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シルクの部屋着

-Main story- 5-3

私は、お風呂に入りにきていた。

浴場はゲスト専用の様で、私以外には誰もおらず、浴室を独り占めしてしまってはもったいないと思わせるくらいの広さがあった。

浴槽には檜が使われて木の良い香りが浴室内に充満していた。


「どこもかしこも豪華。」


私の独り言が浴室に響いていた。

お風呂の造りももちろん凄いのだが、髪や身体を洗う石鹸の質もよく、髪には艶が出ていたし、肌もツルツルになっていた。

お風呂の温かさで緊張していた気もほぐれて、心身共にいい気分になっていた。


あまりに心地良いお風呂に後ろ髪を惹かれつつも、私は部屋に戻る為に準備されていた部屋着に袖を通していた。


部屋着は、シルク生地で仕立てられていて、色は深みのある赤、袖や裾には細やかな刺繍が施されていた。

サラリとした質感は肌触り良く身体にピタリとフィットしていた。


(なんか服に着られている感じ。身体の線もはっきり出ちゃうし、恥ずかしいかも。)


部屋着姿を見られたくなく誰にも出会いませんようにと願いながら部屋に向かう。

運よく誰とも出会う事なく部屋の前までこられたのだが、今度は仕斗に見られるのが恥ずかしいと感じ、部屋に入るのをためらって扉の前でモジモジしていた。


「どうした。そんな所で立ち尽くして。中には入らないのか。」


急に後ろから声をかけられ、ビクッと身体が跳ねる。

声のほうへ振り向くとそこには想輝様がいた。


「そ、想輝様、こんばんは。手厚いおもてなしありがとうございます。」


どうして想輝様がいるのだろうか。

突然の現れに動揺しつつも、至れり尽くせりのもてなしに感謝の気持ちを伝えたのだが、想輝様からの返事が返ってこなかった。

ただ私を見て立ちつくす想輝様に、何か失礼な態度をとってしまったのかと、今度は別の意味で慌ててしまった。


「そ、想輝さま⁇」


もっと違う挨拶の仕方の方が良かっただろうか。

恐る恐る私が呼びかけると、想輝様はハッとした表情を浮かべていた。


「あっ、あぁ、これぐらい普通だ。何か困った事があれば待機している侍女に遠慮せず言ってくれ。」


想輝様の口調は穏やかで気遣いを感じたのだが、視線は逸らされ、明らかに私を見ようとしていなかった。

どうやら私を見るのも嫌なぐらい嫌われている様だ。


「明日の打ち合わせをしたくてきたんだ。中に入ってもいいか?」


想輝様は視線を逸らしたまま部屋を指差していた。


今度は私がハッとする。

そういえば昼間にそんな話をしていた事を思い出す。


「はっ、はい。もちろん、どうぞ。」


廊下で皇子を立たせたまま話をするなんて失礼極まりない事だ。

私は慌てて扉を開けて、想輝様を中に通す。


扉の開く音で振り向いた空と視線が合ったので、お茶出しをお願いする。


「空、悪いけどお茶を入れて…。」


しかし、私が最後までいい終わる前に、バタンと大きな音をたて空が倒れてしまった。


「そっ、空大丈夫⁇」


床に頭を打ちつけた空の心配と、想輝をもてなさなければと言う思いが交錯し、二人の顔を見比べながら私はパニクっていた。

そんな私の様子を見かねた陸がフォローに入ってくれた。


「想輝様こんばんは。お見苦しいものをお見せしてしまい、すみません。明日の打ち合わせですか?我々はお邪魔にならないように、隣の部屋に下がっています。」


陸は海にお茶を入れるようにと告げ、空を担いで隣の部屋へ行ってしまった。


「医者を呼ぶか?」


想輝様は、隣の部屋を心配した様子で眺めていた。


「だっ、大丈夫だと想います。彼、昨夜寝ていないので疲れが出てしまったのだと思います。」


「疲れねぇ…。」


想輝様が何やら意味深に呟いていた。


「?」


私は想輝様の様子に首を傾げる。


「いや、大丈夫ならいい。さぁ、打ち合わせを始めよう。」


想輝様は、咳払いをし、なんでもないと手を振り、椅子に腰掛けていた。

私も慌てて、想輝様の向かいに腰を下ろす。


成人の儀の大体の流れは想輝様も把握していたので、打ち合わせというよりは、細かい手順などを確認する程度で話はすぐに終わった。


「では、明日はよろしく頼む。」


そう告げると、想輝様は部屋を後にした。

パタンと扉が閉まると、やっと息を吸える心地がした。


(ふぅ…緊張した。)


どうも想輝と話をするのは緊張する。

皇子だから萎縮するとかそんな感じではなく、上手く説明できない何かの圧を感じるのだ。

想輝様が出ていった後、今度は、トントンと扉を叩く音が響いた。


「はっ、はい‼︎」


完全に気を抜いていたので、ノックの音に驚き、声が裏返ってしまった。


「お食事を持ってきました。中に入ってもよろしいでしょうか?」


女性の声が聞こえてきた。

先程部屋を案内してくれた人だろうか。


「どうぞ。」


私が返事をすると、扉が開き、豪華な食事が沢山運ばれてきた。

侍女は手際よく配膳を進めていき、あっという間にテーブルの上のは豪華な食事がずらりと並べられていた。

目の前の美味しそうな食事に目を奪われていると、ぐぅーとお腹がなってしまった。


(お腹も空いたし、仕斗を呼んでこよう。)


空の様子も見がてら、食事の時間になったと伝える為に、侍女が下がるのを待ってから、隣の部屋にいる仕斗を呼びに行く。


「夕飯の時間よ。空、大丈夫?」


扉をノックし声をかけてから、部屋の中を覗きこむ。

すると空がハッとした様子でこちらに振り向いた。


「だっ、大丈夫です。時雨様、お見苦しい所をお見せしてすみません。明日、想輝様にも謝罪しなくてはいけません。」


そう告げた空の顔は、いかにも申し訳ないという感じで眉と口角は下がっており、自分の失態に肩を落としていた。

そして、チラリと私の様子を伺うものの、また、サッと視線を逸らしていた。

空がなぜそのような態度をとるのか私にはわからなかった。

しかし、陸は思うところがあるのか、


「はぁ…」


っと、頭を抱え盛大にため息をついていた。


「服似合ってるよ♪」


のほほんとした海の声が、その場の妙な雰囲気を明るいものに変えてくれたが、今度は、私が、部屋着姿を恥ずかしく思っていたことを思い出させた。


「服に着られちゃってるけどね。さっ、夕ご飯をいただきましょう。」


私は照れ隠しに、仕斗にクルリと背を向け、隣の部屋へさっさと戻ることにした。


その後、みんなで豪華な食事をいただいたくことになった。

しかし、その場には、いつもの様な食事の賑やかさはなく、ぎこちない雰囲気が流れていた。

私は、恥ずかしさの方が先にたってしまい、食事をゆっくりと楽しむ事が出来なかったし、空は私の方を見ないように常に視線を漂わせていた。

陸は、私と空の顔を眺めてはため息をつき、渋い顔をしながら食事をしていた。

そんな中、マイペースを崩さない海だけが、豪華な食事をしっかり堪能していたのだった。

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