越志と想輝
-Etusi side-
「失礼致します。越志です。只今戻りました。」
南の地での騒動の報告をするために私は、想輝の執務室を訪ねていた。
「想輝様、南の地で起こった騒動について報告いたします。」
皇子である想輝に向かい、額に手を当て敬礼をとる。
想輝は机に向かい仕事をしていた手を止め、座ったまま私の方へ顔を向けた。
「今回、化け物といわれ、暴れていたのは、南の祠に祀られている熾閃煌の使い聖獣狼鷲の仕業でした。導神族の長、時雨様の協力を得て、事実確認および、事態を収拾することができました。」
まずは、結果を報告する。
「あの時雨が事態を収拾か…。」
想輝は疑いが混じった声でつぶやいていた。
「はい。時雨様のご活躍でした。主人を蔑ろにされ、その上、事件が起こり、聖域を血で汚されたと狼鷲が激昂しておきた事でした。」
私は淡々と報告を続けていく。
「時雨様が主体となり現状の鎮圧を行ってくださいました。今後、南の祠を社にすることを条件に、その地に村人達を住まわせることの許可を狼鷲にとり、その場を収めていました。」
時雨の毅然とした態度を想い出す。
時雨があんな態度が取れるとは正直思っていなかった。
「色々といざこざはありましたが、村人達も改心したようで復興作業をしておりました。」
ここまで喋り終えると、想輝が口を開く。
「今は、お前と2人しかいない。いつもみたいに砕けた口調でいいぞ。」
想輝は椅子に体を預け、身体の力を抜いていた。
想輝とは幼い頃からずっと一緒に行動している旧知の仲だ。
仕事の時は線引きをして、皇子の家臣として接するようにして、いつも規律を正していた。
「じぁ、お言葉に甘えて。時雨、しっかりと長の務めを果たしていたよ。人の目を気にしながらオロオロしてた子供が、しっかりと現実と向きあえる娘になってたよ。」
今度は、建国記念日に式典を行なっていた時雨の様子を思い出す。
「この前の建国記念日の時とは、だいぶ雰囲気が変わっていたな。聖獣や仕斗が一緒にいたから何か心境の変化でもあったのかもな。」
ふっと想輝をみると、なにやら複雑そうな顔をしていた。
その想輝の様子が、私のイタズラ心に火をつけた。
「想輝が自分で行けばよかったのに。」
想輝は時雨を嫌っているように振る舞っているが、実は、気にいっているから冷たい態度を取っているのではないのかと、私は思っている。
幼い頃、滅多に笑わない想輝が、時雨にだけはよく微笑んでいたのが印象的だった。
「俺は明後日に行われる式典の主役だ。やらないといけないことは、山程あるんだぞ。出歩いてる暇はない。」
とは、言いつつも想輝はやはり気にしてる様子だ。
「本当は自分で対処しにいきたかった?」
私は想輝の顔を覗きこみ、おどけた感じで言ってみる。
「勝手にいってろ。」
想輝はフンっと顔を背け、つっけんどんな態度をとっていた。
「全く正直じゃないんだから。まぁ、明日の昼頃には宮中入りするだろうし、すぐに会えますよ♪」
もう一度おどけてみると、想輝はじろっと無言で私を睨みつけてきた。
私は、想輝の態度に降参だっというように両手をあげる。
「あぁーこわいこわい。じゃあ、報告はこんな感じだ。」
(からかえて楽しかったし、そろそろ気持ちを切り替えるか。)
「では、想輝様何か御用がありましたら、お呼びください。」
胸に手を当て一礼をしてから部屋をでる。
扉が閉まりかけた時、部屋の中から想輝の盛大なため息が聞こえてきた。




