狼鷲の怒り 前編
-Main story- 4-3
閤央が月明かりを頼りに夜空を目的地に向かって颯爽と駆けていく。
高所恐怖症の陸は、出発してからずっと私にしがみついたままだった。
「時雨すまん。」
後ろから、陸のか細い声が聞こえてきた。
「気にしないで。私は全然大丈夫だから。」
陸にはいつも助けてもらっているから、頼ってもらえるのは日頃の恩を返せているようでとても嬉しいのだ。
しばらく飛んでいると遠くの方に一部分、明るい場所があった。
「ゴウちゃん、もしかしてあそこの明るい場所が火の上がってる所?」
『おそらくな。』
確か狼鷲の姿は、狼の身体から鷲の羽が生えてたような姿をしていたはずである。
その姿を思い浮かべながら、颯真さんの応対中にも浮かんだ疑問を閤央に投げかける。
「何で聖獣である狼鷲が暴れているんだろう?」
『狼鷲は火の神、熾閃煌に仕える聖獣だ。奴は直情的な所があるやつでな。一度感情が爆発すると手がつけられん。何か気に触る事があったのかもしれないな。気が昂ぶっている狼鷲の相手をするのは厄介だ。』
今はまだ本当にやつの仕業かはわからんがなっとつけ加えた。
『少し手前で降りるぞ。』
村に一番近い森の中に少しひらけた場所をみつけて、そこに降り立つ事に決めたらしい。
閤央は旋回しながら速度を落とし少しずつ下降していく。
「はぁ、やっと地上だ。」
地上に降りたった陸はすでに疲れ果て、頭をうなだれぐったりしていた。
短時間の間で少し頬がこけたようにみえる。
「ぐるぅー。」『へばるにはまだ早い。ここからは走るぞ。』
閤央は狼の姿にもどると、再び私を背に乗せて走り出す。
「おい⁉︎もう行くのか‼︎少し休ませてくれよ。」
陸は急に走り出した閤央に向かって、“勘弁してくれよ。“っと涙目になりながらも、追従していく。
閤央は木々を避けながら疾走していく。
シュシュと移り変わる景色の先に、兵士達の陣営がみえてきた。
その中に見知った後ろ姿をみつける。
「越志さん!」
少し離れた場所から叫ぶように声をかけると、越志さんが振り向いた。
「時雨‼︎来てくれたか。早い到着だったな。見ての通りこの有り様だ。村人達も何やら歪みあっているみたいでな。」
越志さんに顎で促された方をみると、二極化された集団が互いを睨み合っていた。
真ん中に兵士が立ち、互いに手を出せないように距離をとらせ、仲裁に入ってくれている。
仲裁の兵がいなければ、今にも相手に飛びかかり喧嘩が始まりそうな剣幕だった。
(こんな状況で何をしているの?)
目の前には轟々と炎が上がっていた。
国の兵士達が熱さに耐えながら消火活動をしているなかで、彼らは何を歪みあっているのか。
私の中に怒りが沸々と湧き上がってくるが、今は必死に堪える。
とりあえず、彼らのことは後回しだ。先にこの炎を収めなければならない。
「ゴウちゃんやっぱり、狼鷲の仕業なの?」
閤央の背から降り燃え盛る炎をみつめる。
『あぁ、間違いないだろう。時雨、呪札を使って火を消してみろ。』
呪札の使い方を思い出す。
札には、星の形が中央に描かれ、その星を円で囲った陣と呼ばれる図形が描かれている。
線は呪札に念が馴染むように、特殊な手法で作った墨で描かれていて、札も全て手作りで丹精を込めて作り上げたものだ。
この呪札に念ずると、紙が念じた通りに動き出すのだ。
陣はすぐに使えるようにすでに札に書いてある。懐から出した呪札を、人差し指と中指で挟み、目を閉じ額に当てると描かれた陣がひかりだす。
(火を消して。)
念じると火に向かって呪札は飛んでいき、炎の勢いが少しおさまった。
しかし、狼鷲の雄叫びと共に炎の勢いがもどっていく。
『さて、どうするか。事情を訊くなら狼鷲にきくしかないだろうな。』
閤央は呆れた顔をして、歪み合う村人達をみやる。
『こいつらも変わっておらんのか。』
閤央は、昼の出来事を思い出し落胆している様だった。
私も炎の事など気にせず睨み合っている村人達に目を向ける。
「事情を訊く為にも、狼鷲の元に行く為の方法を考えないと。」
燃え盛る炎の中、どうすれば狼鷲の元へ辿りつけるのだろうか。
辿りつけたとして、どの様にしたら話し合いの場を持てるようになるのだろうか。
方法を考えていると、閤央が口を開いた。
『方法ならあるぞ。時雨、封印の術は使えるか?』
封印の術とは、対象者の足元に描いた陣と呪札の力で相手の能力を押さえ込む術。
この炎の中で陣を描くのは難しいだろう。
「使えると思うけど、足元に陣を描かないといけないでしょ?」
炎に加え狼鷲が暴れているのだ。
私が近づけた所ですぐにやられてしまうのが目に見えている。
『行けるのがいるだろう?』
閤央がニヤリと笑い、陸の方へ顎をしゃくる。
「?」
陸は閤央の視線を感じ、何の話だっと首をかしげていた。
この炎の勢いでは、流石の仕斗でも無事では済まされないだろう。
「いやっ、いくら陸でも炎の中は無理だよ。」
私は慌てて閤央に異を唱える。
下手したら死んでしまう。
『何も生身でいけと言ってるわけではない。呪札を使い炎から陸の身を守らせる。』
私は、“その手があったか。“と目からウロコが落ちた。
『そして、狼鷲に悟られぬように、地面に陣を描かかせるのだ。陸が炎から脱出したのち、封印の術を使えばこの炎を鎮火させることができる。』
確かに、それなら上手く炎は抑えきれそうだ。
『私は少しでもこの炎の威力を抑えこみ、陸が無事に狼鷲の元に辿りつけるよう尽力しよう。』
名案だろうっと閤央は鼻を鳴らし得意気だ。
力が使えなくなれば狼鷲も少しは落ち着きを取り戻し、話し合いができる状況になる。
そうすれば、全て解決すると閤央は言う。
閤央と立てた作戦を陸と越志さんに伝える。
「どうしていつも俺なんだ。海だってさっき出番がなかったって拗ねてただろう。海にやらせればいいだろうが!」
そう文句をつけながらも、陸は呪札を貼れるように私の方へ背をむけていた。
文句を言いながらも、ちゃんと手をかしてくれる彼には感謝しかない。
陸が炎に飛び込む前に、私は越志さんに伝言を頼む。
これだけの炎から陸の身を守る為には術に集中しなければならない。
他ごとに意識を向ける余裕はないだろう。
「越志さん、しばらくしたら私に仕えている、海斗と空斗という者がくると思います。彼らに伝えてください。村人達の対応をしてほしい。手荒な真似をしてでも彼らをどうにかせよ。ただし命までは奪うなと。二人が来るまではお手数ですがこのまま村人達のことをよろしくお願いします。」
わかったと、越志さんは私の頼みを快く引き受けてくれた。
手荒な真似をしてもいいだなんで、自分でこんなことを言うとは驚きだ。
陸も私からこの様な言葉がでてくるとは思っていなかったようで驚いていた。
一方で閤央は、私に優しい眼差しを向けてくれていた。
「グルゥー。」 『さぁ、狼鷲を止めに行くぞ。』
閤央の雄叫びを合図に動き出す。
「陸、作戦を実行するわよ‼︎」
私は陸の背中に防御を念じた呪札を貼りつけ、閤央は聖獣の力で炎の威力を弱め始めてくれた。
「気をつけてね陸。呪札を通じて私もあなたのサポートするわ。」
陸は力強く頷くと炎の中へと飛び込んで行った。
「ご武運を‼︎」
越志さんも炎に向かう陸を気にかけてくれていた。
熾閃煌:火の神
狼鷲:火の神 熾閃煌の使い




