます。お気遣いありがとうございます。」


改めて俺に礼をしてきたが、さっきの様子はなんだったのか。


「そうか、ならいい。では、私はこれで失礼する。後ほど、明日の式典の打ち合わせをしたい。後で部屋を訪ねる。」


先程の時雨の態度の意味はわからなかったが、今ここでゆっくりと話をしている時間は俺にない。

ふっと視線を感じ、そちらの方へ目線をむけると、越志がにやけた顔をしてこちらをみていた。


(全く何をあいつは考えているのか。)


越志は、時雨の事が絡むとしつこいぐらいに俺に絡んでくる。


(面倒だ。)


そう思いながら執務室へ戻り、溜まっている仕事を片付ける。


結構集中していたらしい、気がついた時には、すでに陽が傾きかけていた。


(時雨と明日の打ち合わせもしなければならない。)


キリの良い所まで仕事を済ませて時雨達がいる客室へと足を向ける。

客室へ続く廊下に差し掛かると、時雨が部屋の前で立ち尽くしていた。

風呂上がりなのだろうか、こちらで準備していた部屋着をきて、髪を簡単にまとめてあげていた。


「どうした。そんな所で立ち尽くして。中には入らないのか。」


俺に後ろから声をかけられ、驚いたのか時雨の肩がビクっと揺れていた。


「そ、想輝様、こんばんは。手厚いおもてなしありがとうございます。」


時雨が振り返って挨拶をしてくるが、その顔には驚きや焦りの様なものが浮かんでいた。


(ふん、やはり面白くない。)


しかし、馬子にも衣装という。

部屋着は、シルク生地で仕立てられている。

時雨が着ていてもそれなりには見られた。

さりげなく彼女を見ていると、柔らかな素材が身体にフィットしており、女性特有の丸みを強調していた。

時雨はいつの間にか子どもから大人になっていた様だ。

それに気がつき俺はなぜか動揺していてた。


(どうして俺は慌てているのだ。)


「そ、想輝さま⁇」


時雨に名を呼ばれふっと我に帰る。

返事を返さない俺をみて、時雨も慌てている様だった。


「あっ、あぁ、これぐらい普通だ。何か困った事があれば待機している侍女に遠慮せず言ってくれ。」


動揺が伝わっていないか心配だ。

時雨の方を直視できない。

なんだか今日の俺はらしくない。

気の利いた言葉はでず、ありきたりな言葉で誤魔化すしかなかった。


「明日の打ち合わせをしたくてきたんだ。中に入ってもいいか?」


部屋を指差して問うと、


「はっ、はい。もちろん、どうぞ。」


扉を開け、俺を中に通してくれた。


「空、悪いけどお茶を入れて…。」


時雨が仕斗の一人に声をかけるが、時雨の方をみた瞬間、大の大人が倒れてしまった。


「そっ、空大丈夫⁇」


倒れた男と、俺を見比べ時雨が慌てていた。

そんな中、もう一人の仕斗が俺に声をかけてきた。


「想輝様こんばんは。お見苦しいものをお見せしてしまい、すみません。明日の打ち合わせですか?我々はお邪魔にならないように、隣の部屋に下がっています。」


察しのいいやつだと感心しながら、一応、先程倒れた男の心配をする。


「医者を呼ぶか?」


隣の部屋を眺めながら時雨に問う。


「だっ、大丈夫だと想います。彼、昨夜寝ていないので疲れが出てしまったのだと思います。」


「疲れねぇ…。」

(面白くない。あれはきっとお前の格好をみて倒れものだろう)


っと俺は確信していた。


「?」


時雨は俺の様子が気になったのか首を傾げていた。


「いや、大丈夫ならいい。さぁ、打ち合わせを始めよう。」


俺は咳払いをし、なんでもないと手を振り、椅子に腰掛ける。

時雨も遅れないようにと慌てて椅子に腰掛けようとしていた。


視線が自然と時雨の首元に行く。

髪をまとめていているから、うなじが見えている。

白い肌だ。

日焼けした自分の肌とは違う。

眺めていると触れたいという欲望が湧いてきた。


(⁉︎ 俺は何を考えている。打ち合わせに来たんだ。目の前の事に集中しろ!)


自分を叱責し、打ち合わせに集中する。

成人の儀の大体の流れは俺も把握していたので、細かい手順などを確認する程度で打ち合わせはすぐに終わった。


「では、明日はよろしく頼んだ。」


つつがなく打ち合わせを終えた俺は、余談などもせず足早に客室を後にした。


自室に戻ると、どっと安堵感が押し寄せてきた。


今日の俺はどうしてしまったのだろうか。

女ならそこら辺に沢山いる。

時雨と比べ者にならないほどの容姿を持つ女なんか山程見てきているというのに。

時雨の部屋着姿を見て狼狽え、その上、触れたいと思ってしまった。

そう自覚した瞬間、昼間の越志のにやけた顔が浮かんできた。


「くそっ!」


壁に拳を打ちつける。なんだか腹が立ってきた。

俺は色々と考えることをやめ、食事までベッドで横になることにしたのだった。

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